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ポチと陽葵  作者: 黒楓
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第二部 不都合な子供たち  ⑳ りんごのきもち Ⅱ

「もったいないって! あの、どういう事でしょう?」


安岡くんの“お母さん”が発した言葉の意味が私には本当に分からなくて思わず聞き返していた。

その私の後ろでは……きっと私の言葉の行き過ぎを注意をしてくれているのだろう……マーちゃんが私のニットの裾を軽く引っ張っている。


そんな私達の様を(さまを)気にも留めず、“お母さん”はお茶の用意を始めたので

私は言葉を足した。

「気持ちには『高い』『安い』は無いと思います。自分があげたいと思ったのなら」


“お母さん”は手を止めず、私に目もくれないまま言葉だけを返して来る。


「相応しいものを探す努力こそが“気持ちを示す”ってことじゃないかしら。

あなたは女の子らしい感性で……

こんな可愛らしいものを選んでくれたのでしょうけど……

これを買う為のお金はあなたのご両親が働いて得た物よ。 

例えばこのお金を稼ぎ出す為に、あなたのお母様はスーパーでのパートをどの位こなさなければならないか考えた事はある? 

私からすれば隆一があなたにプレゼントしたリンゴだって()()()()()()()ってところよ。

あなたのお返しは……いただいておいてこういう事言うのは申し訳ないけれど

度が過ぎている」


そんなことを言われたら!!

私達子供は何ができると言うの?!

高校生になって、バイトする様になったら、何かできるの?

いや、それだって親が衣食住を提供してくれるからできる事!!

じゃあ働き出して独立したら?? 

でも働ける“人”としての基礎を与えてくれたのは親だから……

生涯、親の許可がなければ何もできなくなるじゃん!! 

でもそれは違うよね!!

それに親だって、()()()からそういったものを“与えられ”て大人になったのだから……


あっ!

違う! 

“お母さん”はさっき、“新しいご家族”の為には「それは本当に嬉しいわ」って言った……


だから『度が過ぎている』って言葉は、私を言い包めようとしてる方便だ!



「“摘果”だからですか?」


そう言うと“お母さん”は始めて手を止めた。


「てきか?」


その言葉を知らないはずはないのに!!

私は気色ばんだ。


「安岡くんが不都合で……摘んでしまう実だから!!」


「陽葵!!」マーちゃんが声で制したけど私は聞かなかった。


「……だから!安岡くんには無駄でもったいないの?!!」


その私の言葉の途中でも“お母さん”は紅茶の茶葉の入ったガラスのポットにお湯を注いでいた。

ポットの中の茶葉が上へ下へと踊るのを見ながら“お母さん”は独り言のように呟いた。


「こどもなんて突き詰めれば無駄な事よ……」


そして私にではなく、おそらくマーちゃんに話し掛けた。

「子供を育てる事は大変な労力。ままならない事も多い。それを無駄とか……その労力がもったいないとか言っていたら何もできないでしょうね」


マーちゃんは一瞬考えて言ってくれた。

「娘が……お母様に対し大変失礼な事を言ってしまい申し訳ございません。ただ、この子は……陽葵は……自分の行為が無駄でもったいない事だとしたら、とても悲しく思っているだけなのです」


ポットを見つめる“お母さん”は薄く微笑んでいる。

でも、私はその微笑みに“体温”が感じられなかった。


「あなたが隆一を思ってくれたのはとても嬉しいのよ、私の大切な子供だったから……」


「だった?!」


グッ!と見据えて訊ねても“お母さん”は視線を動かさない。


「そうでしょ? もう居ないのだから」


それから“お母さん”は目を閉じて注ぎ口から立ち込めている紅茶の香りを確かめた。

事も無げに……


「うん……いいわね」


そうやって3つのカップに紅茶を注いで私達に勧めた。


その紅茶の果物や花に似た華やかな香りと穏やかな味が私の心に染みてゆく。


ふと“お母さん”の手元を見ると……右手はフォークで“お菓子のメロン”を割っているけれど左手はまた、()()()ようにお腹をさすっている。


私には赤ちゃんがいるようにはとても見えないのだけど……先程とは明らかに色の違う微笑みをたたえている“お母さん”にはお腹の中の赤ちゃんの“存在”が分かるのだろうか? 


そうだとしたら……


“銀河鉄道に乗って”行ってしまった安岡くんは……

かつては()()()()()をして“お母さん”の胸に抱かれていたのに……

その“存在”を“お母さん”から感じてもらえる事はもうないのだから……

悲しすぎる……


胸の中で想いが溢れて……

私の右の目尻にポチンと涙粒が出来たので

顔を背けて目をしばたたかせたら

マーちゃんがハンカチで押さえてくれた。


「この“お母さん”の言葉を安岡くんが聞いたらどう思うのだろう??」


想像しただけで涙がまた溢れてしまって……今、マーちゃんを心配させてしまっているけれど……


もしマーちゃんのお腹に赤ちゃんができたとして……

私が“今”より愛されなくなったとしても……

私は……

それは他人の子と実の子の違いとあきらめもつくけれど……


同じ兄弟でこんなにも温度差が出来てしまうのは

いったいどういう事だろう……


私は“お母さん”の心を測りかねて……

自分の目の前に置かれたお菓子に手を付けられないでいた。




。。。。。





イラストです。



安岡梓(お母さん)



挿絵(By みてみん)



少女の顔を持つ毒母って難しく、上手く描けません……(-_-;)


                  by しろかえで



2025.1.9 更新



挿絵(By みてみん)




描き直しました(ラフですけど)



                 by しろかえで




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