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ゲーマー魔王の異世界録  作者: 青瑠璃しおり
1章 異世界転移
4/11

4

ゴブリンに追われ、闇雲に森を走り抜けた深月をさらに追って、深くまで入り込んでしまったようだ。

あちらの方は富士宮も飛鳥もいるから大丈夫だろうがどうやって合流するか…。


「…ごめん、出雲ん。私のせいで」

「なに謝ってんのさ。そんなに殊勝だったけ?いいからついてこい」


珍しく素直に謝る深月をからかい、元来た道を戻る。

と言っても、手がかりは得意になく、己の感覚に身を任せ歩いていく。


「そういえば、深月のクラスはなんだったの?レベル上げってことは戦闘職でしょ?」

「えっとね、斥候(スカウト)だよ。探知とか罠解除とかのスキルがある」

斥候(スカウト)か。直接、戦闘するクラスじゃないけど今の僕たちには必要だな。周囲の敵探知ができるならより安全になる」

「そう言われると緊張するんですけど」


深月と話しながら二人、見覚えのある気がする道を進んでいく。

責任を感じて、落ち込んでいた深月も徐々に元気を取り戻していった。そして、


「ね、ねえ、出雲ん。すごい頭の中でアラームガンガンになってるんだけど何かなこれ?わかる?」

「危険察知スキルか。静かに進もう」


一歩進むごとにアラームが大きくなるのか深月は苦しそうに顔をゆがめる。

少し進んだところでアラームの元凶を発見した。

それは、先ほどの群れにいた魔法を使うゴブリン…便宜上ゴブリンメイジとしよう。

体中に傷はあるものの弱った様子はない。おそらく、安全を優先し深追いはしなかったのだろう。


「あれってさっき魔法使ってたゴブリンだよね?どうする?」

「戦闘は避けたいところだけど…」


迂回するにもゴブリンメイジがいるところは広く開けており迂回するにもだいぶ大回りしなくてはいけない。道も分からない状況で元のルートに合流できるか。

真白が思案する横で深月がくしゃみをした。


「お前…!」

「ご、ごめん!怒んないで!じゃなくて、逃げないと!」


踵を返し、一目散に逃げる。

ゴブリンメイジも見逃す気はないらしく、魔法を唱えながら追ってくる。

飛来する火球を命からがら回避する。


「深月のくしゃみがもっと可愛ければばれなかったのに」

「誰のくしゃみがおっさんだよ!」


ただ逃げるのも芸がないと真白は木でゴブリンメイジの視線を遮り、死角に入る。


「深月は走って」


それだけ言うと、姿勢を低くし茂みに紛れ横合いから奇襲する。

ナイフの一撃。これは、頬を掠るにとどまる。

勢いのまま、体重をかけた蹴撃で吹き飛ばす。


「よし、逃げるか」


近接の反応も硬さも通常のゴブリンとは比にならない。

ゴブリンメイジはゴブリンの完全な上位種のようだ。




「何とか逃げ切れたな…」

「はぁ…はぁ…もう走れないよ…。疲れた…」


走りつかれへたり込む深月の代わりに周囲の警戒を行う。

敵影はないが、木の影や茂みなど死角も多く、完全に把握はしきれない。

その上、戻る道も完全に見失った。


「遭難ですか?そうなんですってこと?」

「その口、結ぶよ。はぁ…本当にどうしようか」


途方に暮れる真白にさすがの深月も事態を重く見たのかあわあわしてる。


「…ん?誰か来る。敵じゃないと思う。さっきのアラームが鳴らないから」

「探したぞ、二人とも」

「弥生さーん!」


現れたのは現代の侍、飛鳥だった。

相当、探し回ったのか額に汗をたらし、息を切らしている。


「よかったよ~!弥生さんが来てくれて安心した!」

「何もなかったか?」

「真白に変なことされた!」

「おいこら」


相変わらずの人懐っこさで飛鳥に抱き着き、ありもしないほらを吹聴する。

そんな深月を飛鳥は優しい笑みでなだめている。


「そうか。それはあとで出雲くんに説教だな。よし、みんな待っているし戻ろうか」

「弥生さんレベル上げ組の場所分かるの!?」

「いや、さすがにわからない」


希望に満ち溢れた顔が飛鳥の一言で再び絶望に落ちる。


「終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!みんなのところに戻れず誰にも知られずひっそりと死んでいくんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なにを言ってるんだ。早く拠点に戻るぞ」

