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群青の国のアリス  作者: ラナ
第三章   姫を庇うのは
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お客様 ―乗せられ尋問―

 二度目に目が覚めたとき、私は自分の部屋のベッドの上にいた。シルバが部屋まで運んでくれたらしい。それはいいのだけど――


「なんであんたがここにいるのよ?」


「えー? ありすがオレに会いたがってそうだったから?」


 今私の目の前には、額に角を生やしたあいつが立っている。


「なんてね、嘘ぴょーん」

「久しぶりに聞いたわ、そんな接尾語!」

「本当はね?」

「何?」

「知りたい?」

「……まぁ。不法侵入だし」

「どーうしても?」

「別にそこまでではないけど」

「しょうがないなあ、教えてあげようじゃないか」

「勿体ぶっといて結局言いたかっただけか!」


「そろそろ、ありすがオレになんか訊きたがってるんじゃないかなっと思って♪」


「ふえ……」

「なんかあったでしょ、最近」

「最近って、そもそもここに来たのが最近だけど」

「ちっがーう。わかんないかなぁ。ほら、長い耳の侵略者(お客さん)に会わなかった?」

「長い耳? 白うさぎさんのこと?」

「ピンポンピンポーン。どう、ちょっとは気になるでしょ?」

「んー、まあ確かにね。また来るかもだし」

「よかったぁ。ありすってば淡白だからさ、こうやって訪問でもしなきゃオレの仕事無いんだもん」

「何よ、それ」

 少なくとも褒めているようには聞こえなかったけど。



「で、何から訊きたい?」

 何からとか言われても、正直よく分からないし。

「とりあえずプロフィールをば」

「御意」

 ロストはどこからか紙の束を取り出し、颯爽とインテリ眼鏡を装着してそれを読み始めた。



「本名コール=アルベニス。銀朱の国の“時計兎”の家系出身で、現“時計兎”。年齢は19。身長175㎝、体重63㎏。家族は父・故母・元弟。趣味は読書。好きな食べ物はパウンドケーキ。好きな四字熟語は女王万歳。好きな異性のタイプは――――」


「待て待て待て」


 超弁舌爽やかなロストを必死で止める。

「え? まだ資料結構あるのに」

「プロフィールごときに気合入れすぎなのよ! 家族構成まではともかく、四字熟語のくだりとか明らかにいらないでしょう! しかもなんだ女王万歳って!」

「ありす……君は何をもって要るだの要らないだのを判断出来るんだい……?」

「変にシリアスな雰囲気作らなくていい! いいこと言ったように見えて何かが違うからね!」

「ちっ、押し切れると思ったのに」

「うん、なんでそう思ったのかしらね」

「まぁいいや。次は……」

「ストップ。質問のターン入りたいでーす」

 別名ツッコミのターンとも言うけどね!

「オーケー。やばい、ちょっとオレ今役持ちっぽくない!?」


 見当違いの自画自賛はスルーして質問開始。

「名前はとりあえずいいとして。銀朱の国では役持ちは世襲制なわけ?」

「ん? 群青の国も基本的には世襲制だよ?」

「ええ!?」

「あれ、聞いた事無かった? おっかしいなぁ、その辺はシルバが言っとくべき事なんじゃ……」

「じゃあ、ロストのお父さんは一角獣?」

「オレの場合はおかーさんが一角獣」

「基本的にはってことは、そうじゃない役持ちもいるのね?」

「今は家系でなったんじゃない役持ちはティオとシルバだけかな」

「シルバも違うの?」

 

 ロストが、不自然に口角を吊り上げた。


 綺麗な銀髪がさらりと音を立てる。


 まるで、「引っかかった」とでもいうように。


「訊いちゃったね、ありす」

「な、何……」

「オレはあくまで裏の案内人。表の案内人と違って、この国に関して“アリス”に訊かれたこと以外は教えられない。

 ただし――――




 “ ア リ ス ” を 誘 導 し て 、

 自 分 が 言 い た い 答 え を 導 か せ る 質 問 を さ せ る 事 は 、

   

     可  能  」




 壊れた人形のように、乾いた笑いを漏らす“一角獣”。


 整いすぎた顔が、一層怖さを上乗せしている。


「いいよ、答えてあげる。シルバは、さっきの話に出てきた()弟だよ」





「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで()? そもそも、なんでロストがそれを私に……?」


「シルバは、三年前――先代の銀朱の国の“アリス”が亡くなった時、つまりあの国で役持ちの世代交代があった時、アルベニス家から勘当されたんだ。そして群青の国へ来て、この国の先代の“アリス”が亡くなった時、たまたま子孫を残せなかった先代の“時計兎”の跡を継ぎ、“時計兎”になった」


「なんで……」


「ありすは知らないだろうけど、銀朱の国は異常なくらい伝統を重んじる国なんだ。それはいいことでもあるけど、同時にたくさんのものを失い、たくさんの人を傷つける。その一つが、役持ちへの差別」


 そこでロストは一度言葉を切った。


「銀朱の国では、“女王”は首切りが好きでなくちゃならない。


 “帽子屋”はイカレていなくちゃならない。


 “三月兎”は阿呆でなくちゃならない。


 “眠りネズミ”は常に寝ていなくちゃならない。



 それと同じように、“時計兎”は、白い耳に赤い目でなくちゃならない」




 シルバの姿を思い出す。


 藍色の髪に藍色の瞳、黒い耳。

 



「シルバは、銀朱の国の“時計兎”にふさわしくないってこと?」

「ご名答」

「でも、だからって勘当まで……」

「ちっちっち」

 ロストがわざとらしく指を振ってみせる。

「甘いね、ありす。もし、兄のコールが不慮の事故で死んだら、誰が次の“時計兎”になる?」

 コールの家族は三人。つまり、弟は一人。

「シルバ?……あ」

「わかった? さすが、ありす」


 黒いうさぎが“時計兎”になる事を未然に防ぐために、先に芽を摘んだんだ。


「おっと、もうこんな時間だ。後ろの質問は、今は保留。いつか、また話すかもね?」

「え、ちょ……」

「ありす、顔疲れてる。もう今日は寝な」

「まだ私起きたばっかりなんですけど」

「いいから大人しくおにーさんの言うことききなさい」

 ふっと優しく微笑んだかと思うと、ニヤリと嫌らしい笑いを残してロストは窓から飛び降りた。


 役持ちの人って、窓から落ちても大丈夫なんだろうか。

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