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ゲーマー魔王の異世界録  作者: 青瑠璃しおり
1章 異世界転移
2/11

2

「と、今説明したとおりだ。これからは安全を痕が得てこの方針でいく」


昨晩の作戦会議通り凛は富士宮を誘導することに成功したようで、こっそりとこちらへ向けてVサインを送っている。

少しだけ褒めてやらんこともない。

富士宮たちによって選抜されたメンバーたちは緊張半分不安半分といった面持ちで立ち上がる。

富士宮、鷹月を筆頭に凛を含めた8名が選抜された。


「出雲くん」


クイクイっと袖を引かれる。

隣の桜は小声でこしょこしょと内緒話を始める。


「ちょっとご相談があるんですけど…。あとでいいですか?」

「相談?僕が解決できる範囲なら…」


今日の僕たちの担当は食料確保だ。

川へと入り、みんなから少し離れて桜の相談とやらを聞く。


「私も戦えるようになりたいんです!この危ない世界で守ってもらってばかりは嫌なんです!」

「お、おう…」


勢いのすごさに思わず気圧されてしまう。

桜自身も思ったより大きな声が出てしまったのが恥ずかしくなったのかコホンと咳払いして場を仕切りなおす。


「昨日も一昨日も私は出雲くんと凛さんに守ってもらいました。それ自体はすごく嬉しかったです。だからこそ、隣に並んで戦いたいんです。出雲くんが危険になったとき、今度は私が助けたいんです」