「弥生さんこそ何を言ってるのさ!拠点なんて…あ」

「川の近くに拠点を立てたんだから川沿いを歩けば近くに出るだろう。瀬古さんはともかく出雲くんも思い至らなかったのか…」

「返す言葉もない」


全く飛鳥の言うとおりだった。

少し考えれば普段の真白であれば思い至ったはずだが慣れない地で遭難し、焦燥もあったのかもしれない。


「では、帰ろうか」



「…まずいな」

「そうだな。迂回してもいいが、結局問題を先延ばしにするだけだ」


飛鳥と真白の会話に深月は後ろで不思議そうに聞いている。

3人の視線の先には10匹近いゴブリンと3度目の再会を果たしたゴブリンメイジ。


「…迂回したら?」

「ここ、見覚えないか?」


深月は目を細め、よく注視し、ようやく気付いた。そこが拠点のすぐ近くだということが。

さらに言えば、ゴブリンたちは近くに拠点があるのを知ってか知らずか拠点の方角へ向けて行進している。つまり、


「ここで見逃せば、先に襲撃されるかも?」

「そうだな。迂回するならぐるっと大回りをしなきゃいけない。見つかるかもだからな。だけど、大回りすればおそらく先にゴブリンたちが拠点に着く」

「…やばくね?」

「だから、さっきからそう言ってる」


深月と真白のやりとりをそばで静かに聞いていた飛鳥は静かに立ち上がると竹刀に手をかけた。

察した真白もナイフを手に取った。

深月だけが慌てふためき、置いてけぼりだ。


「考える時間もないし、性に合わんな。出雲くん、取り巻きと本命どちらがいい?」

「じゃあ、取り巻きで。美味しいところは上げますよ」


飛鳥はニヤリと笑うと茂みから飛び出し、一瞬で接敵する。

ゴブリンたちが気づいた時には刀は振るわれ、2匹のゴブリンの首が舞う。


「では、真剣勝負といこうか。メイジよ」


ゴブリンメイジと立ち会う飛鳥に群がろうとする取り巻きを次は真白が阻止するように立ち回る。

深追いせず、安全圏から少しずつ削り取っていく。

動きが直線的で短絡的。動きを観察し、先を読み、出鼻を挫き、行動すらさせない。

何匹いようがこの程度、真白にとっては朝飯前だ。


「…すごい立ち回りだな。力はない、速さも特筆したものではない。それなのに、早い。不思議だな。…おっと」


よそ見をするなとばかりに振るわれた杖を簡単にさばき、腹部に蹴りを入れ、頭が下がったところに柄で殴打する。

体勢を崩し、膝をついたゴブリンメイジの首に無慈悲なギロチンが振るわれた。


「たわいなかったな。では、助太刀しよう。…おや?」


リーダー格のゴブリンメイジがやられたとみると取り巻きたちは蜘蛛の子を散らすように逃走する。

拍子抜けだ、と肩をすくめると真白へと声をかける。


「さすがだな。私が見込んだだけある。あの数を容易くさばける武人はそういない。おそらく、富士宮くんでも無理だろうな」

「それはさすがに言い過ぎだよ。僕にできることなんて富士宮くんも簡単にやってのけるよ」

「ふむ」


飛鳥は無造作に竹刀を振るった。

どうしてか力量を隠そうとする真白を試した不意打ちであったが、それに対する返答は想像以上のものだった。


「誇っていいぞ。一度、富士宮くんにも同じことをしたことがあるが彼は反応しただけで避けることはできなかったからな。まさか、はじいたうえで反撃されるとは思わなかったよ」

「両手での攻撃だったらはじけなかったよ」

「その代わり予備動作が大きくなって簡単に避けられるか?どちらにしろだな」


飛鳥の不意打ちをナイフで弾いた真白は流れのまま勢いを殺さず首元めがけてナイフを振るった。

しかし、あっさりと手首をつかまれる。


「ちょっと、ちょっとー!なに?喧嘩?ダメだよ、仲良くしないと!」

「安心してくれ。じゃれあいのようなものだ」


そう言う飛鳥からゴブリンメイジの時には見られなかった嬉しそうな笑みが消えることはない。

強敵を見つけた時の嬉しそうな笑みを。


「まだ帰るには早いだろう。レベル上げにも飽き飽きしていたところだ。どうだ?一つ手合わせを」

「…断りたいところだけど、簡単に納得してくれなさそうだしなぁ。いいよ。ただし、条件が一つ」

「飲もう」

「僕が勝ったら口外しないこと。もちろん、深月もね」

「了承した。では、瀬古さん。開始の合図を頼む」


数歩離れてお互いが構える。

飛鳥は隠す気もないのか腰を落とし、剣先をこちらへ向ける。突きの構えだ。

真白はそれを確認し、逆手で顔の前にナイフを構える。


「け、怪我しないでよ!?じゃあ、開始!」


宣言と同時に飛鳥は距離を縮め、最短距離最速で突きを放った。


(これも躱すか…!)


