東地区の激闘、そして
王都、西地区。
(ハートゥは東地区! 早く行かなきゃ!)
カンナは銀髪のツインテールを靡かせながら建物の屋根を飛び回る。
(それに、ミアよりも早く捕まえないと!!)
すでにミアがハートゥと交戦していることを知らないカンナであった。
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王都、東地区。
「何よコイツ、ウッザ!!!」
「あたら、ないよ」
ミアの呪力とリゼッタの毒を悉く回避する怪盗ハートゥ。飛び乗った先の建物の屋根に手で掴み、よじ登る。
(よくわからないけど、この2人と正面から
ぶつかるのは危険なのだ。それに、妾は)
「妾は怪盗ハートゥ! 逃げるが、勝ち!!」
ハートゥはワイヤーを伸ばしてフックを建物に引っかけようとする。
「【シロ】! 【ムラサキ】!!」
「いっぱいいっぱい」
ミアは白い呪力を地面へ伸ばし続けることで横への高速移動を可能にし、なおかつその最中も紫色の呪力を飛ばし続ける。
リゼッタは毒魔法を発動。全身を毒で覆い突進する。
そんな2人を見て、怪盗ハートゥは笑っていた。
「でも、逃げるとは言ってないのだ!!!」
ハートゥは咄嗟にワイヤーを方向転換。横へとワイヤーを伸ばしてフックを床へ引っ掛け、2人へと迫る。
「紫女!! 毒を地面へばら撒け!!!」
「らじゃ」
リゼッタは両手から毒をばら撒きだす。ハートゥは床を蹴って小刻みにステップを踏んで毒を躱す。
「【クロ】!!!」
ミアは両手を地面につけ、黒い呪力を通し始める。影が地面にばら撒かれた毒を吸い取ると、黒い花が咲き始める。
無数に広がった黒い花。ハートゥの足元付近にも黒い花が咲き、カタカタと不気味に動き始める。
「【シロ】!!」
「!? しまったのだ!?」
そんな花に目を取られていたハートゥは、ミアの白い呪力に掴まれる。
「綺麗に散れ!!!!!」
ミアの声か、両手を握る動きに反応したのか、黒い花が一斉に針を伸ばす。
「【百花繚乱】!!」
地面に足をつける場所が、消え失せる。
「あぶな、しぬ、こわ」
リゼッタは毒を固めて作った壁を自身の四方に立てることで串刺しを回避した。だが心は無事ではない。容赦なく自分ごと殺そうとしたミアに恐怖でプルプル震えていた。
そしてミアも心が無事ではなかった。
「!! いない!?」
予想外の事態に思わず声を荒げるミア。白い呪力で掴んでいたはずの怪盗ハートゥがいなかった。
「ヤバい女なのだ!!」
建物の屋根から降りてきたハートゥは、ワイヤーを引っ張る。
「ちょっ!?」 「え、うわ」
ミアとリゼッタが引き寄せられるようにくっつき合う。2人ごとワイヤーで拘束したのだ。
「よーい、しょ!!」
ハートゥは2人を自身の元へ引き上げる。2人はワイヤーが絡まって動くことができない。
(どういうこと!? いったい、
どうやってあの花から回避したのっ!?)
「うごけ、うごけない」
歯を食いしばるミアと身体を揺らすリゼッタ。そんな2人に、ハートゥの手が迫る。彼女の両手のひらには魔力が篭っていた。
「【ハートゥ】!!!」
そんな声と共にハートゥは左手でミア、右手でリゼッタに触れる。
「「!!」」
その直後、2人は同時に意識を失った。
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グロッサ城、1階。
城の扉の前で待機しているのは《ルーライト》隊員、マリア・ディスローグ。
外から入ってくるであろう怪盗ハートゥを迎え撃とうと準備をしていた。
「ふぅ‥‥‥」
ほんの少し息を吐きながら目を瞑り、精神を研ぎ澄ませていく。歩幅を広げて腰を落として刀の掴を握る。その手は雷を纏っている。
ドンッ。
「ーーーーーーー!!」
反射的に扉を足で蹴破る。そしてマリア自身の最速で、抜刀する。
ドサッ。
「【紫電一閃】!!!」
マリアの刀が鞘から抜け、音が聞こえた方へと薙ぎ払う。
「! えっ!?」
マリアの刀は当たらない。それは当然だった。
扉付近に倒れているシロアの上を刀が通過したのだから。
「シロア!!! 大丈夫!?」
マリアはすかさず彼女を抱き起こし、肩を揺らす。
「‥‥‥(すぅ〜、んぅ〜‥‥‥zzz)」
「ね、寝てる? それに怪盗ハートゥはどこ?」
マリアは魔結晶を取り出す。
「エルリカさん! マリアです!」
『こちらエルリカ。何かあったの?』
淡々と落ち着いた声で返事をするエルリカ。マリアは今の事態を報告する。
「シロアが倒れている所を発見しました!
眠ってるだけかもしれませんが
念の為医務室へ運びます!!
もしかしたらすでに怪盗は来ているかもしれません!」
『わかったわ。こっちは任せて。
怪盗を捕らえたら、私も様子を見に行くから』
エルリカとの連絡を終えたマリアは寝ているシロアを背中に背負い、医務室へと急ぐのだった。