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ゲーマー魔王の異世界録  作者: 青瑠璃しおり
1章 異世界転移
5/11

絶叫に目を覚まし、重い瞼をこすりながら周囲を観察すれば女子が集団で不満をぶつけているようだ。

飛鳥や深月、桜は少し離れたところで様子を窺っている。


「起きた。シロ、ご飯あるよ」

「サンキュ。で、あれ何してんの?」


なぜか集団から外れた場所で寝ている真白のそばにいた凛が確保してくれていた焼き魚を差し出す。

受け取ったついでに、事情を聴いてみればあきれたように話し始めた。


「風呂入りたいんだって」

「あー、もう四日目だもんな。ゴブリンが多いから水浴びもできないしね。不満が出るのも仕方がないか」


不満が出るのも余裕がある証拠ととらえれば悪くはない。

しかし、風呂となると難しいだろう。なにより、風呂に割くほどの余力はない。


「そういえば、なんかあったな」


ふと、思い出しステータスを開く。隣の凛もひょこっとのぞき込んでくる。

思い当たったのは生活魔法のスキル。魔力の感覚をつかめてきたとはいえ、まだ魔法を発動させるには至らなかったため忘れていた。

しかし、今の場面にはぴったりのスキルだ。


「凛、試してみてもいい?」

「ん。どんとこい」

「どっち?」


手を広げ、受け入れ態勢をとる凛に魔法を唱える。

丁寧に、丁寧に、スキルによって与えられた知識をなぞるように魔力を込める。


「生活魔法”洗浄(ウォッシュ)”」

「おお~!さっぱり。でも、濡れるんだけど」

「そりゃな。まあ、もう一つあるから。乾燥(ドライ)

「乾いた。すごい」

「でも、これすごい疲れるな。全員分はきついかも」


となると、仲のいいメンバーだけ。いや、それは気づかれたときに揉め事の種になる。

しかし、いい魔法練習になるためこの機会を逃す手はない。


「ばれなきゃいいか」


そう結論付けるとまずは桜のもとへと歩いていく。

こちらに気づいた桜は一瞬、顔をほころばせるがすぐに距離を取ろうと数歩下がる。

その態度に不思議そうに首をかしげるが気づいた様子はない。


「桜、ちょっといい?」

「えっと、いいかと言われるとノーなんですけど…。な、ないかありましたか?」

「少し相談が。…ここじゃ、ちょっと困るから移動したいんだけど」

「今は…あの…(い、今絶対汗臭いですよね!?今までは気にする余裕もなかったですけど言われると気になってきて…。汗臭いなんて真白に思われるのは絶対ノー!乙女的にノーです!)」


歯切れの悪い桜にしびれを切らした真白は周囲の注意がこちらに向いてないことを確認すると、桜に近づき魔法をかける。


「ごめん、タオルだけ巻いててもらえる?」

「だ、大丈夫ですけど…」


集中し、己の体内の魔力を探る。


洗浄(ウォッシュ)乾燥(ドライ)

「え?これって…すごいさっぱりしてます!」

「よかった。成功だ」


成功したことに安堵し、ほっと息を吐く。

どうやら完璧に魔法の感覚はつかめたようだ。あとは、反復練習だが…。


「すごいですよ!きっと皆さん喜ばれますよ!」

「みんなにしてあげたいところだけどね。今は、魔力が持たないだろうから内緒でお願い」

「…ちょっと遅かったかもです」


桜の一言に気が付けば、喧噪は消えている。

恐る恐る後ろを振り返れば不満を爆発させていた紫日茄子(むらさきひなこ)が期待に満ちた目でこちらを見ていた。


「あー…これは、その…」


言い訳を探す真白に以外にも日茄子は手を合わせ、頭を下げる。


「お願い!もう限界なの!髪もぎしってるしもう限界なの!」


期待と切実のこもったお願いを真白は切り捨てることはできなかった。



「うぅ…体が重い…。って、寝てたのか」


魔力切れか、疲労か。どちらか分からないがどうやら倒れてしまったようだ。

一応、全員に魔法はかけ切ったはずだ。


「おはよう。出雲くん」

「冨士宮くん。火の番ありがとうね」


体を起こし、簡易的に拵えられた椅子に腰を掛ける。

隣から水を差し出され、一度は受け取るが存在に気づかなかったため驚いて勢いよく振り向いた。


「紫さん?水、ありがとう」

「いいのよ。気にしないで…」


何やら普段の彼女らしくない。気が強く、歯に衣着せぬ物言いだが今はもじもじし、何かを切り出せないでいるようだ。

気まずさに思わず、逃げてしまおうと立ち上がろうとすれば「座りなさい」と圧のある一言をいただいてしまった。

勇聖も見ているだけで口を出そうとしない。

いたたまれない空気に耐えきれなくなった頃、日茄子がようやく口を開いた。


「無理させてごめん…。それと、ありがとう。それだけ!」


本当にそれだけ言うと、自分の寝床へと戻っていく。


「あれでも日茄子、君が倒れてすごい心配していたし、後悔していたんだよ。『私が頼んだせいで無理させちゃったー!』って。あー見えて優しい子なんだ。邪険にしないでくれると嬉しいな」

