第二部 不都合な子供たち ⑲ りんごのきもち Ⅰ
マーちゃんとの“グラモデート”中にそれを見つけた。
ショーケースに並べられたアートのような上生菓子たち。
そのいくつかは、まるで果物そのもので……
みかんなどは皮を剝いた中の実に白いすじまで入っていた。
でも私の目を一番引き寄せたのは赤と黄色のグラデーションが美しい“お菓子の”りんごだった。安岡くんのくれた真っ赤なりんごとは色目が異なるけど……こういう感じも素敵!
ここで私はハッ!と思いついた。
「ねえ、マーちゃん! お年玉使っていい?」
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「はい、そうなんです。クリスマスプレゼントを安岡くんからもらっていたんです。お返しをできないままになってしまって……はい、では、水曜日に。母とお伺いいたします」
マーちゃんは、安岡くんのお母さんとの電話のやり取りをずっと心配そうに聞いていたが、やっとその緊張の糸を解いたようだ。
「キチンとお話できた?」
「うん」
「良かったね。じゃあお店に電話して、さっき選んだ和菓子を水曜日に受け取れるよう予約しましょう。こういう事は大人の役目だから」
そう言いながらマーちゃんはお店に電話してくれた。
さて、水曜日当日
マーちゃんはグリーンのタートルネックニットとライトグレーのテーパードパンツ、上に薄手だけどカシミアのライトグレーのコート。
私は薄いブルーグレーのフリルネックのTシャツにオフホワイトのニットプルオーバーを重ね着し、ふわふわのティペットを巻いて濃紺のコートを羽織った。
途中で“グラモ”の和菓子屋さんに寄り、商品を受け取ると駅の反対側へ出てマーちゃんのパート先のスーパーの横を抜けて安岡くんの家を目指した。
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「おもたせで恐縮ですが……」と安岡くんのお母さんは和菓子の蓋箱を取った。
目の前の身箱には内箱に入った8つの和菓子が納まっている。
「まあ!きれいね 8つ?」
「はい、皆さまと……『仲良くしてね』っておっしゃっていた“新しいご家族”にも届けばと……」
「それは本当に嬉しいわ」
そう言って“お母さん”はまるであやすようにお腹に手をやって微笑んだ。
「あの、お願いがあるんですが……」
「なあに?」
「この中のりんごのお菓子を安岡くんにお供えしたいんです」
「いいけど、どうして?」
「はい。クリスマスイヴの日、安岡くんから大きくてとてもきれいな真っ赤なりんごを貰ったんです。 母が飾り切りにして、みんなでいただきました」
そう言って私はスマホをタップして“お母さん”に、その写真を見せた。
「まあ、あの子ったら! こんなつまらないものをプレゼントしたの?」
……!!そんな!! これは彼の心で心臓なのに!!……
私の心の叫びは聞こえるはずも無く“お母さん”の話は続く。
「……たかがリンゴ1個のお返しにこの和菓子は高過ぎるわ。あなたはいったいどういうつもりでこれを選んだの?」
私は自分自身ではなく安岡くんに言われた事が悔しくて言い返してしまう。
「最初の頃、私が塾になじめずにいた時、グループワークの仲間として色々助けてくれたのが安岡くんだったんです。本当は……こんな不幸な事故が起こる前にきちんとそのお礼が言いたかった。だからせめて…… 確かに小学生には過ぎた買い物かもしれないけれど、お年玉で買いました。きちんと母に話して……」
「私も陽葵の思う通りにさせるのが良いと思いました。お店には私から話を通して、このように作ってもらいました。」とマーちゃんが口添えしてくれたけど……
“お母さん”は和菓子を見つめてため息交じりに言葉を置いた。
「もったいない話だわね」
。。。。。
毒母 安岡梓のラフ画です。
息子を抱く時は少女になるという“天使の顔をした悪魔”とのコンセプトに、なかなか追いつけません
by しろかえで




