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ポチと陽葵  作者: 黒楓
4/50

第一部 ぼっちポチ  ④ ポチとナンパちゃん

 私はなぜ逡巡してしまったのだろう……


 この子と私の名前の響きが似ているから?


 並んで歩いている今、私はそういう事にしてしまいたかった。


 ちょうど夕日がカノジョの顔を照らして、ドキリとするくらい大人びた表情や、すくすくとした子供の笑顔や、興味でキラキラ輝く瞳を私に見せてくれたから……


 私の内から湧き上がって来るこの感情は“母性”よりもっと利己的なもの……家族というものへの憧憬のように思われる。


 でも……それでも、この子が、たまらなく可愛い。


 私は今まで“子供”には努めて無関心だった。


 意識がそれに向かうと……トラウマの傷口が開くから……

 受けた様々な暴力……子供の私が受けたもの、そして最大のDVによって私が“流して”しまった事……

 それらを思い出してしまったら

 いつもなら

 足がすくんでしまうはずなのに


 今、私はこうして歩いている。


「この川沿いは桜並木らしいの。私はまだ見た事はないのだけど……」


「知ってるよ、両岸がピンク色に染まって、とってもきれい。人もいっぱい。まだママがいた……生きていた頃、パパと三人で来た事がある」


 その言葉に私の足は止まってしまう。


 2、3歩先を歩いた陽葵も立ち止まって

 背中で微かにため息をついて

 ひょい!とこちらを振り返った。


「ポチはおしっこ? くふふふ」


 その笑顔に

 私は胸がいっぱいになってしまう。


「こらあ、失礼なやつだなあ」

 と、戯れにこの子の頭を胸に抱きかかえたのだけれど

 涙声になっていたかもしれない……



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 こんな質素なアパートに上がるときにも陽葵は斜めに膝をついて靴箱と反対側の隅に自分のスニーカーを揃え置いた。

 まさか自分のアパートに人が来るとは思ってもみなかった私の方が、慌てて予備に買い置いていた100均のスリッパを出してあげた位だ。


「ほんと、寒々しく何にもない部屋でしょ?」


「ううん」と陽葵の目は興味津々でキラキラしている。


 そんなカノジョを見ているとなんとも胸がくすぐったく、つい甘くなってしまう。

「好きに見ていいわよ」


「わあい!」と陽葵は、この狭い部屋の探検を始めた。

 中でもカノジョに一番の大ウケしたのは古めかしいタイル張りのお風呂場だった。

「きゃー!!! お風呂場の床、色んな色がポコポコして、めちゃイケ!!カワイイ!!」


 掃除が行き届いていないかが微妙に不安な私もお風呂場を覗き込んだ。

「オバサンの実家も古かったから、こんな感じだったよ」


「へえ~!! いいなあ、ワタシのウチなんてかわいくなくてつまんない」


「そんなもんかね~タイルは目地の掃除も大変だし、いい事無いよ」


「そんなことないよ、絶対頑張って掃除しちゃうもん! ね、今度、お風呂掃除するから、入ってもいい?」


「あははは、お父様から許可が下りるんなら入りに来てもいいよ」


「うん、わかった」

 なんてカノジョは言うけど

 そんな事

 多分、無理なんだろうなあ……



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 下ごしらえして置いた鮭の切り身たちをくっつけて並べ、皮目だけフライパンの底に当たるようにした。


「フライパンは冷たい状態から、こうして焼き始めるの、バターは焦げやすいから最初はオリーブオイルを使ってね」


 油がはねて、陽葵は「きゃっ!」と身をひるがえす。


「エプロン付けてて良かったね。可愛いトレーナーが汚れるところだった」


「これ、ママが小学生の時に着ていたんです。おばあちゃんが持ってきてくれたの」と陽葵は少しはにかんだ。


「うん、知ってる。そのブランド」


「お姉さんも着ていたんですか?」


「私はあなたのお母さんより、きっと年上ね。だってそのブランドが流行ってた時には、もう着る年頃じゃなかったから……だから、私はオバサン」


「そんなこと無いです。お姉さんです!」と陽葵は私にぴったりと寄り添った。


「こらこら、火を使っている時は危ないでしょ」


「は~い」と言いながらも

 陽葵はますますくっついてくるので、

 私は「もう~!」と火を止めて

 ギューッとカノジョを抱きしめた。



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