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もっと早くそうすべきだったのに何故今までそうしなかったのだろう

「こ、、小坂君、、よかった、、、間に合った!まにあった!」


私は小坂君の背中にしがみついた。本当に良かった!私は間に合ったのだ!


「小坂君、、こさかくん、、、一人で逝かないで!だめよ!」


あーんあーんと子供のように声をあげて泣いてしまった。ほっとしたんだ。


小坂君は驚いた顔を私に向けた。それから、私がずぶ濡れで、草履もなく、足袋が真っ黒なのに、、、それは、、、驚くよね。自分でもびっくりだよ。

小坂君は腰に下げた手ぬぐいを取って、私の濡れた髪と顔を驚きの面持ちで優しく拭いてくれた。


「・・・どうしたんですか?こんなに濡れてしまって、、風邪をひいてしまいますよ、、、」


私は泣きじゃくったまま、それでも小坂君を離さなかった。手を離したら、もう、捕まえられそうにない気がした。


「・・・黙っていてすみません、、、ああ、、ご婚約おめでとうございます。」


こんな時に!私は言葉が見当たらず、ただ、首を振りながら泣くしかできなかった。

違うのに!違うのに!そうじゃなくて、、、


「こんなに暗くなったら、夏木が心配しますよ。お家にお帰りなさい。」


濡れた着物が、急に重くなった。


私の髪を拭く、小坂君の手をつかむ。


「わ、、、わたし、、と何処かに行こう!わたしと、、生きていこう!」


小坂君は困った顔をした。ああ、そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに、、、


「駄目ですよ。」


きっぱりと小坂君は言った。


「何度か僕も考えました、、正直なところ、、、でも、あなたのようなお嬢様に、物もお金もないような生活は、、、無理ですよ。お帰りなさい。」


「・・・・・」


「さあ、、、風邪をひく前に、、、お帰りなさい。」


小坂君は目を伏せて、、、私の頭をなでてくれた、、、

小坂君、、、あのね、、、


「カトリックは、、自殺できないのよ、、、自分の命は殺せないから、、何人も、殺せないから、、、あなたの宗教は、、生きろとは、説かないの?人生は荒海なんでしょ?生きていく覚悟はあるわ、、、あなたとなら、渡れるわ、、、」



小坂君は私を抱きしめてくれた。泣いてるの?


「君は、、、馬鹿だ、、」


「うん。」


「僕は、、馬鹿だった」


「うん。」






*****



僕は枕元から吹き込む寒い風でふと目を覚ましたのです。雨は幾分小降りになったが、降りやんではいなかった。

玄関の戸がどんどんと叩かれ、僕の名を呼んでいます。まだ明けきらないうちの知らせなど、良いものであったことがありません。


「こちらに夏木さんはご在宅か?」

「はい、私ですが、、、」


玄関を開けると、巡査がずぶ濡れで立っていた。


「身投げがあったようで、、あなた宛ての手紙がありました。確認してください。」


僕は棒立ちに立ち竦みました。僕はああ失策ったと思いました。もう取り返しがつかない。僕はがたがた震えだしたのです。


僕は差し出された手紙を見ました。それは僕の名宛てになっていました。僕は夢中で封を切りました。

中には僕の予期した様な事は何も書いてありませんでした。僕は僕にとってどんなに辛い文句がその中に書き列ねてあるだろうと予期したのです。そうして、もしそれが奥さんやお嬢さんの目に触れたら、どんなに軽蔑されるかも知れないという恐怖があったのです。僕は一寸目を通しただけで、まず助かったと思いました。(固より世間体の上だけで助かったのですが、その世間体がこの場合、僕にとっては非常な重大事件に見えたのです。)


手紙の内容は簡単でした。むしろ抽象的でした。


自分は意志が弱かった。先のことを考えて、このままでは望みがないのでいくことにした。今まで本当に、夏木には世話になった。ありがとう。

後の片づけは面倒だが、君に頼む。部屋を散らかしたままで済まない。奥さんによろしく伝えてくれ。

もっと早くそうすればよかった。


お嬢さんの名前はどこにもなかった。僕は最後まで読んで、Kがわざと避けたのだと気づいた。

後から寝巻の上に普段着の羽織をひっかけて、奥さんが心配そうにのぞき込んでいる。状況がよくわからない奥さんに、

「驚かないでください、、、」

奥さんは青い顔をした。

「奥さん、Kは自殺しました。」





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