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ゲーマー魔王の異世界録  作者: 青瑠璃しおり
1章 異世界転移
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8

「…俺は君の力への執念は異常に見える。夜の森へ単独踏み込み、一人モンスターを狩る。君はどうして…力を欲しているんだ?」


勇聖の問いに真白は肩をすくめ、曖昧にはぐらかす。


「生きるために強くなきゃいけないんだ。僕のやってることがそんなにおかしい?」

「…どうだろう。俺にそれを断ずるほどの知見はないよ。だから、ただの興味本位だ。…いや、違うな」


自分の放った言葉に引っ掛かりを覚えた勇聖はそれを訂正し、己の中の違和感を解いていく。


「…うん、これだな。俺は君という人間に興味がある。だから、話してみたかったんだ」


勇聖のまっすぐな言葉に真白は諦念と興味半々の心情のまま月を見上げる。

月の位置からして、およそ3時ごろ。

皆が起き出すまで少なくとも3時間はある。


真白は適当に枝葉を集め、生活魔法で火をつける。

その行動を了承と受け取った勇聖は嬉しそうに笑うと焚火を挟んで真白の正面へと座る。


「…強さに執着か。してるんだろうな、きっと。富士宮くんは後悔したことある?」

「もちろん。きっとしたことない奴なんていないと思う」

「僕もそう思うよ。じゃあ、後悔の原因はなんだと思う?」


漠然とした問いに勇聖は疑問符を浮かべる。

後悔にもシチュエーションがある。その時によって理由など違うはずでは?

勇聖の顔に分かりやすく書いており、真白は少し笑みをこぼす。


「笑ってるところを始めてみた気がするよ。学校でも一人でスマホ触ってるか本読んでるかだから」

「仏頂面で悪かったね」


少し拗ねたように呟く慌てて謝り、空気を換えようと話を元の路線へと戻し答えを探す。


「…自分に噓をつく、とか?」

「そういうシチュエーションもあるかもね。でも、僕は総じて後悔するのは力がないからだと思う。力がないから失敗する。力がないから自分を押し通せず嘘をつく。力がないから…誰かを守れない」


最後の一つにはやけに気持ちがこもっていた。

踏み込んでいいものか悩み、言葉に迷っていると真白は力なく笑う。


「気にしなくていいよ。そーゆうのも含めて話してもいいと思ったから席に着いたんだ」


それでも勇聖はなにかあったのかと遠慮がちに問う。


「昔…小学生くらいのころかな?あの頃ってずっと凛といたんだよね。幼馴染だったし、凛はお姉さんぶってよく弱かった僕のことをかばってくれた」


懐かしい思い出をかみしめるように言葉を選ぶ。

幼少の真白は今よりずっと大人しく弱虫で凛は大分、やんちゃだった。

クラスのいじめっ子にからかわれ泣いていた真白をいつも凛は助けてくれた。


「だけど、一度僕をかばって殴られたことがあってね。焦っていじめっ子は逃げてったんだけど、痛くて泣く凛を忘れられなくてね。あれは僕の弱さで後悔で強さを求める根源だ」


人からすれば大したことはないかもしれないが真白にとっては強さを意識するようになった事件だった。


「それで、柔道始めたり合気道したりしてたんだよね。大会で結果出すまではいかなかったけどね」

「…少し君のことがわかったような気がするよ」

「そう?じゃあ、今度はこっちが聞く番かな」


と言ったものの、正直真白は勇聖に大した興味は持っていなかった。

少し考えてふと思いついたことを口にした。


「富士宮くんはリーダー辛くないの?こんな世界に来て全員分の命背負うなんてそれこそ、僕からしたら以上だよ」


少し困ったように笑うといつもの微笑で真白の質問に答える。


「辛くはないさ。誰かがやらなきゃいけないことだし、それに僕一人が皆の命を背負ってるわけじゃない。出雲くんも八重さんも凛も。それに憲剛たちだってそうだ。みんなに支えられてるからリーダーをやれてるんだ」