「しないよ。わざわざ起きるのを待っていてくれたので十分優しさは伝わるよ」


水を飲み干すころには体も楽になってきた。

そして、日茄子と入れ替わるように凛と桜がやってきたので作戦会議を始める。


「遠征部隊を立てたい」

「て言うと?」

「次の拠点地を探す少数部隊かな。そろそろ移動したいけど候補もないまま全員で移動はさすがにリスクが高すぎるからね」


真白の方針にほかの3名は頷き、肯定の意を示す。

ただ、まだ多くの問題点も残っている。


「一つ目が最低限の戦力を持った人が5人はほしい。少なくともゴブリンメイジを一人で倒せるレベルは欲しい」

「そういえば、飛鳥に善戦したらしいね。俺でも一本も取れたことないのに。あ、俺たち以外は聞いてないよ。安心してくれ」


真白の苦虫を嚙み潰したような顔に慌ててフォローを入れる。

「結局、言いふらしやがった。あの口軽女」と悪態をつく。

それた話を主軸に戻すため、咳払いで空気を一度リセットする。


「それじゃあ、一人目は真白で二人目は弥生さんですね。では、残り3人ですか…」

「パーティー的に欲しいのはタンクとヒーラーとバッファー」

「ゲーム用語で話すのやめい。二人がはてな浮かべてんだろ」


ようは盾役と回復役と支援役が欲しいということを伝えると、二人は選定に入る。

しかし、もう一人は決まっている。


「一人は深月にする。極力戦闘は避けるため斥候は欲しい」

「わかった。そしたら、あと二人の選定は俺に任せてくれないか?」


勇聖の言葉にうなずき、話を別の問題点へと移す。

夜も深まる中、4人は喧々囂々会議を進ませた。



「どうしてこうなった…」


真白は一人頭を抱えていた。

朝食を終えた後での全体ミーティングが行われ、遠征部隊が発表された。

そのメンバーが問題だった。全員女子。

真白は知っていた。女子高生という生き物は集まれば延々と話し続ける生き物だと。


「両手に花どころの話ではないな。嬉しいんじゃないか?」

「少なくとも一輪はとげだらけだね。その上、毒まであると来た」

「おや、しごきが足りなかったか。次は無駄なく口を叩けなくなるまでトレーニングを課さなくてはな」

「勘弁してくれ」


あの戦い以降…正確にはそのことを勇聖に言ったことで真白が気を使うことを以降、二人の関係は気安くなった。軽口を叩きあいながら、勇聖の言葉は聞き流す。


「しかし、遠征か…。思い切ったことを考えるな。下手をすれば今生の別れになるやもしれんぞ?」

「そうならないためのメンバーでしょ」


残りのメンバーは斥候(スカウト)の瀬古深月。暗黒剣士の双星悠香(ふたほしはるか)。魔法使いの三束光湖だ。

幸い全員と多寡はあれど親交はある。一から信頼関係を築く手間が省けるのは良い。

チラリと視線を向ければ深月と悠香、光湖が喜びあっている。


「出雲くん。調子はどう?」

「ぼちぼちだよ」


気が付けばミーティングは終わっており、それぞれ振り分けられた仕事をこなすため散っていく。

勇聖は詳しい説明をするためにほかのメンバーを集め、集まったのを確認してから説明を始めた。


「遠征に出てもらうのは3日後。それまでは、連携訓練とレベル上げに専念してもらいたい。リーダーは飛鳥に任せたい」


勇聖の言葉に少し驚いた様子を見せた後、納得したのか頷く。

全ての説明を終え、不備はないか視線で投げかけられそれに答えるようにうなずく。


「それじゃあ、あとは任せたよ」

「よし、じゃあ、早速森へと出るか」



レベル上げついでに各々の力量を確認し、戦略を立てていく。

ゴブリンメイジが一匹程度であれば、飛鳥が何とかしてくれるだろう。

しかし、3匹以上の場合、今の戦力のままだと無傷で戦闘を終えられる保証はできない。


「紫さんがついてきてくれればよかったんだけどなぁ」

「それは高望みというものだ。回復役は貴重だ。人数の多い方に置いておくのが妥当だろう」


今は深月がゴブリンとの1対1を行っている。

悠香は危険はないと囃し立て、光湖はいつでも魔法を放てるようスタンバイしている。

そんな中、飛鳥はというとなぜかずっと隣にいる。


「…正直、私は君がリーダーを務めるものだと思っていたが」

「なんでさ。カリスマもあって責任感も強い飛鳥が適任だろ?」

「普通に考えて、富士宮くんと出雲くんが繋がってないとこのメンバーには入らないよ。周りの君の戦力評価はゴブリンと同等なんだから危険の多いこの部隊に入るのはおかしい」


あんまりの評価に苦笑するが、まともに戦闘を見せたことはないので適正評価なのかもしれない。


「ま、異世界知識がない富士宮くんに頼まれたんだよ。遠征組に入ったのも、そういう面を含めだよ」

「君がブレーンだろ?」


確信を持っているようで、真白は誤魔化すのを諦めた。


「意外と隠し事苦手なのかな、僕」

「察しが良すぎてすまないな。まあ、そういう違和感を覚える人もいるという忠告だ」


ちょうど息を荒げた深月がゴブリンを倒し、全員の戦力把握が終わった。

飛鳥は少し思案すると皆を集めた。


「思ったより弱い。私の望むレベルに達していないな」

「私頑張ったんだけど~!」


不満を垂れる深月を無視し、あくどい笑みを浮かべる。


「まあ、安心したまえ。あと3日もある。この私がそこのレベルまで引きあげてやる」


4人は思い出した。道場前で泣き果てている女子剣道部の姿を…。

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