真白はタイミングを合わせ、跳ね上げるようにナイフを振るった。

言うは易しだが剣道女子の頂点…いや、男子を含め飛鳥の突きが見える人間などそういない。

ましてや、ただの高校生である真白に見えるはずなどない。


(速っ!けど、読みはあってた。次は…)


真白が唯一、飛鳥に勝っていることがあるとすればそれは、対人戦の経験だろう。

リアルとゲームの差があれど、最近のフルダイブ型VRゲームの戦闘はリアルにも劣らぬクオリティにまで上がっている。

万を超える戦闘経験が速さで劣る真白が飛鳥に打ち合うことができる理由だった。


「面白い!もっと早く知りたかったよ。君がこんなに強かったなんて」


戦闘中だというのに飛鳥からは笑みが綻ぶ。

強者との戦いを望み、その果てで頂点へとたどり着いた飛鳥の渇き。久しぶりにその渇きを潤してくれる者が現れたのだ。喜びを抑えられないのも仕方がない。

感情的にギアを上げていく飛鳥に真白は対照的に感情を極力排除し、冷静に観察を続ける。


(右を踏み込んだけど、これはフェイント。本命は…)

「これも防ぐか!何も通じないな!」


勝負は五分五分だった。

しかし、真白が攻撃を防ぐほど攻撃の苛烈さ、速さが増していく飛鳥。

飛鳥の挙動を見るほど分析が進み、読みの精度を高める真白。

これは、どちらが早く相手を攻略するかの勝負だった。


そして、ここにきて初めて真白が攻勢へと転じた。

袈裟を着るように振り下ろされた竹刀を躱してからの上段蹴り。

これは簡単に防がれたがそこが転機だった。


飛鳥の攻撃の間を縫うように振るわれるナイフに徐々に防御に回る時間が増えていく。

フェイントにもかからず、機械的に隙をついていく。

そして、気づけば攻守は反転していた。


(本当に不思議だ。鋭さが足りない。怖さが足りない。しかし、気が付けば先にナイフが置かれている)


今まで戦った誰にもなかった得体のしれない恐怖。

しかし、それは足を止める理由にも刀が鈍る理由にもなりえなかった。

流れるような真白の連撃の中、飛鳥は自然に隙を見せた。


「…っ!」


ナイフを振るった瞬間、真白は気づいた。ここは死地だと。

腕を無理やり止め、不安定な体制のまま後ろへと飛び退きできるだけ距離をとる。


「残念だ。あの隙にくらいつけば一撃もらうのと引き換えに腕をもらったんだがな。さすがだ」

「まだまだ、余裕そうですね…」


すでに息が切れ、体力の切れかかっている真白。

対する飛鳥は普段から厳しい鍛錬に身を投じ、アスリートと比較しても体力は劣らない。


「そうだな。私が勝ったら毎朝、トレーニングに付き合ってもらおうか。拒否はさせんぞ?」

「後出しはずるくないですか?」

「古くから言うだろう?勝てば官軍だと」


再び、飛鳥が接近する。大振りの一撃の軌道にナイフを入れ、弾かれた。


「っ!」

「ほら、次いくぞ?」


速さから力へと切り替えた飛鳥の攻撃に対応できず、弾かれた勢いのまま数歩下がる。

しかし、その距離をゼロにするように飛鳥は前進する。

上段からの大振り。回避を諦め、ナイフでガードに転じる。


読みも予測も意味をなさぬシンプルな一撃。

しかし、一度受ければ体勢を崩したまま追撃を受けることになる。

一度、体勢を立て直し、息を整えたい真白だが飛鳥もそれを分かっておりつかず離れずの距離を保っている。


しかし、このまま崩されるほど真白も甘くはない。

再度、振るわれた上段からの一撃をナイフで滑らせるように逸らし、そのままの勢いで攻撃へと転じた。

体勢を崩した飛鳥は隙だらけ。


(決まった!)

「まだ甘いな」


腕をとられ、捻られたと思った次の瞬間には地面に転がっていた。

そして、竹刀の切っ先を突き付けられる。

空を見上げる真白にできるのはせいぜい両手を上げ、降参の意を示すことだけだった。


「そういえば、合気道も有段者なんだっけ?」

「剣に比べれば手慰みのようなものだがな。いい勝負だった、出雲くん」


差し出された手を握れば、引っ張り上げてくれる。


「はぁ…明日から早起きか。苦手なんだよなぁ」

「そういえば、聞きたかったのだがなぜ勝てば黙っていることが条件なんだ?私に勝ったなど生涯自慢していけるぞ」

「目立つの苦手だからね。僕は陰でひっそり知略を巡らせるほうが好きなんだよ」

「なら、手を抜けばよかったのではないか」


飛鳥の言うことももっともだ。しかし


「勝負するのに負けるなんて癪でしょ?はなから負けることを考えて勝負なんてしないよ」

「ふははは!とんでもない負けず嫌いだな。うむ、この勝負のことは黙っていてやろう。いい勝負をさせてもらった礼だ」


上機嫌にそう告げると飛鳥は拠点の方へと歩を進める。

飛鳥に続こうとする真白の背中に軽い衝撃が走る。


「出雲~!めっちゃ強いじゃんか!見直したよ!」

「ありがとう。疲れてるから離れて?」


飛鳥にあてられたのか妙にハイテンションな深月が身振り手振りを加え、興奮を伝える。

すでに疲労もマックスな真白は相手にするのもしんどくてきとうにあしらい、一刻も早く休むために拠点へと足を速めた。



「もう無理!ありえない!」


真白が起きたのはそんなクラスメイトの女子の絶叫だった。

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