「…その皆は誰かが死んだときも一緒に責任を背負ってくれるの?」


我ながら意地の悪い質問だ。しかし、聞かざるを得なかった。

ただの理想論を振りかざすだけの子供か。それとも、覚悟を決めたリーダーか。

己の命を預けるに値するか判断したかった。


「質問の意図から少しズレるかもしれないが答えはこうだ。誰も死なせない。もし、死ぬとしたら俺が一番初めだ」


勇聖のことを少し軽く見ていたかもしれない。

知識もなく善性とカリスマだけで祭り上げられ、自分が特別だと思っている高校生。少なくとも真白はそう思っていた。だからこそ、興味というものを持っていなかった。


しかし、勇聖の本質はそうではなかった。

自己犠牲すらいとわない突き抜けた善。仲間のためなら死すら受け入れる覚悟。


「ごめん、意地悪な質問だったよ」

「いや、いいんだ。むしろ、問われるごとに身が引き締まって、覚悟も決まる。理想の道を歩いていけるような気がするんだ」


つまり、富士宮勇聖という男は底抜けにいい人なのだ。

自分とは対照的な存在に心が惹かれるのを感じる。

それと同時に危機感のようなものを覚えた。どこか大事な時に道を違えてしまいそうな相容れない存在だと。


「いた、シロ。…富士宮も一緒だ。珍しい」

「今日は客が多いなぁ」


眠いのか瞼をこすり、あくびを噛み殺しながら凛が現れる。

右手に持つ剣には血がべったりと張り付いており、何戦か交えてきたのだろう。


「ごーほーむ。富士宮」

「え?俺、今出雲くんと…」

「ごーほーむ」


有無を言わさぬ理不尽な命令に言い返せず、助けを求めるように真白を見る。

しかし、言い出したら聞かないことは真白が一番知っている。申し訳なさそうに首を横に振る。ショックを受けた勇聖は渋々と立ち上がり森へと消えていく。


「富士宮くん!夜はいつもここにいるから!」

「…!また、来るよ!」


最後に笑顔を取り戻した勇聖は手を振りながら夜闇へと紛れていく。

そんな勇聖を見送り、一拍空け凛へと言葉をかける。


「で、何しに来たの?」

「弱虫に修行をつけにね」


帰ってきた言葉に真白は目を丸くする。

修行なんて言葉は天才肌の凛からは縁遠い言葉なうえ、基本的に他人の面倒なんて見ようとしない。


「どういう風の吹き回し?」

「たまにはね」


まともな答えは得られず曖昧にはぐらかす。


「理由なんてどうでもいい?強くなれるなら。違う?」

「…っ!そうだな。凛の言う通りだ」

「ん、それでいい。じゃあ、構えて」


そう言って自然体で脱力する。凛に構えはない。

真白は逆手でナイフを握り、顔の前に構える。

瞬間、夜闇を切り裂くように凛の振るった剣が閃いた。


「重っ!」

「女の子に重いとか言わない」

「言って…ない!」


一振り目を何とか弾き、続いて振るわれた二振り目をしゃがんで躱し、牽制代わりに蹴りを放ち距離をとる。

その剣は勇聖を軽く凌駕するほどの重さだった。


(パワーのステータスが富士宮くんより高いとは考えづらい…。何かからくりがあるはず)


ナイフで受けるのをやめ、今はただ回避に専念する。

型のない剣に目で追うのも困難なほどの剣速。凛の癖を熟知してる真白だからこそなんとか回避できている。


「もう一段ギアをあげる」

「ちょっと待て!まじか!」


起こりすら見えない高速の剣撃は真白は回避さえ許されなかった。



「本当に容赦ないな…めちゃくちゃ痛い…」

「勝てばいい話。弱いのが悪い」


錆びた鉄の剣はもはや切れ味を失い、打撃武器として真白の体にいくつかのあざを残す。

レベルが上がっていなければ骨が折れてもおかしくはない。


「それで?これが、修行ってわけじゃないだろ?」

「ご明察。じゃあ、今から修業を始める」


そう言うとなぜか木を斬りつけた。

樹皮を寸断し、少しめり込んだところで剣は止まる。


「こんなもん」

「…いや、おかしいな。さっきはそんなもんじゃなかったろ。…なるほどな、身体強化ってことか」


凛の意図を察し、先んじて答えを出す。凛は正解だと無言でうなずいた。

身体強化。異世界ものだと定番の強化だ。

真白たちは知らないが実際、クラスのオタクたちは即座に思いつき、その困難さに挫折しているというエピソードがある。

オタクはオタクでもゲームオタクの真白は自身では辿り着かなかった。


「それで、方法教えてくれるの?」

「ん」


凛は魔力による身体強化を行うともう一度木へと剣を振るった。


「…すごいな」


剣は木に半分以上めり込みようやく止まった。

素の力であれば今の凛は精々、真白と同等だが身体強化した凛は勇聖すら上回るだろう。


「魔力を纏う。これだけ」

「それだけか?意外と…あれ?」


魔力を魔力のままで扱う感覚がわからない。


「普段は魔法スキルを通して魔力を放ってるだけ。魔力を魔力のままで扱うにはコツがいる」


厳密には魔法を発動するには様々なプロセスを必要とするが割愛する。

ただ魔法を使う際は体内から魔力をそのままで放出することはない。術式を通し、魔法という現象を発動させるキーとして魔力を運用している。


「…体内をめぐる魔力の感覚は分かる」

「それを、体外に出す」


そこから、30分ほど四苦八苦しながらなんとか魔力を放出することに成功する。

その時点で、凛はこくりこくりとすでに舟をこいでいた。


「ここから、纏う…!」


漂う魔力を纏う。言葉にすると簡単だが実際には容易ではない。

凛にアドバイスを聞いても見たが案の定まともなアドバイスをもらうことはできなかった。


「珍しく人の面倒見に来たと思えばこれが目的か…」


凛はつまり、言語化してほしいのだろう。

感覚派筆頭の凛の助言では魔法の修練の際も多くのクラスメイト達が困惑したという。

皆の前で言ってもよかったのだろうが自身のアドバイスでより混乱させることを避けたのだろう。


「でも、これでもっと強くなれる…!」

「シロ、私は戻って寝る」

「うん、ありがとう、凛」

「ん」



鼻歌交じり朝が混じった空を見上げながらご機嫌に森の中を歩く。


真白予想は外れていた。

実際、凛はクラスメイトの大半がどうなろうとどうでもよかったし、身体強化の技術を独占してもよかった。

しかし、それをしなかったのは理由があったから。


「シロは最強じゃなくちゃ」

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