2 つよつよミミックの引っ越し
――やった、ついに箱を開けたヤツがいた!
「えっ! えぇえええっ、ミ、ミミックだあぁぁぁぁぁあ!」
悪かったな、数年ぶりのエサだ。
最後に食った痩せたネズミはマジで不味かった。
毒耐性も使えない状態で食ったもんだから三日は腹が痛くなってしまったくらいだ。
それに比べれば小ぶりとはいえこの目の前のメス、美味そうだな。
レベルの低さからも肉や皮も柔らかそうで、ほんのりとメス特有の良い臭いまでしている。
見た目はガキだがその方が骨は今の状態でも十分噛み砕けるだろう。
オレ様は特殊なミミックで、喰らった相手の能力をラーニングする事が出来た。
その為、火に強い耐性の冒険者を喰らえばオレ様も火炎耐性を身に付け、乱れ斬りスキルを持つ剣士を喰らえば舌を使って十六連続斬りを再現できた。
魔王がくたばる前にやって来たハイレベル冒険者はどれも良いスキルや耐性をもっていたので、そいつ等を次々と食らったオレ様は下手すればラスボスよりも強い裏ボス扱いされていたらしい。
だがそんなスキルも腹が減っては戦は出来ぬわけで、いくらスキルがあっても空腹でMP0だとそんなスキル使いこなせるわけもない。
しかし今オレ様の目の前にいるこのくらいの雑魚なら今のオレ様でも問題無く食える!
それじゃあ、いただきまーす!!
バタンッ!
――え? ひょっとして蓋閉じられた??――
マジかよ、コイツ……久々の獲物を逃がしてなるものか……!
「ウガアアアッッ!」
「お願い食べないでぇー、コレあげるからぁー!」
この雑魚、オレ様に対して何かを投げてきた。
どうやらコイツのエサらしい。
オレ様は箱の隙間から舌を伸ばして何かを絡め取った。
絡め取ったエサを舌で巻いてオレ様は箱の中にしまう、そして数年ぶりの咀嚼だ。
むしゃむしゃむしゃ……ゲブッ。
――美味い!――これは何なんだ?
少しエサを食べ、最低限のMPがほんの少し回復したオレ様は目の前のメスに魔力で話しかけた。
『答えろ、さっきのエサは何だ?』
「ち、チーズですぅ! アタシのごはん、アナタにあげましたぁ。だから、食べないで下さいぃぃい!」
『もっとよこせ』
「は、はいぃい! わかりました、わかりましたからぁ!」
このメス、まだエサを持っていたのか。
まあ数年ぶりの食事だ、文句は言うまい。
オレ様はこのチーズをもっとよこしてもらい、むしゃむしゃと食べた。
他にもパンと干し肉ってのもあったからそれも奪って食べた。
ふう、これで少しは動けるようになったか。
さて、それではメインディッシュと行くか。
それにこのモンスターの言葉が話せるくらいには知力と体力も戻ったな。
「ありがとう、おかげで動けるようになった。それでは、お前を食べる事にしよう!!」
「ひええええっ! 約束が違いますぅうう!!」
約束? そんなものは弱者が生き延びる為に言う事だろうが。
お前は明らかに弱いので、オレ様のエサになる運命だ。
もしオレ様が食わなくてもどうせこのダンジョンの中でくたばるだけだ、食えずに腐って骨になられたら勿体ないたらありゃしねぇ!
「いただきまーす!」
「やだぁー、何でも言う事聞きますからぁー! アタシ、アナタの下僕になりますぅ、だから助けてくださいぃいい!」
オレ様はあまりに泣き叫ぶメスを食べるのを一瞬戸惑った。
「下僕……? どういうことだ?」
「言ったままの事ですぅ。アタシはアナタの命令になんでも従いますー」
「そうか、それならオレ様に食われろ、それが命令だ」
「いやぁー! まだ死にたくないぃー!」
その時、オレ様は何を考えたのだろうか。
一瞬、コイツを食ったらオレ様の生涯最後の食事になるような気がした。
――だが、その選択が正解だったとオレ様は後でつくづく感じる事になる。
「オマエは死にたくないのか?」
「はいぃ、何でも、何でもしますからぁ、命だけはお助け下さいー!」
「そうか、それならオレ様にエサを持ってこい、そうすれば助けてやろう。だが逃げたら……殺して喰らうからな!」
もうこれは命を懸けたハッタリだ、一度コイツに逃げられたらもうオレ様にはエサを手に入れる方法がない。
そうなるとあのチーズとパンと干し肉がオレ様の最後の晩餐になってしまう。
だが、そのメスは面白い事を提案した。
「そうだぁ、それならミミック様がお引越しされてはどうですかぁ?」
「引っ越し? どういう事だ?」
「ミミック様……いや、ご主人様はこのダンジョンの奥に居て何も食べる事が出来ていないのです。それならむしろもっと獲物の多い場所に移動してそこならご主人様の食事も確保できるのではないでしょうか?」
なるほど、確かにそれも一理ある、このメス、面白い事を言うな。
「面白い、気に入った。それならオレ様をそこに連れて行け」
「はい、わかりましたぁ。御主人様」
そしてオレ様は長年居続けた魔王城ラスダンからこのモンスターに持ってもらい、引っ越しをする事になった。
「面白い奴だな、お前。これから頼むぞ」
「はい、ご主人様。アタシはぁレプラコーンのアルカと言いますぅ」
そうしてレプラコーンのアルカがオレ様の下僕になった。