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ポチと陽葵  作者: 黒楓
11/50

第一部 ぼっちポチ  ⑪ ポチ、約束をする

 ハンカチを掲げていた陽葵は次に、私が持ってあげていたランドセルに目をやった。


 私は頭を振って、“母親の笑顔”を作り陽葵に向かって空いている手を伸ばした。

「お会計して来るから、そのハンカチをちょうだい! あなたはもうしばらく商品を見ていなさい」



 店を出て通路を陽葵と手を繋いで歩く。

「ハンカチ、後で渡してあげるね」


「うん、その時にお金渡す」


「何言ってるの! 女の子はね、デートの時はお財布出しちゃいけないの」


「マーねーちゃんだって、女の子じゃん」

 と食い下がる陽葵に私は

「私は女性だけど、女の子じゃないもん」

 とウィンクした。


 本当にそうだ。

 私は昔から、オトコに奢られた事が無く、むしろその逆、貢ぐレベルだった。

 きっと取るに足らない自分に存在価値を付加するためにそうしていたのだろう。

 お金で一時の関心を得る事はできても、愛情など得られるはずも無く、結果、くだらないオトコに翻弄され続けた。自業自得だ!

 陽葵にそんな轍を踏ませるくらいなら()()()()()()になってもらった方がマシだ。

 もっとも……賢く優しいカノジョがそんな人間になるとは、とても思えないが……

 そう、今だって納得しがたく、とてもすまなそうな顔をしているので、私は助け舟を出した。

「じゃあ、後でなにかごちそうしてもらおうかな、フードコートで」


 途端に元気に頷いたカノジョはツインテールをぴょんぴょんさせて私の手を引いた。

「あと、本屋に行きたいの」



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 二人して書棚の芥川龍之介“区画”を目で追っていた。


「あった! 『トロッコ』!あと……いちに……かたまり??」


「“”いっかいのつち“ね、もしくは、“ひとくれのつち“ と読むらしいけど……」


「すごい! マーねーちゃん!」


「ううん、中学の時、国語の先生が教えてくれたんだ。今は小学校で扱っているのね」


「違うの。塾のテストで出題されたの…… その時、塾の先生が作品を一通り読んでくれたんだけど、気になるところがあって……」



 --------------------------------------------------------------------


 フードコートで陽葵が買って来た『表面がパリッ、中がトロッ』というたこ焼きをつつきながら二人で買って来たハンカチをシェアして文庫本のページを繰った。

「あ、ここのところ」

 と陽葵が指し示した箇所は、主人公の少年がトロッコの線路伝いに家路に向かって駆けて行く()()()だった。


「わたしね、前に、同じような夢を見たことがあってね。場所は昔、ママやパパと行ったミカン狩りの山道っぽくて、でも暗いトンネルみたいで、一人で家に帰らなきゃいけないの。心細くてこわくてこわくて、ひざガクガクするけど走らなきゃいけなくて、やっぱり、涙はにじんだけど泣けなかったの 目が覚めて……夢だと分かって やっと泣いたの」


 遠い昔に読んだきりのその作品を……私も読み返そうと手に取った。


 文庫本には写真や年表も載っているので寄り道してみる。


 芥川龍之介って 今風のイケメンだったのね……えっ?! 35歳で没? 私と同い年じゃん!……

 いけないいけない、読まねば……



 なんだか国語の時間っぽい感じだったが……

 最後の一文が私の心をコンコンとノックした。


 作品も今風なのねぇ~


 私はふっとため息をついて訊いてみる。

「陽葵は大声で泣けたの?」



「―ん、わからない。その時も誰もいなかったから。シンとしてるから、声がね、溶けてなくなっちゃうの」

 そして陽葵は微かに笑った。

「泣いても集まって来る人は……居ないから」


 私は

 思わずカノジョの手を握りたくなって、自分の手を伸ばしたら

 陽葵の手はそれを飛び越えて、私の手の甲を二本の指でテクテク歩いた。


 ふたり、クツクツと笑って

 また、たこ焼きに戻る。


 なかなかに熱く、“猫舌ポチ”の私は、少し齧ってはふうふうしていると、陽葵は私の顔を伺った。


「えっと……あのね!……うん! マーねーちゃん! 訊いてもいい?」


 私はたこ焼きを口から離して頷く。


 陽葵は意を決したようにトレイに乗っかっている紙コップの水をコクン!と飲んで、私に尋ねた。


()()()()すると死んじゃうの?」



 私の周りから、音と光が消えた。


 何について訊いているのだろう?


 私の散々な人生?


 それとも


 私が亡きものにしたこども??


 髪の毛一本ほどの僅かな時間の中、

 私の目の前を走馬灯が回る。


 私の目の色を、表情を、負のオーラを

 陽葵は感じ取ったのだろう。


 半ば取り乱しながら

 必死に言葉を取り消しにかかった。

「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ! わけのわからない変な事聞いて……きっと何かで見たか聞いたかしたのを勘違いしたの、本当にごめんなさい!! お願い!! 私の事、嫌いにならないで!!! お願い!お願い!!」


 私は……

 涙ボロボロでしゃくり上げそうになっている陽葵の横に座り直して、カノジョをしっかりとこの胸に抱き込んだ。


 ここが“グラモ”のフードコートで、どれだけの人が見ていようが見てなかろうが関係ない!!


 私はこの子を力の限り守ってあげるんだ!!

 罪深き私でもできる事はあるはず!


 私は陽葵の頭を撫でてあげながら語り掛ける。


「陽葵が今、何も聞かない事にするなら……私は、何も言わないし、聞かない。でもこれから、私に訊きたいことがあったら、ためらわなくていいのよ。訊いてくれたら私は答える。嘘やごまかしは絶対にしない。もし……その場では答えられない事や、その答えを、あなたが聞くべきではないと判断した時は、きちんとそのことを伝える。 そして時期がきたら、必ず答える。うやむやにはしない。

 私はあなたの恋人だし、あなたは私の恋人。私はあなたを愛しているし、あなたは私を愛している。 だから信じて。絶対に答えるから!!」


 私の胸の中で陽葵は何度も頷き

 私達はお互いがお互いをギューッと抱きしめた。





 。。。。。。。


 イラストです。





 陽葵ちゃんのラフ画





挿絵(By みてみん)





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