38 つよつよミミックの追憶
オレ様はウトウトしていた。
そしてずっと昔の事を思い返していた。
そう、まだ魔王城の魔王が健在だった頃の話だ……。
オレ様はイカれた魔法使いに作られた。
「魔王様、予算が余りました」
「そうか、それではそれを溜め込んでおけ」
「ですが場所がありません」
「何だと!? 何故場所が無いのだ!?」
オレ様は食べた相手の記憶や知識を手に入れる事が出来る。
だからこれはオレ様の食べた魔法使いの記憶だ。
「魔王様が人間や神と戦う為に魔界中の魔族を総動員したからそいつらが食う寝るところに住むところ、全部用意したらそりゃ場所もなくなりますよ!! この魔王城で広い空間なんてこの魔王の間だけなんですから!」
「だが食糧や武器が足りないわけではなかろう! むしろ予算が余ってあるのだからな」
この魔王、ポンコツだが有能ではあったらしい。
争いを続ける魔族の覇権を握り、各地の魔族を見事に手中に収めた。
だがそんな魔王も土地の広さは確保できなかったようだ。
「仕方ない、それでは兵士を半分に減らす。それでどうにか予算の置き場は確保できるな」
「ですがそれをやってしまうと今度は予算の金や宝石を守る者で人手がかかってしまいます」
「うーむ、仕方ないな……」
それで魔族の魔法使いが考え出した方法は、貴金属や宝石そのものを自我を持つゴーレムモンスターにする事だった。
この試みは成功し、最強のジュエルゴーレム、ゴールデンゴーレムといったモンスターを作った魔法使いは予算の問題を解決した。……だが。
「大変です魔王様!」
「一体どうした? 予算も兵士の数ももう解決しただろうが」
「大変です、そのゴールデンゴーレムやジュエルゴーレムが大量の人間達に倒されて奪われてしまいました!」
「な、何だとぉ!?」
そう、人間達は巨大なゴーレムを使ったり、召喚獣などを使い、最強のはずの予算で作ったゴーレムを倒しまくってしまい、魔王城は金銭的に大ピンチになってしまった。
「どうするのだ!? このままではこの魔王城に人間共が攻め込んでくるぞ!」
「魔王様、私、かねてより考えていた最強のモンスターがあるのです。それを開発する研究費をお与えくださいませ」
「本当だな! それがあれば人間共を倒せるのだな!?」
「はい、私はこれをラーニングモンスターと名付けようと思います」
――ラーニングモンスター――
それがオレ様の生まれるコンセプトだったのだ。
つまり、倒した相手の能力を吸収する事のできるモンスター。
それをこの魔族の魔法使いは自らの命をかけて作り上げた。
「魔王様、ついに完成しました。これが我が生涯究極のモンスター、ラーニングミミックです」
「なんだ、ただの箱ではないか。これが最強のモンスターだと言うのか?」
「はい、このように蓋を開けると……」
ここからオレ様の生命が始まった。
オレ様は蓋を開けた相手に襲い掛かるようにこの魔法使いに設定されていたので、それを忘れてうっかり蓋を開けてしまった魔法使いを食べてしまったのだ。
「ギャアアアアァァアア!!」
「ボックス!! うう、惜しい奴を亡くしてしまった。だが、魔王軍四天王の一人である魔法使いボックスを倒してしまうとは、確かにこのラーニングミミック、強いかもしれんな」
この時、オレ様の中に魔法使いボックスの記憶が入ってきた。
――そして、オレ様は魔王に魔力で話しかけた。
『オレ様に何か用か?』
『一つ聞こう、お前はボックスなのか?』
『いや、だが今食べたボックスとかいう奴の能力は全て手に入れた。だからオレ様をボックスだというならそうなのかもしれないな』
『そうか、それではお前は魔王城のこの部屋の前にある大広間の真ん中に配置する。それでは人間共の駆逐を頼んだぞ』
魔王はオレ様が勝手に動き出さないように移動不可の制約をオレ様に科した。
そしてオレ様は魔王城の中央部の入り口に置かれる事になった。
その後色々な奴がオレ様を手に入れようとしたり動かしたりで、結局ラストダンジョンと呼ばれる場所の一番奥の隠し部屋に移動させられてからはすっかり存在を忘れられてしまったのだ。