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『迅雷』、『金剛』VS『覇王』

 王都、西地区。


 「なんで当たんないのっ!!?」


 「焦っても意味はないわ、続けるわよ!!」


 マリア、エルリカVSエリスは白熱し、気付けば西地区まで場所を移しながら激戦を繰り広げていた。


 建物の屋根に降り立ったエリスを追いかけて跳躍するマリアとエルリカ。2人はエリスを真ん中に挟み込む。


 「‥‥‥まだやるの」


 「あんたが倒れるまでね!!」


 「同感っ!」


 マリアは睨み、エルリカは笑う。そんな2人の攻撃をエリスは冷静に捌いていく。


 「ッシッ!!」


 鋭く漏れた声を乗せ、マリアは雷を纏った刀を振り抜く。エルリカの拳を捌いていたエリスの背後を狙う一撃。


 そんな一撃ですら、エリスは腰を逸らして躱してしまう。


 「!? マジで、なんなのっ!?」


 そんな声を上げたマリアは足払いを受けてその場に転倒する。


 「もういいでしょ」


 エリスはそんな彼女を見下ろし、腹めがけてかかとを振り下ろす。鈍い音と共に、マリアの腹から屋根に振動が走る。


 「ヴッッ!!?」


 「剣じゃないだけありがたく思いなさい」


 「マリア!!」


 エルリカはエリスの足を狙って左ローキックを繰り出す。それを魔眼で予知していたエリスは剣をその場に突き刺して押し止める。


 「ッラァ!!」


 「!」


 マリアは雄叫びのような声を上げ、自身に乗っている足を両手でどかす。その瞬間にエリスの姿勢が崩れる。


 そこを狙うエルリカの回し蹴り。エリスは踏み切ってバク宙する。真下でエルリカの足が通過していくのが見えた。


 着地したエリスは跳躍して別の建物へと場所を変える。


 それを見ながらマリアはエルリカの隣へ立ち上がる。


 エルリカは先陣を切るようにエリスへと飛び掛かっていく。


 その後は何度も見た光景。エルリカの攻撃を回避し続けるエリス。マリアも加勢して切り込むが、攻撃が当たらない。


 それどころか、エリスの動きが徐々に流暢になっていく。2対1でどちらの方が手数が多いのは明らか。だが、その形勢を1人で逆転し始める。


 「っ! まさかこれまでは本気じゃーーー」


 「はは、これは恐れ入ったわね」


 マリアとエルリカは絶望したともとれる反応をした直後。


 2人の間を抜けるように流れに乗って外へ動いたエリス。それは2人には予想もつかない移動ルートだった。


       その直後に、2人から鮮血が迸る。


           【剣戟ブレイドダンス】。


 勇者の魔眼、剣術、体術を合わせた彼女独自の動きは2人に捉えられなかった。


 「ッ‥‥‥!!」


 「っ、斬られたのは久しぶりね。

  硬化魔法を回す余裕すらなかったわ」


 マリアは浅く斬られたわき腹を押さえ、エルリカは左腕の二の腕から滴り落ちる血を舌を這って舐めとる。


 (この斬られた箇所は‥‥‥!)


 マリアは斬られた傷口に触れたことでハッキリと確信する。


 自分が茶髪の侵入者を【紫電一閃】で斬った光景が脳裏に浮かぶ。


 動揺したマリアの顔を見たエリスは、不敵な笑みを浮かべていた。『やっとわかったか』。そんな風に解釈できてしまう表情。


 そんな彼女を見たマリアはゾッと寒気がやって来る。


 (まさか狙って斬ってきたっていうの!?)


 数的有利はマリアたちにある。そして2人とも『ルーライト』に所属する王国屈指の実力者。そんな2人を同時に相手にしながら、狙った箇所を斬ってみせたエリス。


 突きつけられた事実に、マリアは更に深い絶望を叩きつけられる。


 「もういいでしょ? これ以上は無駄よ」


 エリスは、全てを見透かしたような目をしていた。その目を見たマリアは心臓をギュッと握り締められたような錯覚に陥る。


 (だめ、だめよっ! 諦めちゃ‥‥‥諦めちゃだめ!!)


 必死に自身を鼓舞するマリアだが、心のざわつきが収まらない。これまでのやりとりで、実力の差を否応なしに感じとっていた。


 「‥‥‥リア、マリアっ!! しっかりして!!」


 「え、エルリカさん‥‥‥」


 心が折れて今にも泣き出しそうなマリア。そんな彼女の肩に手を置いたエルリカは、次に頭に手を置いて撫で始める。


 「あの女の実力は本物。上には上がいるってこと。

  絶望するのは後でもいい。

  だけど今は、今だけは希望を見出して」


 エルリカはそう言って1人でエリスに突っ込む。エルリカは連続攻撃を繰り出す。


     右ストレート、足を動かさずに躱される。

   左アッパー、二の腕を払われて軌道をずらされる。

       ローキック、跳躍して躱される。

     左手刀、手首を掴まれて投げ飛ばされる。

 跳び膝蹴り、顔を逸らして回避され回し蹴りを受ける。

       左裏拳、右手で受け止められる。

    サマーソルト、半歩後ろにずれて回避される。


   攻撃が当たらない。だが、エルリカは笑っていた。


   対してエリスは少しだけ満足そうな顔をしていた。


         (もうそろそろいいわね)


