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ポチと陽葵  作者: 黒楓
14/50

第一部 ぼっちポチ  ⑭ 瘦せっポチは胸にその男を抱く

「でね、3mmストレッチフルを買い増ししたのよ……」

 ノリノリで話す紺野さん、一人息子の海斗くんとのサーフィンがよほど楽しみな様だ。


『息子は恋人』っていう感覚はこんな風なんだろうか……なんて生あったかい目で紺野さんを見てしまって、それを気づかれてしまった。


「ん?! なによ?」


「―ん~ なんだろ、紺野さん かわいい」


「アハハハ 恋する乙女っぽい? プッ!ククク! まあ否定はしないわ。少なくともメタボなダンナを連れまわすより遥かにいい。 でも今のうちだけ、すぐに私よりパドリングも上手くなって、()()()の私は置いてきぼりよ。きっと」


「それは切ない……」


「ま~ね! それよりアンタはどうなの?陽葵ちゃんと?」


「今日、これから、プラムガーデンへ行く」


「そっか、陽葵パパは?」


「どうだろ? 今日は帰って来ないと思う」


「じゃあ、二人っきりの時間、過ごせるね……そっか!それでか……そのトップスとデニムの組み合わせ かわいくて似合ってるよ どこゲット?」


「いつもの“ユーズドセレクトショップ”」


「へえ~!! 私の今、着てるブルゾンも“そこゲット”だけど…… 柏木さん、センスいい!」


 確かに今着ているトップスは可愛げだ。

 ただ、陽葵パパからいつ、“約束”の履行を要求されるのか分からないので“脱いだらすごい”()()にはしてある。


 私は……下卑たDVオトコのイカレタ趣味で、()()()のインナーをたくさん買わされていた。


 その()()()()()()インナーたちは、所有するインナーの総枚数のかなりのパーセンテージを占めていたので、全部は処分しきれず、何枚かはここまで持って来ていた。


 まさかそれをまた……他人の目に晒すなど、思いもよらなかったのだけど……止むを得ない仕儀だ。瘦せっポチの私のカラダそのものには……何の面白みも無いのだろうから。



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「フルーツたっぷりのカレーを作ってみよう」

 インターネットで見たレシピを元に、陽葵とリンゴやバナナをブレンダーに掛けたりしてワイワイとやっていた。


 やがてご飯の炊きあがりを炊飯器が知らせてくれたので、先程お掃除したばかりの家具のようなモダンな仏壇に炊き立てのご飯をお供えして

 ()()()()()()……

 “お母様”と“名も無き子供”に手を合わせる。


 もちろん

 許してくれない事は

 分かっている。


 そもそも……


 私が居る事が、陽葵の為になっているかどうかすら

 疑問だ。

 少なくとも私の存在が、カノジョとその父親との溝を深めている。


 更に


 まだ手は出されていないけれど


 もしも、この家の中で

 有無も言わせず、陽葵パパに組みし抱かれたら……


 陽葵には悪影響しか残さないだろう。


 それでも私が“ここ”に居るのは

 私のわがままに他ならない。


 詫びても詮無きことと

 ()()()()()には

 思われているのだろう。


 私は合掌した指と指の間を少しだけ開いて

 目頭を押さえた。


「マーねーちゃん~ パパの分はどうする?」


「ハ~イ! ちょっと待ってね」


 私は仏壇に向かって深くお辞儀をして陽葵の元に戻った。



 --------------------------------------------------------------------


 物音がして目が覚めた。


 スウェットの上にカーディガンを引っ掛けて玄関へ向かう。


 そこには背中を向けて靴を脱いでいる“陽葵パパ”康雄さんが居た。


「まだ、起きていたのか……」


「いえ……」


 酒臭いオトコは嫌だ。

 私は思わず“カーディガン”の前を合わせた。


「あの、陽葵ちゃんとカレー作ったんです。康雄さん用にガラムマサラを足してますから……召し上がりませんか?」


「いや、いらない」


 断った彼の顔…… いつもとは様子が違っていた。


 こういった表情に

 心を囚われてしまうから


 私は()()を止められなかったのに……


「ウコンも入れてありますから、お飲みなったのなら、体にはよろしいのでは?」


 こう提案すると

 康雄さんは軽くため息をついた。

「……じゃあ、もらおうか」


「では用意しますね。お風呂、どうなさいます?」


「ん、先に浴びるか」


 最近では珍しくなったネクタイ……その結び目に康雄さんは指を掛けた。


「あ、新聞。お預かりします」


 脇に挟んでいた新聞を私が受け取り、彼はクルリと背中を向けた。

 それなのに……

 康雄さんは向こうを向いたまま、私に声を掛けてきた。

「その新聞記事」


「?」と折りたたまれていた新聞を延ばすと、それは商業新聞のインタビュー記事だった。


 背筋が伸びて精悍な、しかも美しい女社長の写真が目に飛び込んで来た。


「どう思う?」


「どうって……」

 何をどう答えても……

 どうせ暴力しか身に降りかかって来なかった女を捕まえてする質問じゃないだろうと思いつつ、薄いため息が入り込んでしまった返事を返す。


「かっこいいですね、きっと私などには想像もつかない素晴らしい方なんでしょう……」


「当然だ!君とは比較にはならない」


 ああ、この口調! またか……


「そうですよね……お知り合いですか?」



 少しばかり待ってみたが

 返事がない。


「着替え、お持ちしますね」

 踵を返そうとした瞬間


 腕を掴まれた。


「オレをあしらうな!!」

 短い怒号と共に

 私は廊下に横倒しにされた。


 ああ()()()……

 ここから先は

 過去のリプレイ

 でも

 これだけは

 言わなきゃ


「ここでは陽葵ちゃんに()()()()()……どうかご配慮を……」


 彼の手は

 既にスウェットの中に差し込まれていて

 私のインナーの手触りに

 何かを感じ取っていたのだろう


「シャワー浴びてるから来い!」



 私は彼の着替えを抱えて、バスルームへ向かった。



 --------------------------------------------------------------------


 どんな“癖”の持ち主かは分からないが、とにかくケガをさせられるのは避けたかった。

 それはカレが陽葵の父親だから……


 賢く勘のいいカノジョの事だ。

 きっと何が起こったかを察してしまう。


 私は自分の衣服と、ケガを及ぼしそうになる物をなるだけ片付けてからバスルームのドアを開けると……バスチェアに腰を下ろし頭からシャワーを浴びっぱなしにしている康雄さんが居た。

 歩み寄り、その背中にそっと自分の胸をくっつけてみる。


 言葉を発さない彼の背中は、不定期な小刻みに震えていた。


 しばらくそのままにしていたのだけど返事もないので

 聞いてみる


()()()と……何かあったんですね……」


 それでも何も答えは無くシャワーの音だけ

「グズッ!」

 微かに鼻を啜る音がして


 私は彼のヤセ我慢にため息をついた。


「仕方のない人ですね……このままでは私が風邪をひいてしまいます」


 カレの背中を離れて


 シャワーとカレの間に割り込んで

 カレを……


 私の胸に

 抱き込んだ。


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