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群青の国のアリス  作者: ラナ
第四章   姫を陥すのは
23/36

故郷はいずこ ―ひとりぼっち―

 

 『かーえーでっ』


 『何、ありす』


 『今日は一緒に帰れる?』


 『ああ。ごめんな? 昨日まで翠華とのことで色々立て込んでてさ』


 『しょうがないよ、ふくそーちょーなんでしょ?』


 『あはは、なんで片言なんだよ。副総長、な』


 『翠華って強いの?』


 『まあ、そこそこ。俺らの次くらいかな』


 『ありす!』


 『あれ、お姉ちゃん?』




 振り返った一瞬のうちに。


 目を閉じた一瞬のうちに。


 


 艶のある髪も、


 優しい瞳も、


 私を呼ぶ声も、


 






 すべて、消えてしまっていた。





     *・*・*・*・*





 目を開けると、体中が汗でじっとりと湿っていた。

「嫌な夢……」


 死んで(ころされて)しまった、大好きだった人――


 楓は、まだ私の中の「恋人」の椅子に居座っている。

 簡単に出て行ってなんてくれないんだ。


 だから、メアリアンに言われた時はシルバを誘うつもりなんてなかった。


 それなのに、本人を目の前にするとそんな気持ちも簡単に崩れてしまって。




 私はまだ(もう)、揺れている。




「ありす、入っていい?」

「? どうぞ」

 入ってきたのはティオだった。

「珍しいね、ここに来るなんて」

「ちょっと、ありすに訊きたいことがあってさ」

「どうしたの?」

「ありすって、ひとりっ子?」

いきなり何を言い出すんだ、この子は。

「違う、と思う。たぶん」

「は?」

 ティオが怪訝そうな顔をした。そりゃそうか。



「私、実の両親がいないの。拾われた子だから」

「拾われた……?」

「7歳のときかな。3つ上のお姉ちゃんと一緒に拾われたんだけど、それより前の記憶ってほとんど残ってないの。だから、お姉ちゃんが本当に私のお姉ちゃんだったかどうかは分からない。7歳にもなって、記憶がほとんどないなんておかしいでしょ?」


 そこからは速かった。

 

 長い滑り台のように。


 もう、戻れない。


「私とお姉ちゃんは、顔は全然似てなかった。でも、同じ歳の時の写真で比べるとそっくりなのよ」

「同じ歳の写真?」

「例えば、小学校の卒業式の写真。それぞれの12歳の時の写真同士で比べるとよく似てるってわけ」


 だから、妙な連帯感を覚えた。


「能力も、結構違ったの。私が出来ることの中に、お姉ちゃんが出来ないことなんて何もなかった」


 だから、すごい劣等感を感じた。


「ある意味自慢のお姉ちゃんだった。優しくて、綺麗で、何でも出来て。でもね、時々変なことを言うお姉ちゃんだったわ」

「変なことって?」



「『あなたは、いつか私と故郷に帰るのよ』って」



 そういう時のお姉ちゃんは、どこか遠いところを見ているような目をしていた。


「だから、正直ちょっと心配してたの。いつかおかしくなっちゃうんじゃないかと思って」

「仲……よかったんだね」

「そうね。そうかもしれない」






 私の愛する、憎い憎いお姉ちゃん。


 私を守るために、私を壊したお姉ちゃん。


 私をいつか連れて帰るために、私の大事な人を殺したお姉ちゃん――――。







「まさか、本当におかしくなっちゃうなんてね。

 楓を殺して、翌日には自分も消えちゃうなんて……」









 残された私は、ひとりぼっちだった。

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