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命懸けのかくれんぼ

 城内2階。


 黄昏トワイライトNo.10、『軍師』メリナは一室に身を潜めていた。


 そう、完全に命懸けのかくれんぼである。


 コツコツ‥‥‥コツコツ。


 近くで聞こえる相手の足音。メリナは脇腹の痛みを堪え、懸命に息を潜める。


 (なんであの女を振り切れない‥‥‥!?

  足音は立ててない自信があるんだぞ‥‥‥!)


 計算通りに事が運ばないこと、脇腹の血が溢れ出していることに焦り始めるメリナ。


 (でも今は絶対に音を立てない‥‥‥!!

  さあ、さっさと他の階を探しなさい!!)


 黄昏トワイライトのメンバーの中で1番の頭脳を持つメリナ。でもそんな彼女が、全く読めない展開に引きずり込まれてしまう。


 (おそらく近くにいるけど、ここからがわからない)


 ルーライト隊員、『金剛』エルリカ・アルリフォンは顎に手を当てて考えていた。


 (隠密行動がかなり上手い。敵ながら天晴れね)


 エルリカは膝を曲げて腰を下ろし、右手を腰の近くに置いて構える。


           「はあっ!!」


 そんな声と共に、右手の正拳突きが放たれる。その拳がぶつかった場所は、壁。


 硬化魔法を施した全力の正拳突き。当然、威力に比例した爆音が響き渡る。


           「はあっ!?」


 近くの部屋から聞こえるそんな声。エルリカは瞬時にその部屋の扉を蹴破って中に入る。


     (え!? ちょっと!? ふぁぁ!!?)


 そこには脇腹を押さえて立っている、長い茶髪で大人びた女性がいた。だがそんな彼女の顔は驚愕に満ちていたが。



         「やっと見つけたわ」



 (いや城の壁を壊す意味が全くわからない!!)

 


 メリナは見つかってしまったが、さっきの常軌を逸した行動に意識を奪われていた。


 「さあ、怪盗の居場所を吐いて」


 (! そうだ、逃げないと!!)


 エルリカの言葉にハッとするメリナ。彼女が突撃してくる前に、魔力を通して鞭を伸ばす。


 「吐かないのね。それじゃあ、無理矢理吐かせる」


 (壁壊すやつが言うと説得力があるな!!?)


 思わずそんなツッコミを入れながら鞭を叩き付ける。


 しかし、叩き付けた方向はエルリカとは真逆。窓の方だった。窓の手すりに固定すると、魔力を解いた。


 つまり、鞭が縮んでメリナが窓へと引っ張り出される。


 「っておいっ!?」


 逃げようとしたメリナの足をエルリカはガッシリと掴む。


 「! はな、せっ!!」


 「吐くまで話さない」


 空中に投げ出される中、メリナとエルリカは掴み合いながら落下する。


 (こ、殺されるっ!!!)


 「へえっ?」


 メリナは必死の形相でエルリカを掴み、なんとか右足で蹴飛ばす。だが、蹴飛ばされたはずのエルリカは笑っていた。


 2人は少し空いた距離感で地面に着地する。


 (この出血量なら、まだできるはずっ!!)


 メリナは両足に【血液凝固】を施し、走り出す。脇腹の出血が悪化してでも振り切ろうとしていた。


 「まだ元気あるじゃない」


 (!? まだ追ってくる!!!)


 少し後ろから聞こえる足音と息遣い、そして大人びた綺麗な声。


 エルリカの強さは硬化魔法の練度と、身体能力の高さから来るものである。


 対してメリナは頭脳は他を寄せ付けないが、身体能力は正直いって中の下である。【血液凝固】による身体強化を施しても、エルリカに劣っていた。


 そんな2人の追いかけっこは徐々にその距離を狭めながら、王都へ突入する。



 王都、北地区。


 (そろそろ、限界‥‥‥!!!)


 メリナは脇腹を押さえながら息が上がり始めていた。


 長距離移動による体力の低下と脇腹の痛みによって削られるように限界が近づいたのだ。


 「そろそろ限界?」


 エルリカとの距離も着実に縮んでいた。一瞬でも足を止めれば、メリナは確実に追いつかれる。それはメリナ本人もわかっていた。


 「はあっ、はあっ、はあっ!」


 吐く息の量が多くなっていく。足がもつれそうになる。


 (‥‥‥あれはっ!!)


 だが、そんな彼女に一筋の光が差す。視界の奥に映る景色。


 エリスがマリアを圧倒している。そんな2人へと、メリナとエルリカは突っ込んでいく。


 「おーい!!」


 「! 無事だったのね!」


 メリナは走って声をかけると、エリスは嬉しそうに返事をする。


 「よそ見、すんなっ!!」


 マリアは刀を持ち直して突きを放つ。


 エリスはそれを剣で右へ受け流し、自分は左へ半回転しながらマリアの懐に潜り込み、左回し蹴りを放つ。


 「うっ!?」


 それがマリアの左肩に直撃。マリアはよろめいて片膝をつく。そんな彼女をエリスは見下ろしていた。


 「マリアっ!!」


 エルリカはメリナの追跡を諦め、エリスへと跳び蹴りを放つ。


 エリスは、エルリカの蹴りを右手で受け止める。


 「攻撃が当たった!!」


 エルリカの登場よりも彼女が攻撃を当てたことへの驚きが勝った。マリアはまだ一度も攻撃が当たっていない。


 (先行って!!)


 エリスは横を走っていくメリナに視線を向ける。脇腹の出血。苦しそうな表情。


 それを察知したエリスは、メリナを逃がすためにあえてエルリカの攻撃を受け止めたのだ。


 (! ごめんっ、気をつけて!)


 聡い2人に言葉はいらなかった。メリナはエリスの気遣いに気づき、いち早く彼女の邪魔にならないよう走っていく。


 「ま、別に君でもいい。それに楽しそうだ!!」


 エルリカは掴まれた足とは逆の足を振り上げ、バク宙する。エリスは彼女の足を離して距離を置く。


 エルリカが着地した瞬間を狙い、エリスが剣を振る。エルリカは、それを左の二の腕で受け止める。


 「! 硬化魔法」


 「そういうこと」


 そう言ったエルリカは左腕を払いエリスの剣を押し返す。


 「はあっ!!」


 その瞬間にマリアがエルリカの隣を通過し、そのままエリスへと突きを放つ。


 「っはあっ!!?」


 するとエリスが刀の側面を下から蹴り上げる。まさか足で刀を対処されると思っていなかったマリアは刀ごと浮き上がる。


 「楽しそうね!」


 次は飛び込んだエルリカによる右ストレート。エリスは受け止めずに腰を逸らして躱す。


 その後に続くエルリカの素手と足による連続攻撃も流暢に回避し続ける。



  「なんなの‥‥‥? なんなのよあんたはぁぁ!!!」



 その光景が信じられず、マリアは叫びながら2人の間に割り込んでいくのだった。

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