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ポチと陽葵  作者: 黒楓
32/50

第二部 不都合な子供たち  ⑦ おんな・母・オンナ Ⅰ

 今回は“伊麻利さん”視点です。




 紺野さんはKURODA組の中でも“面倒見の良いお姉さん”的立ち位置でお友達も多かった。


 その中でも私との仲は別格で、この頃にはもう……まるで姉妹(私にはその経験はないのだが)の様で、カノジョの事を私は『里佳(りか)ちゃん』と呼び、カノジョは私の事を『マーちゃん』と呼び合う間柄になっていた。

 そう、頼りになる『()()()お姉さん』といった感じで……私は不慣れな子育てに関する事や康雄さんへの接し方など色々と相談していた。


 里佳ちゃんは里佳ちゃんで、実は旦那さんと離婚の危機があった事や、しばらく“お付き合い”していた人が居た事などを話してくれた。


 私達が仲良しなので自然と家族ぐるみの付き合いになり……

 里佳ちゃんは、前々から陽葵の事を海斗くんのお嫁さんに欲しがっていたし……里佳ちゃんの旦那さんも陽葵の事を『ひまちゃん』と呼んで猫かわいがりした。


 一方、私は私で……海斗くんの大らかで真っ直ぐな男の子気質が大好きになった。

 そして主人……康雄さんでさえ……彼は普通なら絶対こんな事はしないのに……


『オレが直接渡すと角が立つから、マーちゃんから渡して』と

 海斗くんの為にと、自分が中学の頃に使っていた参考書や問題集の改訂版をどっさりと買い込んで来た。


「いったいこんなに!! どうするの?!」と私は目を丸くしたが、康雄さんは


「オレはこいつで自己勉してトップを取ったんだ!」と意気軒昂で、私はそれがなんだか可愛くて……ちょっと“工夫”はしたが、海斗くんの手元にそれらを届けた。

 まあ、海斗くんには“有難迷惑”だったかもしれないけど……


 結婚してからは、康雄さんは私にスーパーのパートを辞めて欲しかったのだと思う。

 私に契約社員の仕事の口を持って来たくらいだから……


 でも、私には今の職場に愛着が湧いてしまったのと『陽葵となるだけ一緒に居たい』という贅沢な願いがあった。

 だからスーパーのパートを続けたかった。


 最終的に康雄さんが首を縦に振ったのも『紺野さんと一緒の職場だから』という理由だった。


 そういうわけで、その日もスーパーのレジに立っていたのだけど……

 まさか“あの人”が来るとは思っていなかった。



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 商品がぎっしり詰まった二つのカゴを載せたカートが押し出されて来て私はカウンターから手を伸ばした。

 かごに手を掛けてふと視線を上げると……安岡くんのお母さんだった。


「昨日は……ありがとうございました」


 と、“お母さん”が軽く会釈するかしないかのタイミングで里佳ちゃんが駆け寄ってきてカートのカゴをカウンターに乗せるのを手伝いながら私に声を掛けた。

()()()()! もう時間でしょ?! レシ代わる、あっ!ついでにレジ締するから、ネームプレート貸して」 そう言いながら私の胸にくっつけていたクリップホルダーに入っているカード式の名札を外してしまった。


『名札とレジ締って、何の関係??』

 私は、外された名札を一瞬『?』と目で追いながら商品のスキャンを始めた。


 そんな私に“お母さん”は呟くように話しかける。


「こちらでパートなさってらっしゃるのね…… 私もまた働きたいのだけど子供が小学生のうちは色々見てあげないといけないから……それにほら、今度は()()()()いたしますでしょ? だからこうやって、きちんとしたものをきちんと料理して、()()()()()()()()と競争で食べているんです。今度こそ新しいお兄ちゃんに負けない様な秀でた子にしなければいけないから……」


 会計が済んでカゴをサッカー台に乗せ、袋詰めもお手伝いすると、“お母さん”はこれ見よがしに“全然平らな”お腹をさすった。


「ありがとう。今は特に大切な時期なので助かるわ」


「いいえ、どうぞお気を付けて。ありがとうございました」


 そう言って彼女を送り出したが、私の笑顔はかなりひきつっていたと思う。


「こんなにもレジ空いているのに……あの人、あなたのところへわざわざ来たのよ」

 そう言いながら里佳ちゃんは私の手に名札を戻してくれた。


「マーちゃん! マネージャーに言って、苗字変えた方がいいよ」


 ああ!そうか!

 私は自分の手のひらに戻された『柏木』と書かれた名札を見て、初めて里佳ちゃんの“機転”に理解が及んだ。


 名札を見つめていた私に里佳ちゃんは訊ねる。


「あの人、誰か知ってる?」


「うん……」


「ひょっとして事故……の事も?」


「ええ……亡くなったお子さん、陽葵の塾友だったの……昨日、お悔みに行ってきた」


「そうだったんだ…… それでか……」


「えっ?!」


「いや、海斗がね!『昨日、陽葵の様子がおかしかった』って……陽葵(ひまちゃん)が海斗に電話したの知ってた?」


「ううん」と私は頭を振る。


「そっか、マーちゃんも知らない事か…… 海斗も口、堅いから……具体的には電話で何を話したのかわからないけど、メッセじゃなく電話でしょ?! ひまちゃんから海斗への愛の告白なら私は飛び上がるほど嬉しいけど、あの雰囲気は絶対に『お悩み系』だね」


「そうなんだ……海斗くんには悪い事したなあ…… 昨日は私も……ちょっと、いっぱいいっぱいで……」


「話、聞こうか?」


 心配そうに顔を覗き込んでくれる里佳ちゃんに私は逡巡した。


 安岡くんが陽葵だけに書き残した事を軽々に話すわけにはいかない。 しかしこの……私の胸の内に抱きかかえた“安岡くんのお母さん”に対する疑念は……今日の“お母さん”の言動でますます深まった。 このやり取りは里佳ちゃんも見聞きしたし……


 私は頷いて答えた。


「時間……いい?」


 里佳ちゃんは大きく頷いた。


「よし! 海斗もひまちゃんのところへ寄越していい? 『絶対変な事はするなよ』と釘は刺してあるから」


 私は笑いながら「よろしくお願いします」と頭を下げた。





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