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第五話

私が目を醒ますと、そこは見知らぬ部屋だった。


ふと横を見ると、ルーカスが立っている。

「此処は…?」

「王宮の客間の一室だ。お前は、夜会中に倒れたんだ。気分はどうだ?」


「……最悪な気分だよ」


私は全てを思い出した。階段から落ちたのは、リリーじゃない()()


しかもリリーを裏切った。


酒のせいかもしれないし、もしかしたら薬を仕込まれていたのかもしれない。

しかし、私がリリーを裏切った事に変わりはない。


「どこか痛んだりするか?」

とルーカスは心配そうだ。


「いや…体はどこも痛くない。痛いのは心だけだ…」

そう私が言うと、部屋の隅に控えていたレイノルズが側へやって来た。


私が倒れたとの連絡を受けて駆けつけたのだろう。


レイノルズは、

「ジェームス様…」

と何か言いたげだ。


「私は…全て思い出したよ。リリーは…死んではいなかったんだな」

そう私が言うとレイノルズは俯き、


「はい。今まで真実を告げず、申し訳ありませんでした。処分は如何様にも受けるつもりでおります」

と答えた。


レイノルズは悪くない。悪いのは全て私だ。


「いや…全て自分の責任だ」

私はベッドから起き上がる。


「すまなかったな、ルーカス。改めて婚約おめでとう」

私がそう告げると、


「さっき、この者からお前の記憶が一部、あやふやになっていた事を聞いた。知らなかったよ。すまなかった。

事故で体調が悪く、この一年、邸に籠っているのだと思っていた。

何度か見舞いに行こうとしていたんだが、面会の許可がおりなくてな。早く気づいていれば良かったよ」


「いいんだ。全て終わった事だ」


「……彼女と話をするかい?」

彼女…リリーの事か。


「リリーは…いや、リリーローズ嬢は…ベルマン伯爵家に?」


「あぁ、お前との婚約が白紙になった後、ベルマンの養女になった。私は…ずっと彼女が好きだった」


「!?どういう事だ?」


「彼女がお前の婚約者だった時、何度かお前にエスコートされて夜会に来ていただろ?

その時に少し会話をする程度だったが…一目惚れだったんだ。

だが、友人の婚約者だ。もちろん、横取りするつもりなんてなかったよ。

でも、婚約が白紙になったと聞いて…居てもたっても居られなくなった」

私は初めて聞く話に目眩を覚えた。

知らなかったとはいえ、複雑な思いだ。


「そうか。今の私には、もう関係のない話だ。

それに…リリーローズ嬢も私とは話したくないだろう」

…リリーに謝りたいが…どんな顔をして会えば良いのかわからない。


「そうか……わかった。まだゆっくり休んでから帰ると良い」

と言って、ルーカスは部屋を出ていった。


私は、


「この事、レイノルズは知っていたんだな」

と声を掛ける。


「はい。申し訳ありません」


「いや…いいんだ。もう、全て…いいんだ」


私は真実を知った。いや真実を思い出した。


私はリリーに最後の手紙を書いた。

読んでもらえるのかはわからない。

でも謝りたかった。


私は、父上に公爵を従兄弟のネルソンに譲るよう打診された。自分でも、公爵に相応しくないと思っていた為、私はそれを了承した。


しかし、公爵家でやっている事業の一つを任される事になった。

これは父の温情だろう。


平民になったが、私にはこの仕事が性に合っていた。


少し経ってタイラー侯爵家が没落したと聞いた。

マリーは娼館に送られ、侯爵夫妻は鉱山での強制労働を強いられていると聞いても、私には何の感情も湧かなかった。



リリーは生きていた。その事は素直に嬉しかった。


しかし、私はやっぱりリリーを失ったのだ。亡くしてないだけで、無くしてしまった。


私の人生にリリーはもう居ない。


あの日の事は後悔しかない。



今日も私の心はリリーだけの物だ。


私の愛しいリリーを今日も想う。



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