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ポチと陽葵  作者: 黒楓
31/50

第二部 不都合な子供たち  ⑥ 欺瞞?

 抱かれた腕の中でようやく落ち着いた私に、お母さん(マーちゃん)はそっと囁いてくれる。


「少しお日にちが経っているけど……まずは弔問にお伺いできるかどうか聞いてみましょう。 陽葵、スマホは出せる?」


 マーちゃんは私のスマホから安岡くんへ向けて“私の母親”としてのメッセを出してくれた。


 ふたりして、その返事を待つ間、マーちゃんはりんごとバナナを使ったミルクセーキを作って()()()()し、はちみつを垂らして出してくれた。


 口を付けると……温かい甘さが染み込んでいく。

「マーちゃん ありがとう」


「ふふ、その呼び方は……キスが欲しいのかな?」

 そう言いながらマーちゃんは私のくちびるをついばんで

「白いおひげも甘いね」と笑った。


 そうか……


 私はきっと無意識に

 すべてを求めていた。


 そしてマーちゃんは

 “母として恋人として”応えてくれたんだ。


 温かいカップに両手を置いてマーちゃんの胸に甘えているとスマホがメッセの到着を知らせた。



 --------------------------------------------------------------------


 安岡くんのお家(おうち)のある六小の“学区”は、以前マーちゃんが住んでいたアパートのある旧市街だ。

『水曜日の夜なら主人もいますし構いません』と送られてきた住所へ来てみると外観がキレイにリフォームされたマンションだった。


 部屋によってドアの形やドアフォンのタイプが異なるのは……きっとリフォームの時期がおのおの違っていたからなのだろう。その中でも安岡くんのお家は真新しかった。


 マーちゃんがドアフォンを押して名前を告げるとドアが開いて男の人が顔を出した。


「息子の為にわざわざお越しいただきありがとうございます。妻は今、少し臥せっていてご挨拶ができず申し訳ございません」


「いえ、そう言ったご事情の中、お邪魔してしまい申し訳ございません」


 との親同士の一連のやり取りの後、通された部屋には“後飾り”と言うらしいのだけど……祭壇がしつらえてあって、私たちはお鈴を鳴らして手を合わせた。


 前もって『遺書の事は伏せておこう』と打ち合わせていたので、私もマーちゃんも“突然の痛ましい事故”として安岡君の死を悼んだ。


『いつまで玄関に居るの?! あなたが居なくちゃできないのに!!』

 突然、廊下を切羽詰まったヒステリックな声と足音が通り過ぎて取って返し、ガバッ!と女の人が顔をのぞかせた。


 その女の人は肩のあたりで髪が暴れていてキャミ?の肩紐も外れていた。


「あら、隆一の為に来てくれたの? ありがとう」


 そう言いながらも……とてもバツの悪そうな顔をして顔を背ける“お父さん”に腕をのばして首に絡め、しだれかかったそのひとは……間違いなく安岡くんのお母さんなのだろう……


「これから隆一を産みなおすの。だからまた、仲良くしてあげてね」


 そう言って“お父さん”に甘える仕草をすると……はだけた胸元からまあるいふくらみがこちらに見えて

 私はとても怖くなった。



 --------------------------------------------------------------------


 そそくさとお暇した帰り道、マーちゃんはずっと険しい顔で、私は私で夜の闇にも恐怖を感じた。



 ようやくたどり着いた我が家のリビングの明かりを付けて、ソファーに二人並んで座り、ホッとして抱き合う。


「私……安岡くんにきちんとお話できなかったかも」


「そうね……そうだね」


「でね、安岡くんのお母さんの事なんだけど……やっぱり……怖かった」


 こう言うとマーちゃんはため息をついた。


「メールにお返事くれたのは安岡くんのお母さんだと思うの。だから実際お会いして……私もすごく違和感があって……それがずっと引っ掛かっていて……陽葵、もう一度、ノートを見せてもらっていい?」



 ノートを読み返したマーちゃんは……また青ざめてしまった。


「でも!! まさか!! そんな!! じゃあ わざとなの??!!」


 なにがマーちゃんをこんなに震えさせるのか……この時は私もまだ理由が分からずに……ただただ、震えるお母さんを抱きしめていた。





。。。。。。。。。


今回のイラストは安岡くんのお母さん


天使の顔をした悪魔というイメージです。



挿絵(By みてみん)

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