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『金剛』と呼ばれる少女

グロッサ城、3階。


 怪盗ハートゥは、城の窓の1つに張り付いていた。


 (くっくっく。これでいいのだ)


 湾曲したナイフをクルクルと回して腰のホルダーへ収納する。そのナイフに魔力を通して音が響くのを軽減し、窓を円状にくり抜いて中へと侵入した。


 (あの子を扉付近に置くことでこっちへの

  警戒を弱める。ふっ、完璧なのだぁ!)


 静かな廊下でドヤ顔を披露する怪盗ハートゥ。


 (さあ、宝を頂戴しにーーーー)



          「やっぱりね」



 背後から聞こえる声に対して反射的に振り向くと、視界にはーーー


 「危ないのだ!?」


 ハートゥは咄嗟に突然距離を詰めてきた相手の腕を払う。だが相手はすかさず払われた勢いを生かした回転蹴りをハートゥの脇腹にぶつける。


 「ぐっ!?」


 ハートゥは壁へと吹き飛ぶ。なんとか体勢を立て直して着地する。


 「思った通り。シロアを置いた場所から最も離れた

  ここ、3階の廊下から侵入してきたわね」


 (ほ、宝物庫は2階なのに、先回りしてくるなんて。

  この女は危険! 妾の怪盗の本能が叫んでるのだ!)


 ハートゥは脇腹を押さえて立ち上がる。


 「王国最強と謳われる『ルーライト』の隊員として、あなたをここで捕らえる」


 エルリカ・アルリフォンは構えをとる。少し手の位置が低い構え。そんな彼女の両手は。


 (? 両手に魔力‥‥‥いったい何の魔法なのだ?

  ただ魔力を纏っただけ? いずれにしろ、警戒を)


 「!! はっや!!?」


 エルリカの距離を詰める速さにハートゥは舌を巻く。無意識に後ろへ数歩動いたことで、背中と壁が密着する。


 「はあっ!!!!」


 気迫が乗った声と共に、エルリカは正拳突きを繰り出す。ハートゥは左足を半歩ずらして間一髪回避する。


 「なあ!?」


 ハートゥは当たってもいないのに叫び声を上げる。それは悲鳴ではなく、驚愕。


          「やっちゃったわ」



         背後の壁が割れたからだ。



            「こっわ!!」


 ハートゥはすかさずエルリカの肩を押して遠ざける。2人の間に再び距離が空いた。  


 「硬化魔法!? でも、硬化魔法のわりには

  あまりにも身体に密着しているのだ!!

  まさか‥‥‥それほどの練度!?」


 「そうよ。それが何?」


 淡々と返事をするエルリカにハートゥは絶句する。


 身体を強化する硬化魔法や加速魔法などは、自身へ魔法を発動するため扱いが難しい。それ扱いを誤ると身体を壊しかねない危険がある。


 そしてエルリカは、他者から見て硬化魔法を張っていると気付かれないほどの練度で発動しているのだ。


 それに誰の目にも明らかな素手格闘術の実力者。そんな一点突破な2つを合わせた彼女はこう呼ばれている。


         『金剛』のエルリカと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 グロッサ城、2階、王の間。


 「守りを固めよ!! 怪盗の思うようにはさせるな!」


 国王、ダニエル・グロッサの声が王の間を駆け巡る。警備兵たちが配置についていた。


 「マリア先輩とシロアちゃん、大丈夫かしら‥‥‥」


 「呼んだ!?」


 そんな声が響き王の間に緊張が走る中、入ってきたのはマリア・ディスローグとシロア・クロート。


 「! マリア先輩! シロアちゃん!」


 第一王女ステラ・グロッサが嬉しそうな声を出す。マリアはステラにとって憧れの存在なのだ。


 「お二人とも大丈夫ですか!?」


 「ええ、大丈夫よ」


 「‥‥‥(ふぁ〜‥‥‥ハッ! ぺこぺこ)


 眠っていた余韻で欠伸が出たシロアは何度もお辞儀をする。そんな姿を見た2人は微笑ましく笑う。


 「それでエルリカさんは?

  2階で待機していたはずなんだけど」


 辺りを見渡してもエルリカの姿はない。


 「エルリカさんは3階に向かいました。

  『必ず怪盗が来るから』と。もしかしたらすでに」


 「3階ね! 私が行ってくる!

  シロアはここで待機! 無理しちゃダメだから!!」


 マリアは走って王の間から離れていく。シロアがここの警備、マリアはエルリカの加勢という方針が固まった。


 「‥‥‥(そろ〜)」


 「シロアちゃん、よろしくお願いしますね♪」


 「‥‥‥(ひっ)」


 シロアは身体を震わせる。こっそり距離を離そうとしていた本人に背後から抱きつかれたのだ。


 慈母のように優しく、誰に対しても分け隔てなく接する。


 自分とは対極であると感じるシロアは、ステラに対して少し苦手意識を感じているのだ。


 そんなことに全く気づかないステラは自分と同い年でマリアという共通の友人がいるシロアと仲良くなりたいと思っている。というか可愛らしい彼女を愛でたいのだ。


 (『時の幻影(クロノ・ファントム)』はここで待機。

  それはまだいい。でも『迅雷』は行ってしまった!)


 そんな状況に焦っている1人だけ焦っている者がいた。給仕服を着た、城で働く若い侍女。茶髪のおさげ、メガネといういかにもな外見。


 (ダメだ‥‥‥『金剛』と『迅雷』の2人相手だと

  怪盗が城内で拘束されてしまう。

  もしこれでルーク王子が戻ってくれば

  怪盗の拘束は確定事項になる。

  それでは代表に面目が立たない!

  エルジュの名にかけて、私たちが捕まえる!!)


 エルジュの精鋭部隊《黄昏トワイライト》No.10、『軍師』メリナ。


 彼女は学院に潜入してアイトの護衛と情報収集を主な任務としているが、今は夏休みでアイトも不在。


 そのため、夏休みの間はグロッサ城に侍女として潜入していたのだ。メイクが得意な彼女にとって潜入は朝飯前。そして当然、最近の怪盗のことは耳にしている。


 (今の状況をエリスたちに!!)


 幸いマリアとシロアのやり取りに多くの者が見とれている。


 その隙に王の間に付いている窓へと少しずつ迫り寄り、音を立てずに窓を開けて外へ出る。


 だが、メリナが窓から飛び出していくのを1人だけ見ていた者がいる。しかも血眼になって彼女の姿を目で追っていた。


 (ま、間違いありません!!!

  アイトくんのお仲間の1人です!!

  これは、絶対に見過ごせませんっ!!!!)


 第二王女ことお転婆娘、ユリア・グロッサが目を輝かせていた。



 メリナは窓から外に出た後、扉から1階へと入る。そして魔結晶を取り出して連絡を取る。


 「こちらメリナ。エリス、聞こえる?」


 連絡の相手はエリス。だが、エリスから返事は返ってこない。


 (‥‥‥なんか雑音がひどい。何かに包まれてる?)


 メリナの考えは正しい。エリスの魔結晶は水の中なのだから。


 (ダメだ。もう待てない。早くしないと怪盗が!!)


 連絡を後回しにすることを決断し、メリナは変装用の魔結晶を腰のベルトにはめ、特殊戦闘服に身を包む。そして急いで階段を駆け上がるのだった。

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