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ポチと陽葵  作者: 黒楓
2/50

第一部 ぼっちポチ  ② ポチ、パシリを卒業ス

「休憩中」のホルダーを外し、“3人”からオーダーされた商品をテーブルに並べる。


 このレジチェッカー三羽烏は(たち)が悪く「ありがとねー」の一言のみの代金スルーで下世話な話に花を咲かせている。


「あの、代金をいただいていないんですけど」

 何度か繰り返すと


 一番古株のボス猿女がうるさそうに()()()()

「ロッカーに行かなきゃお財布ない事、分かってるでしょ?後で払ってあげるわよ」


「この間の分もまだいただいていませんが……」

 遠慮がちに、こう付け加えると


 ボスザルは鼻の穴を膨らませ大仰に言い返して来る。

「ヤダわあ!! 柏木さんったら、私たちを疑うの??!!」


 私はひどく疲れた表情を見られたくなくて顔を伏せて言葉を返す。


「寺田さんはレジの違算についていつも厳しく仰いますよね。 私のお財布もずっと違算状態なんですが」


「あなたのお財布の事なんて知らないわよ」

 ボスザルはしゃあしゃあとこんな事を言う。


 どうやら穏便という言葉は通用しない様だ。

 仕方ないよね。

 お金と労力と時間を搾取され続けるわけにはいかない。


『排除するか』、『排除されるか』だ!


 私は生活が掛かっているから、ただでは引けない!!



 暴力を受け続けた私の“黒歴史”は、何をすれば相手にダメージを与える事ができるのかを、否応なく教えてくれる。


 私は……

「どうか、代金を返して下さい」

 と大声で言いながら勢いよく頭を下げるフリをして、寺田の鼻と口の間に“チョーパン”というものを食らわせてやった。

 その結果、

 寺田が椅子から転げ落ちて悶絶しているので


 私はカノジョを真似て大仰に言ってやる。

「あらぁ~!! 大変!! ゴメンナサイ 大丈夫ですか?」



 --------------------------------------------------------------------


 くだんの件が“暴力事件”として取り上げられ、私はマネージャーと面談していた。


 このマネージャー、寺田と“同じ穴の狢”と陰口を叩かれている。



「わざとやったんだろ?」


「いいえ、私はただ、立て替えたお金を返してもらいたいだけだったんです」


「いいや、オレは実際目で見て、判断した」


「えっ?!!」


 マネージャーはフフン!と鼻を鳴らす。

「監視カメラはちゃんと録画してるんだ」


「そんな?!!」

 動揺して見せる私にマネージャーは勝ち誇ったように言葉を被せる。


「それだけじゃない、アンタの体のあちこちにキズがあるのもオレは知っている」


「どうしてそれを!!?」


「ロッカー室で着ぐるみに着替えただろう?!、寺田さんが新人のあんたにイベントの教育的指導をした時だ。 記念にダビングしておいてあげたよ」


「隠し撮りしたんですか??!!」


「ハハハ、ウチは各部屋、監視カメラ付きだ、だから……」

 とマネージャーは不躾にその手を私のカラダに伸ばし、衣擦れの音をさせる。


「何するんですか!!?? あなたの行為も録画されてるんですよ!!」


「ああ、これも記念にダビングしておくよ、消してしまう前にな」


 よし! 裏取りOK!!

 私はこのタイミングでヤツの急所を蹴り上げて部屋を飛び出し、廊下で本部の相談窓口へ電話した、「一部始終をスマホに録音してあります。すぐに監視カメラを押さえて下さい」と。

 すべては事前に打ち合わせ済だった。


 すぐにヤツの電話が鳴ったのを私は廊下の外から確認した。


 これからは……ここでのパートも楽ではないだろう。

 でも今までの様な、なされるがままの一方的な搾取や暴力の鎖をようやく断ち切れて、

 私の心は随分と軽くなった。





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