真白は返答に困る。

そもそも、真白がレベル上げを優先した理由の一つとして自分が守れないときでも誰かが桜を守れるようにという意図があった。

しかし、本人が恐怖を踏み越えて望んでいるのを断っていいものか。

見れば、今も手が震えている。


「…分かった。僕でよければ最低限自衛の術は教える」

「っ!ありがとうございます!」

「まずは八重さんのステータスを見せてほしい」


桜は頷くと素直にステータスを表示する。

クラスは巫女。INTとMNDの高いサポート型か。INTは魔法の威力、MNDは魔法の防御に関係する。

スキルの巫術がきっと戦闘のメインになってくるだろう。


「…ふじゅつ」

「ふじゅちゅ…」


噛んだ。かわいい。…じゃなくて。


「イメージがつかないな…。これを軸に戦闘スタイルを決める必要があるんだけど」

「結界術や封印術…霊符作成…ができるみたいですね」


巫術に関して僕が指導できることはなさそうだ。

2日間の検証でわかったことだがスキルは所持者に知識を与えてくれる。

その知識をもとに鍛錬することで更に新たな知識を得られ、成長していく。

碌に戦ったことのない真白がゴブリン相手にナイフ一本でまともに戦えたのも武器術スキルがあったからだ。

魔法に関してはスキルがあったとしても魔力を扱う感覚を掴めないため、みんなが苦労している。


「巫術に関しては手探りだけど、自分でやっていくしかないね。近接スキルはないけど…近づかれても味方のフォローが来るまで凌ぐくらいの技術は必要だな…」

「運動は得意です!ビシバシしごいてください!」


やる気は十分。しかし、困ったことに僕が教えることがない。

魔力の感覚は未だつかめず、近接の訓練とは言え、女の子を攻撃するわけにはいかない。


「八重さん。免許皆伝だ」

「まだなにもしてないよ!?」


これは凛にお願いしたほうが都合がよさそうだ。

しかし、請け負った以上なにかしら役に立ちたい。


「なにか僕にできること…神獣召喚?」


なにやらチートなにおいを感じるユニークスキルだ。


「あ、それ私も気になってたんですよ。召喚陣?を書くことで発動するらしくて…。やってみませんか?」

「そうだね。やってみよう」


皆にばれないように森の中へと移動し半径一メートルくらいの陣を描く。

幾何学的な文様に読めない字はまさに魔法陣だった。


「できました!じゃ、じゃあ!呼びますよ?」


期待半分、不安半分。入り混じった表情で桜は召喚陣を発動させる。

召喚陣は紫の光とはじける電気を放ち、一つの影が生まれた。


「お主が我を呼び出したマスターか。我の名は神威。雷を操り、大地を駆け抜ける神獣である。して、何ようで我を呼んだ」


発現に対する可愛らしい声と姿。どう見ても白い毛並みの子犬にしか見えない。

チラリと隣を見ると桜も困惑している。


「えっと…むーちゃん、は神獣なの?」

「むーちゃんはやめろ。いかにも。神の眷属としてこの世を生きる気高き獣なり」


言っていること自体は荘厳なのだがいかんせん姿が可愛すぎる。

真白はそのギャップに思わず吹き出してしまう。


「少年。なぜ笑う」

「いや……なんでもない」


肩を小刻みに振るわせながら、真白は神威から視線を逸らす。

不機嫌に顔をしかめる神威を桜は抱き上げ、大事そうに頭を撫でる。

一瞬、気持ちよさげに顔を緩めるがすぐに不思議そうな顔をし、自分の足を見た。


「我、ちっちゃくね?」

「神獣というよりは子犬だな。パピー」

「可愛いですよ?むーちゃん」

「だから!むーちゃんと呼ぶでない!!!」



「なるほど。原因がわかった」


一通り、暴れたむーちゃんこと神威は己の体躯が小さくなった理由に思い当たったようで今は大人しく桜の腕に抱かれている。


「どうやら桜の魔力が少ないことが原因のようだ」

「私のですか?」

「うむ。召喚陣は手で触れるだけで陣に刻まれた術式が起動者の魔力を吸い取ることで起動するが、術式に不備があったのと桜自身の魔力が少なかったことで能力に制限がかかったのだろう」


小さくてもやはり神獣ということか。

レベル1の桜に召喚できるものではなかった。


「しかしだ。小さくてもマスターの役には立てよう。この姿でもゴブリン程度は蹴散らしてみせよう」


意気揚々と己の力を証明しようとゴブリンを探して森を歩く神威の後ろを真白と桜の二人がついて歩く。

地面からゴブリンの匂いを嗅ぎ、探しているところはもはや犬にしか見えないがれっきとした神獣なのだ。


「いたぞ」


神威の示す川辺には数匹のゴブリンがたむろしている。

習性として川辺を好むのか、水を飲みに来ているだけなのかわからないがどちらにせよ川辺によくいるようだ。

神威は颯爽と駆け出し、ゴブリンに補足する前に首を切り裂いた。


「速いな」

「ちっちゃいいのに強いんですね。むーちゃん」


神威の爪牙はまるで刃のごとくゴブリンを切り裂き、その速さは雷のように次の瞬間には姿が消えている。


「貴様らに使うにはもったいないが冥土の土産に見せてやろう。我の神髄を!」


紫電が奔る。その威力はゴブリンの一匹を容易く灼き尽くした。

しかし、その電撃ですら神威にとってはただ息を吐いただけに等しく、神髄の余波に過ぎない。


「雷轟神威」


そして、ぽすんという音を立てて紫電は消えた。

神威は雷轟神威を繰り出した。しかし、MPがたりなかった!

