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勝機は無い

 「っぶな!?」


 アイトがラルドの攻撃を全て捌き、同時に反撃を行う。


 「小癪なっ!!」


 ラルドもアイトの攻撃に対応する硬直状態が続く。2人は今のところ互角だった。


 そして、その様子をわき目で眺めているエリス。


 (さすがです。短剣を使うのは今日が初めてだというのにもう扱いに慣れ、隣国のアステス王国最大の暗殺組織のボス相手に少しも負けていません)


 「な!渡り合っているだと!?何者だあの小僧は!!!」


 ラルドの側近であるミストが驚愕しながらエリスに聞いてくる。


 「そんなのあなたには関係ないです。さあ早く私たちも始めましょう」


 「じゃあ後に命乞いする貴様に聞こうか!!」


 ミストはエリスに無数の針を投げ飛ばす。その針には毒が塗られていて、当たれば一瞬で麻痺するという代物。


 だが魔眼持ちのエリスにはその針の軌道が手にとるようにわかる。


 エリスはターナに借りた短剣で毒針を効率よく弾き飛ばしていく。2個以上同時に飛んできた毒針は最小限の動きで回避しながら。


 エリスはミストの投げた毒針に1本も当たらなかった。


 「今の攻撃を対処するとはな。なかなかやるではないか」


 「飛んでくる針が遅かったので褒められても嬉しくないですね。レスタ様も余裕で対処してみせますよ」


 エリスは自信満々に言い放つ。


 だがアイトは攻撃を捌きながら『いや、それはできるかわからないです』と心の中で返答していた。



 「ふっ、減らず口を。それがいつまで続くやら」


 「少なくともあなたが私に負けるまでは続きますのでどうか耐えてくださいね♪」


 笑顔でそう言うエリス。それがミストの怒りに火をつけた。


 「貴様が死ぬまでは耐えてやろうっ!!」


 ミストがエリスに針を1本投げる。エリスはそれを余裕で弾く。


 「!!」


 弾いた針がすぐにエリスに向かってくる。弾いても避けても一向に止まらない。


 「なるほど。魔法で自動追尾を付与した針ですね」


 エリスが針を避け続けながらミストにそう尋ねた。


 「そうだ! これで貴様はもう終わり、だ!!」


 ミストが腰の鈍器を取り出しエリスに襲いかかる。


 エリスは自動追尾の毒針に対処しながらミストと戦わなければならない。そのためミストに接近戦を持ち込まれると対処することが多くなりエリスが不利となる。


 実際エリスはミストの猛攻と自動追尾の毒針を捌くのに苦労している様子だった。


 「どうしたどうした!? もう限界か!?」


 エリスは右手に持った短剣を振りかぶって攻撃すると見せかけて逆の手でミストの左胸に掌底を当てる。


 「グッ!? オァァァァ!!!」


 ミストは掌底を受けた勢いを利用して半回転し、叫びながら後ろ回し蹴りを繰り出す。その直前にエリスは針に対処していたためミストの蹴りへの反応に遅れる。


 「ウッ」


 そしてミストの後ろ回し蹴りをエリスは腕で防御したが吹き飛ばされる。エリスは宙返りをしてなんとか着地した。だがダメージは着実に蓄積されている。


 「はあ、はあっ、はあ」


 それに加えてミストの攻撃と針を同時に対処に動き回っていたため体力的にも余裕がない。


 「先ほどの掌底はなかなかのものだったがそろそろ限界らしいな!!大変ならあの小僧に助けを請うがいい!小僧はボスの相手に手一杯だがな!!」


 そう言われてエリスはアイトの方を見る。アイトはこちらを見向きもしない。


 私が負ける心配を微塵もしていないと思ってエリスは嬉しくなった。エリスはミストの方を向く。


 「‥‥‥いらない心配をありがとうございます。もう大丈夫です。準備は済みましたから」


 エリスがそう言うと自動追尾していた毒針が静止し、そのまま床に落ちる。


 「なに? どういうことだ!!」


 ミストは一旦エリスから距離を取り新しい針を取り出し、自動追尾を付与しようとする。だが針に付与がつかない。


 「なぜだ! なぜ付与できない!!」


 「まだ気づいてないのですか?感じるでしょう、針から私の魔力を」


 ミストはそう言われてやっと気づく。持っている針からエリスの魔力を感じることに。


 「貴様いつの間に!?」


 「簡単なことです。針の形状を理解したので、先ほど私の魔力をあなたの左胸付近に仕込まれている残りの針に魔力を流しました」


 エリスはそう呟くと、落ちた針を踏みつける。


 「先ほど飛んでいた針にはあなたの魔力が残っていたので、弾いた際に魔力を送り続けていたんです」


 踏まれた針は、跡形もなく粉々になっていた。


 「あなたの魔力を追い出すのに今まで時間がかかってしまいました。ですがこれであなたは針に付与できません」


 エリスは魔眼によって針の形状を理解し、どこに魔力が送り込まれているのかを把握する。次に自動追尾していた毒針は短剣で弾く際にエリス自身の魔力を流す。


 だがミストの魔力も残っていたため、それを全て追い出すほどの魔力を馴染ませるのに時間を要した。


 またエリスはミストが持っている針に自動追尾の付与をされるのを防ぐため、掌底の際にミストの服の左胸に仕込まれている針に魔力を送った。


 こちらはまだ付与されてない針のため一度で魔力を流すことに成功した。



 そんな神経を使う作業をエリスは‥‥‥ミストと針を対処しながら完璧にやってのけた。


 「なかなか悪知恵は働くようだ。だがそれがどうした?疲労困憊の貴様に勝機はな、い!?」


 ミストがそう言った途端、視界からエリスの姿が消える。そしてエリスがミストの目の前に姿を現したと同時に。


 「ガッッッッ!!?」


 右手に持っていたエリス(ターナ)の短剣の柄がミストのみぞおちにめり込んでいた。

 

 「勝機は無い?ええ、あなたに勝機はありません」


 そう言ったエリスの声は意識を失ったミストの耳には届かないのだった。


    (これで私の任務は達成です、アイト様)


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