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第六話

〈リリーローズ視点〉


私には婚約者が居た。

彼の名はジェームス・カーライル。彼は私の初恋だった。


愛していた。心から。


彼の裏切りを知ってもなお、彼を愛している。


彼の事故の後、お見舞いに直ぐにでも駆けつけたかったが、義妹のマリーが足しげく通っていると聞いて諦めた。


マリー。私に突然出来た妹。

マリーの母親が父の浮気相手だったと知ったのはいつの日だったか。

しかし、それを聞いてこの理不尽な扱いに納得もいった。


私は母を亡くしてから、家族に見放されていた。

継母には虐められ、義妹には、全てを奪われてきた。


ジェームス様とマリーの睦み合う姿を見た時、『あぁ。またか。ジェームス様まで奪われてしまった』と思った。

私にはジェームス様しか居なかったのに。



もう疲れてしまった。


あの日、父に婚約解消を願い出たのは、ジェームス様から言い出されるのが怖かったからだ。


タイラー侯爵家を出ろと言われても、もうどうでも良かった。ジェームス様と結婚出来ないのであれば、タイラー侯爵家に居る意味はない。


しかし、運良く祖父からの養女の話を受けて私はそのまま伯爵令嬢として貴族のまま過ごせる事になった。

平民になっても生きていく術を持たなかった私には、幸運な事だった。



ルーカス殿下から婚約の打診を受けたのは、あの日から半年程が経った時だ。


ジェームス様との婚約を解消した時に学園は退学していたし、私は今では伯爵令嬢だ。

身分的にも釣り合わないと思って最初はお断りした。


しかし、ルーカス殿下は諦めてくれなかった。

毎日、毎日、愛を囁かれ、花束のプレゼントで伯爵家が埋まる頃、私は婚約を受け入れた。


それから始まった王子妃教育も一区切りついた頃、私達の婚約が発表されることになった。


あの日から約一年が経とうとしていた。


私はその後のジェームス様の話を極力耳に入れないようにしていたが、あの事故のせいで記憶の一部が欠損していると風の便りに聞いた。


私の事など、もう忘れてしまったのかもしれない。



婚約発表の夜会で、ジェームス様を見かけた。

一年前より少しやつれているように見える。


そのジェームス様にマリーが纏わり付いて何かを喚いていた。


あぁ、そんな姿を見たくない。


その後、ジェームス様が倒れた。


私は咄嗟に駆け寄りそうになったが、ルーカス殿下に止められた。


当たり前だ。私は今、ルーカス殿下の婚約者なのだから。



その後、少ししてジェームス様から手紙が来た。


私が王宮に居を移す前日だった。

そうでなければ、この手紙を受けとる事は出来なかっただろう。


そこには、謝罪の言葉が書かれていた。


あの日の裏切りは本意ではなかった事、しかし、事実は事実としてもう取り返しがつかない事。

自分はもう結婚をするつもりはなく、後継を残す気持ちにもならない為、公爵を従兄弟へ譲る事。

そして一番衝撃を受けたのが、この一年、私が亡くなったと思い込んでいた事だった。


そして、最後にルーカス殿下と幸せになって欲しいと結ばれていた。




私はこの手紙を抱いて泣いた。

嬉しかったのだ。

私はルーカス殿下に好意を持っている。


しかし、ルーカス殿下と同じ気持ちを返しているかといえばそうではない。


ルーカス殿下も少しずつ好きになってくれたら良いと言ってくれた。

私はその言葉に甘えているだけだ。


私はルーカス殿下と結婚する。

それを後悔した事はない。


私はジェームス様に手紙の返事を書かなかった。


今もジェームス様に想って貰えて嬉しいなんて、書けるわけがない。

今でも愛していると告げる事は出来ない。


でも、返事をしなければ、ジェームス様のその想いを拒否しなくても良い気がしたのだ。



私の心はジェームス様だけの物だ。


でも、私は違う誰かと結婚する。





fin

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