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ポチと陽葵  作者: 黒楓
10/50

第一部 ぼっちポチ  ⑩ ポチ、初めて“お揃”を手にする

 私は“インディジョーンズ”が嫌いだ。


 別に作品や役者が嫌いなわけではない。


 ただ、DV男との悲惨な生活を思い出してしまうからだ。


 ある日、DV男から『テープカッターを出せ』と命令され、私は引き出しからカタツムリ型のプラスチック製のテープカッターを出し、手渡した。


 ところが、ちょうどテープの端が刃から外れて、テープ側にくっついてしまった。

 ヤツは舌打ちをしながら端を爪で引っ搔いて摘まみ、テープを引き出そうとしたが、テープは途中で割れちぎれてまた戻ってしまい、ヤツの親指の腹には、そのカケラだけが貼り付き、取り残された。

 その次の瞬間、私はそのテープカッターで顔を殴られた。


 テープカッターのギザギザの刃先が私の顎をグニャグニャに切り裂いて鮮血が飛び散った。


 それを見たヤツはゲラゲラと哄笑して、蹲る(うずくまる)私を更に蹴り転がした。

 それこそ抵抗できない弱り切った野犬をいたぶるように……


 その後ヤツは『インディジョーンズは元々犬の名前だから、ちょうどいい』と私の事を、かなり長い間、“インディ”呼ばわりした、“ポチ”の名の代わりに……



 田舎で会社勤めしていた頃はともかく、今のパートは昨今の事情でずっとマスクだから……

 顎のキズをコンシーラーで隠す事もしなくなっていた。


 今、テーブルの上の鏡を覗き込んで、久しぶりにコンシーラーを使っている。

 良かった。使い残しのそれは、まだ固まってはいなかった。


 元々、()()()()()()()も無い私なので……最近のメイクはマジックでも引くようにリキッドアイブロウでガシガシ眉描きするくらいだった。

 でも今日は……眉もアイブロウパウダーで整えている。


 この色、質感、若干粉飛びはするが、とても100均とは思えない。

 良き良き!!


 問題は服だ。

 私はこの数日間、猛勉強とリサーチをしてみた。


 その結果、分かったことがある。


 少なくともこの辺りの人は……それがタワマンやプラムガーデンの住人であったとしてもファッション雑誌やショーウィンドウを飾るような最先端の服を身に纏って(まとって)いるわけではないということだ。


 そこで私は3駅先のユーズドセレクトショップに、割引きDAYの水曜日+雨の日割り引きのタイミングで、出かけて行った。


 エントランスからほど近いところに架っていたサイドプリーツになっているジッパータイプのプルオーバー(ベージュとホワイトのツートン)が私の目を惹いた。

 色合いやシルエットはフェミニンで、大きめの黒のカフスボタンが何ともかわいい。即決めし………合わせでグレーのロングスカート風ガウチョも購入した。

 この二着とも、割と“号数”を選ばない感じなのに、着崩れ感がまるでない。


 こんな上質なものが驚くほど安く手に入る。


 紺野さんに言わせると

『いつか着てやろうと箪笥の肥やしになっている服が押し出されて出回っている』結果なんだそうだ。


 私の場合、今までが“DV”に明け暮れていて、この身が細る事はあっても太る事などなかったので『いつか着てやろう』という感覚とは無縁だった。


 今、袖を通して見て、その()()()()()に苦笑いしながらも、窓鏡に写る自分を確かめ頷いた。

 これなら“陽葵”の傍に立っていても様になるだろう……そうだ、あのハイカットのスニーカーを合わせよう。



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 陽葵との初デートは学校帰りのカノジョと待ち合わせしての“グランモール”巡りだ。


 陽葵は駅のアーケードに立っている私を見つけるとランドセルにくっついているキャラクターアイテムを揺らしながら飛ぶように駆け寄って来た。

 今日はカノジョが子犬の様だ。


「マーねーちゃん!! 私、行きたいお店あるんだけど、いい?」


「いいよ、私、“グラモ”って殆ど行かないから、どこへ行っても楽しそうだし、なにより陽葵と一緒だから」


 陽葵は満面の笑顔で私の腕に縋り付いて来た。



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「桜柄のハンカチ……色々あるのね」


 陽葵は春らしいハンカチを買い足したかったようだ。

 そうなるとやはり、開花が待たれる桜の柄に目が行ってしまう。


「これ、マーねーちゃんに似合いそう。蝶のマークの、日本製だって」


「ああ、森〇恵ね。 ね! 陽葵! これなんかどう? かわいいし、タオルハンカチだから使い勝手がいいよ」


「ホント! 少し大人っぽくてかわいい!! これにしようかな……」


「うん、いいと思う、色違いのパープルもあるから私も買おうかな」


「じゃあ! 私も絶対これにする!! だからマーねーちゃんも買って!! そしたらお揃(おそろ)になれる」


「そっか! お揃だね」


 おそらく人生初だ。


 兄とは歳も趣味もはるかに離れていたし、こういったものを持ち合いできる友もオトコも居なかった……


 気が付けば……

 ハンカチを嬉しそうに掲げるこのかわいい“恋人”に向かって

 私も満面の笑顔を返していた。









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