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ポチと陽葵  作者: 黒楓
29/50

第二部 不都合な子供たち  ④ グループワークノート

今回もすごく重いです<m(__)m>





 封筒の中身はよく見知った表紙……グループワークノートだった。

 差出人は……

 言うまでもなく安岡くんだったけど……住所は私の知らない地名……おそらくは彼の田舎だ。


 ここに着くまでに、こんなにも時間がかかったのが、その証。


 “今は居ない”カレが、一年中で最も郵便が混み合うこの時期に、わざわざ遠くから投函したのかが……

 ノートの中身を見なくても“事の重大さ”を否応なく私に示して来る。


 なぜ私なの?!


 週3回の塾での塾友。それもグループワークは毎回やる訳じゃない。


 私と安岡くんは、そんなに濃い付き合いではない。


 カレは私の事を好きだと言っていたけど……

 それはきっと

 私が今、困惑して“男の子NG”になっている元凶……

 私の“見た目”に起因しているに

 違いないのだ!


 お母さんはその事をすごく気に病んでいて……

「私達オトナが……あなたの子供としての時間を短くして、あなたから子供らしさを奪ってしまったのかも」と……

 買わなければならなくなってしまった“下着”を私と一緒に買いに行った時や“初めて”の時に涙ぐんでしまって

「そんなのお母さん(マーちゃん)のせいじゃない」と逆に慰めてしまう始末だった。



 だから正直、迷惑だとも思った。


 彼の事故とこのノートが何の関係も無いと

 思いたかった。



 ノートを前に固まっている私を見て

「一緒に見ようか?」


 と声掛けしてくれるお母さんは本当に本当に心配そうだ。

 だから、こう言ってあげた。

「マーちゃんに見られるのは気恥ずかしいし、何か不穏な内容だったら相談するから」と。


 お母さんをキッチンへ押しやってから、私はリビングダイニングのテーブルの上でノートを開いた。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 何から話せばいいだろう……


 よくある物語みたいに


 まずは書いてみる。


「このノートが君の手に渡る頃には

 僕はこの世には居ない。」


 充分時間は経っているだろうから


 これを書いた後、僕が万一、ヘタを打っても


 この世から去るための代案はある。

 とは言っても

 このノートを投函した後で僕が取る手段は、過去に事故としての実績があるから


 容易に僕を彼方へと運んでくれるだろう。


 ここまで書いたら察してくれると思う。


 僕がこの世を去るのは


 事故じゃなく


 ワザとだ。


 事故死なんて!

 全くもって不名誉な死に方なんだけど


 後から話す理由の為に僕はこの方法を選ぶ。




 キミの事、好きだって言ったのは本当だよ。


 キミは他の子とは違っていたから


 僕に抱かれる価値がある。


 こう書くと当然怒るよね。


 でも、不遜なのは


 死を選ぶ者の特権だ。


 それに僕は


 ちゃんと『機能』するんだ。


 この『機能』の意味をキミが察したとしても


 いいだろ?!


 実際は


 クリスマスイヴのあの日も


 僕の汚れた手でキミを穢さないよう


 キチンと手袋をしたんだから


 おっと!この“汚れた手”の話は意味深だから……


 まずは、磨いたリンゴの話



 あのリンゴを見つけた時


 絵に描きたいと思ったくらいだっだけど


 僕には絵心がないから


 磨くことによって


 僕の最後の……()()のかな??


 魂の光沢を写し込もうと思ったんだ。



 キミからのメッセと写真を見たよ。


 あのリンゴは僕の心


 僕の心臓


 それをあんなふうに咲かせてくれて


 食べてくれてありがとう


 でも、キミやキミの家族の体の中で


 生き続ける気は毛頭ないから


 そんなに気味悪がらないで



 とは言っても


 汚れた手の話をしたら


 気味悪がられるだろうな



 そう言った意味では


 あのリンゴを食べさせた僕は


 エデンの園の


 不埒な蛇みたいだ



 さて、汚れた手の話に至るには


 まだ、段階がある。



 クリスマスイヴのあの日


 僕は摘果の話をしたよね。


 果物を育てる時には

 摘果の他に、摘花、さらには摘蕾(てきらい)というのをするそうだ。


 僕はね、僕の留守中(とは言って僕は立ち聞きしたのだから実際は留守ではなかったわけだが)に()()()()家族会議で、この言葉を聞いたんだ。


 この紙面で母の言葉を再生してあげよう。


 母

「塾で、今回、はっきり言われたの。『本当は摘蕾がいい。花や、ましてや果実まで成長してしまうと損失はそれだけ深刻になる』って。『星難中は入学時に約60万、学費他で年間100万位かかる。塾としては損失だが、勝ち目のない隆一くんはやはり摘果して、浮いたお金を大翔(ひろと)くんの為にプールすべきだ』って」