何とも言えない空気の中、二人と一匹は気まずそうに口を噤む。

あれだけ格好をつけたというのにこの醜態は神獣である神威でも流石に恥ずかしい。


「………」

「どうする八重さん。あれだけかっこつけたのに不発に終わって、気まずさで一言も話さないけど」

「えっと…むーちゃん?かっこよかったよ?」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」



「ぐすっ…ぐすん」


情けなく半べそをかく神威は今は桜の膝の上で蹲っている。

困ったように笑いながら、神威の頭を撫でて慰める桜の正面に真白は座り、これからのことを考える。

現状の神威はお世辞にも神獣の格があるとは思えないが、桜が成長することで力が解放されていくというなら頼もしい味方となる。

今でも前衛を張れるくらいの強さはある。

神威が倒した魔物は桜に経験値が入るためレベル上げも難しくはないだろう。


「凛の方の成果次第だけど、八重さんに頼らなくちゃならなくなるかもな…」


気が進まない。

全員が平等に苦労と危険を背負うのが理想なのだが今の状況で悠長なことを言ってられない。

使えるものは使う。

情でみんなを元の世界に戻せるなら苦労しない。

冷静に、必要であれば冷徹に。状況を判断し続けろ。


「大丈夫ですよ」


真白の内心を見透かしたかのように、桜は微笑んだ。


「むーちゃんもいますし、私が戦うことで誰かの助けになるなら喜んで戦います。そのために、出雲くんに助けてもらったんです」

「でも…」

「きっと私の力は守るための力なんです。だから、守るために力を貸してください。私もみんなを無事に帰したい気持ちは一緒です。危険でもいいです。だから、私も出雲くんの共犯者にして下さい。あなたの力になりたいんです」


真摯にまっすぐと真白を見据える。

そんな桜の気持ちにとうとう、真白も折れる。


「わかった。これからは頼りにするよ、八重さん」

「桜でいいですよ。私も真白って呼びますから」

「おっけー。桜」

「我もゴブリン程度のザコであれば十分に相手にできるであろう。存分に割れの力を使うがよい!」


新たに一人と一匹が仲間に加わった!



「それで、桜がいるわけね」

「はい。凛さん、これからよろしくお願いします」


夜の作戦会議で今日の顛末を凛に説明する。

今日で桜のレベルは3にあがった。僕も最後の最後でようやく2に上がった。


「凛の方はどうだった?」

「順調。勇聖がレベル5になった。あいつはやっぱチート」

「ユニークスキルは?」

「光の勇者。日中の能力値上昇に経験値アップ。etc…。主人公能力過ぎる。バランス崩壊」

「僕のくそスキルと対極の能力だな」


まさに勇者にふさわしい能力だ。

その他のメンツも強力なクラスやスキルを持っているという。


「魔法はどう?誰か、使えるようになった?」


魔力を操作する感覚。

魔法の使用において最も難易度が高く、ネックになる。

できることならそれを論理的に説明できる人がいればと何度願ったことか。


「光湖が魔法使えるようになった。説明も上手」


真白の願いが通じたのか富士宮グループの一人である一人の少女、三束光湖の名前が挙がった。

愛らしい顔立ちとおさげのせいか実年齢以上に幼く見えるクラスのマスコット的存在である。

誰に対しても優しく、ほぼぼっちの真白が学校でしゃべる数少ない友人でもあった。


「三束さんが。説明もうまいしちょうどいいな」

「誰の説明が下手だって?」

「自覚があるなら意味不明な擬音を使わない努力をしろ」


不機嫌そうに拗ねる凛を放っておいて桜と明日の方針について話し始める。


「私は魔法の習得に時間を割くべきだと思います」

「その心は?」

「万が一に備えて皆に自衛の術は持たせるべきです。武器が限られてる今、魔法の習得は安心感も与えます。みんな、異世界の危険な状況で切羽詰まってきてますから」

「そーなの?」

「正直、お二人は能天気すぎるかと…」


確かに初日ほどの元気はなく、クラス全体の雰囲気は暗くなってきた。

富士宮や鷹月が盛り上げようとしているが、効果は薄いだろう。


「でも、それならなおさらレベル上げすべき。武器も使いまわせばいいし、ステータスも上がる。万が一の時、その差が生死を分けるかもしれない」


どちらの意見も正しい。

がゆえに、どちらにするべきか答えが出ない。

真白が迷っていると背後から足音が聞こえた。


「俺も混ぜてくれよ」

「富士宮くん!?」


爽やかな笑顔を携えて夜闇から現れ、彼は真白の隣に座る。


「俺も仲間に入れてくれ」

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