 エリスはただ実力差を見せつけるためだけに応戦しているわけではなかった。本命は負傷したメリナが逃げるための時間を稼ぐことだった。


 屋根の足場を蹴って低空飛行するようにエルリカに突進したエリスは、視界の端で別のものを捉える。


  大量の雷を纏ったマリアが、刀を納めて構えている。


         「初めて油断したわね」


   エルリカがよそ見していたエリスに掴みかかる。


 エリスは剣をその場に突き刺して掴み返す。ここで勝ったのは、エルリカ。純粋な力は、エルリカの方が上だった。


     初めてエリスが投げ飛ばされて宙を舞う。


      だが、エルリカも同時に宙を舞った。


 エリスは投げ飛ばされる前にエルリカの腕を掴んで放さなかった。それによってエルリカもエリスほどではないが身体が浮く。


 エリスは突き刺していた剣の柄を左手で掴む。それを軸として半回転し、エルリカの背中に外回し蹴りを直撃させる。


 当然エルリカは吹き飛んでいく。これで建物の屋根に残ったのは2人。


      マリアがエリスの懐に忍び込んでいた。


 投げ飛ばされた後に回し蹴り。さっきの攻防でエリスの視界は右往左往していた。そのため、息を殺して忍び寄るマリアに気づくのが遅れた。


 これまでの中で最大量の雷を刀と全身に纏ったマリアは、刀を抜く。



        「【紫電一閃】ッッ!!!!」



 エリスは目を見開く。魔眼の予知で知った刀の軌道から顔を晒す。



         「ーーーーーーー、え」



         視界の端に赤い点が映る。



   マリアの速さが、魔眼の予知に打ち勝ったのだ。



       エリスはほんの一瞬、動揺する。


        左頬から流れる自分の血。


 薄皮一枚切れた程度で流れた血の量はごく僅か。それでも攻撃を受けるつもりはなかった彼女にとって、驚くには充分だった。


 「っぁぁぁぁ!!!」


 マリアは右手に持った刀を引き戻し、2撃目を繰り出す。


 「‥‥‥!」


 だが、まんまと2撃目を受けるエリスではない。


 「っ!?」


 今エリスは剣を持っていない。剣は近くに突き刺したまま。

エルリカは硬化魔法を身体に付与することで素手でも受け止めることできるが、エリスは硬化魔法を使わない。


 そんなエリスは、マリアの右手のひらを掌底で撃ち落とす。


 右手に持っていた刀が宙を舞う。そしてマリアも右手が上を向き、隙だらけになる。


 「終わりよ」


 エリスは横蹴りでマリアを吹き飛ばした。マリアは地面へと落下する。


 そんな彼女を、下にいたエルリカが抱き支えた。マリアはもう意識がなかった。


 「ここまでね」


 エリスは刺さっていた剣を抜いて鞘に納め、2人を見下ろす。


 「そうだね、確かにこっちの完敗。

  君、いったい何者なの? いや、やっぱりいい。

  こんなバカなことはやめて、投降しなさい。

  もしかすればあのバカなら罪を免除して

  王国軍での特別な地位を保証するかもしれない」


 「冗談じゃないわ。王国に屈するつもりはない」


 エリスは即座に言い捨てる。エリスの表情に少し怒りが現れているように見えた。


 そんな彼女の発言に、好意的だったエルリカの表情がガラリと変わる。


 「まさか王国転覆でも企んでる?

  そんなこと私が、『ルーライト』が。

  ーーーあのバカルークが許さないわよ」


 今回の騒動で初めて見たエルリカの怒りを表したその表情にエリスは少し驚きながらも冷静な態度は変わらない。


 「そんなくだらないことに興味はない。

  ただ、私たちの邪魔になれば容赦はしない」


 表情は何一つ変わっていないのに威圧感を発してそう言ったエリスは背を向けて歩き出す。


 「あの謎の叛逆者、レスタの仲間らしいね。

  何が目的で暗躍し続ける? レスタも、君たちも」


 そんなエルリカの言葉にエリスは足を止める。


 「忠告しておくわ。そんなことを考えるだけ無駄。

  彼の思考は、彼以外の何者も理解できない。

  そんな彼だから、私たちは追い続けるの」


 『叛逆者』。そんな言葉をレスタ(アイト)に突きつけられたエリスは冷静な口調で言い返す。


 (つまりこんな怪物よりも、レスタの方が上‥‥‥?)


 エルリカは自然とそんな疑問が思い浮かぶ。


 またも彼の株が強制的に跳ね上げられていることに、今は不在の本人は気づくまでもない。


 これ以上話すと必要ないことを話してしまいそうになったエリスは風魔法の応用、【飛行】で空を飛んで離れていく。


 【飛行】は大量に魔力を消費する。しかも身体を浮かせて移動しているため速度もあまり出ない。そのため普段で使うことはほとんどない。


 だがこれ以上追っ手が来られたら厄介だと感じたエリスは仕方なく肉眼で見えないほどの高さまで飛び、追跡を振り払うことにしたのだ。


 こうして、王都での激闘に幕が降りた。勝敗は、本人たちが誰よりも理解していた。


 「空まで飛べるなんてね。これは大変。

  あんな怪物が叛逆者レスタの下についてるの?

  ‥‥‥ルークに事の重さを伝えないといけないわね」


 これは深刻な問題だとため息をついたエルリカはマリアを抱え直し、城へとゆっくり歩いていった。

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