 次は父の言葉だ。


「話がうますぎやしないか? 隆一に勝ち目が無いのは分かるが、塾なんて営利主義だろ? 二人通わせた方が塾としては収益が上がるじゃないか」


 母

「有望な大翔を育て上げて星難に合格させて、塾としての実績を上げた方がメリットが大きいそうよ」


 大翔

「ダメな兄ちゃんの分までがんばるから……受かったら絶対星難に行かせて!」



 この内容だと、僕抜きの家族会議は前から行われていたと分かるだろ?

 うん、“neglect”だ。


 それならそれで仕方ない。

 自分の力の無さは

 否が応でも成績と言うデーターで示される。

 それに大翔……弟の方が地頭は上だ。


 この事においては……比較対象が居ない一人っ子……キミもそうだったよね……を羨ましく思うよ。


 さすがにこれだけなら、僕も今回の仕儀には至らなかっただろう。だが、以下の言葉が父の口から発せられたんだ。


 父

「塾の先生の言った通りだよ。隆一は元々お前がだまし討ちして、できた子だ。やっぱり『摘蕾』すべきだった。そうすれば子供はオレの許可の上でできた優秀な大翔だけだったのに……」


 母

「そんな!! あの子は……あなたの名前の『隆』を分けた大切な子よ!!」


 父

「ああ、お前がオレと結婚する手段として、大切だったんだよな」


 母

「ひどい!」


 父

「何をいまさら! お前だってさっきはひどい言いぐさだったぞ! 逆に感謝してもらいたいよ。今まで隆一を大翔と分け隔てなく育てて来たのだから。 しかしこれからは……隆一の学資保険はやめて、月々一万円も掛けさせられている助け合い保険だけにするか……」



 散々な言い合いだろ?


 でも僕が一番ムカついたのは、この言い合いの最中、大翔が鼻でフン!って笑った事だった。


 こんな言い合いを聞かされちゃ『生きる』って気が削がれるよ。


 それでも僕自身の手が汚れたわけでは無かった。


 僕自身の手が汚れたのは……この『家族会議』からしばらくたってからだ。




 その日、僕は やっぱり勉強していたんだ。 悪あがきじゃない! いや、

 とは言えないか……

 やっぱ言われっぱなしは悔しいからね。

 努力したよ。

 でも成績は伸びなかった。そんなに短期間に伸びるわけはない。 

 また大翔に鼻で笑われるかと思うと断腸の思いで、僕は歯嚙みしながら机に向かっていた。


 ふっと気配がして、次に淡いお酒のにおいがした。


 水曜日だったので大翔が塾の日で僕は休みだった。


 父親は……多分遅い。


 そんな状況だから母は酒を飲み始めたものと思われる。


 近づいてきた母はうっとおしくも僕の頭をくしゃくしゃとなでた。


 もみあげとかが()()()もイヤなのでその手から逃げたら

 今度は胸に後頭部を抱きしめられて、その弾力に正直あせった。


 母はなぜかクスクス笑いで

「昔はあんなに好きだったのに」

 と白いニットをずり上げた。



 母に触られた。


「愛おしい。本当に愛おしい 誰が何と言おうとあなたは私から生を受けたの。だから私はあなたを受け入れるの」

 僕のスウェットの上に下に手を挿し入れた母の()()()()だった。


 そして、今度は母を

 直に触らされて


 僕の手は汚れた。


 だけど僕は

 ちゃんと


『機能』した。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 ここまで読んだ私は……書かれていた内容に察しが付いた。


 この前、

 お母さんはこう言ってくれた。


『奥様のご病気の事もあるから、キチンと教えるね』と



 それは“初めてなった”事をお母さんに報告した時……


 二人で本やネットを見た。


 お母さんは書かれている内容について真摯に教えてくれた。

 そのことにはすごく感謝している。

 と同時に、自分がとても愛されているというのも実感できた。


 だけど今、私は……


 私が“マーちゃん”にプロポーズしたあの日の夜。

 忍び込んだ客間に、お父さんとマーちゃんが裸で抱き合って寝ていたことや……


 ママが『お父さんは女の人を死なせる』と言っていたこと


 いろんなことが押し寄せ、頭の中でぶつかり溢れて


 ノートはそのままにトイレに駆け込み

 便座を抱え込んで


 “もどした”


