第一部 ぼっちポチ ② ポチ、パシリを卒業ス
「休憩中」のホルダーを外し、“3人”からオーダーされた商品をテーブルに並べる。
このレジチェッカー三羽烏は質が悪く「ありがとねー」の一言のみの代金スルーで下世話な話に花を咲かせている。
「あの、代金をいただいていないんですけど」
何度か繰り返すと
一番古株のボス猿女がうるさそうにのたまう。
「ロッカーに行かなきゃお財布ない事、分かってるでしょ?後で払ってあげるわよ」
「この間の分もまだいただいていませんが……」
遠慮がちに、こう付け加えると
ボスザルは鼻の穴を膨らませ大仰に言い返して来る。
「ヤダわあ!! 柏木さんったら、私たちを疑うの??!!」
私はひどく疲れた表情を見られたくなくて顔を伏せて言葉を返す。
「寺田さんはレジの違算についていつも厳しく仰いますよね。 私のお財布もずっと違算状態なんですが」
「あなたのお財布の事なんて知らないわよ」
ボスザルはしゃあしゃあとこんな事を言う。
どうやら穏便という言葉は通用しない様だ。
仕方ないよね。
お金と労力と時間を搾取され続けるわけにはいかない。
『排除するか』、『排除されるか』だ!
私は生活が掛かっているから、ただでは引けない!!
暴力を受け続けた私の“黒歴史”は、何をすれば相手にダメージを与える事ができるのかを、否応なく教えてくれる。
私は……
「どうか、代金を返して下さい」
と大声で言いながら勢いよく頭を下げるフリをして、寺田の鼻と口の間に“チョーパン”というものを食らわせてやった。
その結果、
寺田が椅子から転げ落ちて悶絶しているので
私はカノジョを真似て大仰に言ってやる。
「あらぁ~!! 大変!! ゴメンナサイ 大丈夫ですか?」
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くだんの件が“暴力事件”として取り上げられ、私はマネージャーと面談していた。
このマネージャー、寺田と“同じ穴の狢”と陰口を叩かれている。
「わざとやったんだろ?」
「いいえ、私はただ、立て替えたお金を返してもらいたいだけだったんです」
「いいや、オレは実際目で見て、判断した」
「えっ?!!」
マネージャーはフフン!と鼻を鳴らす。
「監視カメラはちゃんと録画してるんだ」
「そんな?!!」
動揺して見せる私にマネージャーは勝ち誇ったように言葉を被せる。
「それだけじゃない、アンタの体のあちこちにキズがあるのもオレは知っている」
「どうしてそれを!!?」
「ロッカー室で着ぐるみに着替えただろう?!、寺田さんが新人のあんたにイベントの教育的指導をした時だ。 記念にダビングしておいてあげたよ」
「隠し撮りしたんですか??!!」
「ハハハ、ウチは各部屋、監視カメラ付きだ、だから……」
とマネージャーは不躾にその手を私のカラダに伸ばし、衣擦れの音をさせる。
「何するんですか!!?? あなたの行為も録画されてるんですよ!!」
「ああ、これも記念にダビングしておくよ、消してしまう前にな」
よし! 裏取りOK!!
私はこのタイミングでヤツの急所を蹴り上げて部屋を飛び出し、廊下で本部の相談窓口へ電話した、「一部始終をスマホに録音してあります。すぐに監視カメラを押さえて下さい」と。
すべては事前に打ち合わせ済だった。
すぐにヤツの電話が鳴ったのを私は廊下の外から確認した。
これからは……ここでのパートも楽ではないだろう。
でも今までの様な、なされるがままの一方的な搾取や暴力の鎖をようやく断ち切れて、
私の心は随分と軽くなった。