 胃の中を絞り出してひと息ついた時、吐瀉物の臭いを吸い込んで吐き気がブリ返し、またもどした。


 お母さんが飛んできて介抱してくれて、私はぐったりと、元の席に腰を下ろした。


 開いたままのノートの文面が目に入ったのだろう。付き添っているお母さんの顔色が変わった。


「読んでいい?」


 私が頷くのを確認して、お母さんはノートのページを行ったり来たりしながら物凄い勢いで読み始めた。


 やがてパタリとノートを閉じたお母さんの顔は青ざめ、ノートを持つ手も震えていた。


「マーちゃん! 大丈夫?!」


 今度は私が気遣うくらいにお母さんは動揺していたのでギューッ!と手を繋いだ。


 手の汗が引いて少し落ち着いたお母さんは……もう片方の手を私の手の上に重ねた。

「陽葵はこれを……読んじゃいけない」


 けれど、私には安岡くんからノートを託された責任がある!

 だから言い返した。


「これは、私と安岡くんとのグループワークノートなの! だから読まなければいけないの! お母さんは……マーちゃんは……きっとあの時みたいに……私が『せっくすすると死んじゃうの?』って聞いた時言っていたように……『今は読むべきではない』って、判断して言ってくれているのだと思う。でも、“グループワーク”としては、今、読まなければいけないのだと思う! 違う?!」


 私に問い詰められたお母さんは苦渋の表情で頷いてくれたので、

 私はお母さんの手を取ってしっかりと“恋人つなぎ”した。


「マーちゃんがこうやって握っていてくれたら、私、大丈夫だから」


 そう言って、私はノートの続きに戻った。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 それから僕と母の関係は始まった。


 日ごとにエスカレートして


 どうかすると母は


 僕の腕の中で


 少女の様に感じることがあった



 ……<また吐き気が上がってきて、私はマーちゃんの手を強く握る>……



 だから僕は腕の中の人を


 僕の見知った子にしばしば置き換えた。


 独りじゃないよ。

 とっかえひっかえだ。


 背徳って


 すごく甘いけど


 僕の持つ知識でも


 その内、ヤバい事になるのは分かっていた。


 どうして母は、何の措置もしないのか


 理解できないけど


 僕には僕の最期が見えて来た。


 産まれる前から死ぬまで


 この人に利用されるんだと。


 そして、これから起こるであろう事象を考えるとウザいので


 もう幕を引くんだ。


『損失』と言われるのもまっぴらだ。


 父の言っていた助け合い保険は、僕の場合、死亡時の給付金は1000万なんだ。


 ()()は付けられないけど、これを損失補てんとして叩き返したく思う。


 そのためには

 事故死である事が必須なんだ。


 だ・か・ら


 このノートの内容は、僕の周りの人や、保険会社や警察の耳には入れないで欲しい。


 そんなに言うなら……

 初めから黙って消えればいいのだけど


 あのカムパネルラにだってジョバンニがいたんだ。



 僕がキミに

 切符を渡すのも

 ありだろ?


 キミに告白できて


 僕は、幸せだったよ。



 何かしようとしたって


 無駄な事だ。


 何もするな!!!




 いいあんばいで大雨になってくれた。


 疏水では水が

 触れると切れそうなぐらいの冷たさでゴウゴウと流れているはず。


 雪も積もってくれているし


 後はシュミレーション通りに


 旅立つだけだ。



 僕の銀河鉄道は真っ暗で


 まさしく


 僕にふさわしい。





 じゃあね!



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁



 ここで終わっていた……


 ここで終わっていた!!


 吐き気はもう無くなっていた。


 かわりに涙が

 止まらない。


 どうしよう……

 どうしよう!!


 マーちゃん!


 お母さん!!



 安岡くんは


 こんなにいっぱい


『生きたい!!』って


 叫んでいるのに!!



 どうしよう……






怖気と涙が止まらない状態で書きました。




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― 新着の感想 ―
最後のエピソードまで拝読してから感想を書かせて頂くつもりだったんですが、これは書かずにいられない感じです。 まさか、次の世代の物語がここまで哀しい調べを帯びてくるとは…… 綺麗なものをちゃんと「綺麗…
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