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記録 精鋭部隊《黄昏》No.3、『自由人』カンナ

 これはエルジュ戦力序列第3位、精鋭部隊《黄昏トワイライト》に所属したカンナの訓練生時代について記した記録である。


 性格は明るくて天真爛漫。その明るさで誰とでも仲良くなれる。協調性は《黄昏トワイライト》の中で随一である。


 だがそんな彼女には底なしの暗い過去がある。それは彼女自身の眼にある。


 【無色眼】。透明無色で水晶のような瞳をしたその眼は、視界に映った相手の動きをコピーできる希少価値の高いもの。


 しかもその眼は遺伝ではなく突然変異で現れる。そのため無色眼はまだまだ謎が多く、興味を持つ者たちに狙われる宿命を持つ。


 そして彼女自身、幼少期に過激な宗教集団に拾われ、後の教祖として祭り上げられようになったことがある。


 嫌気がさして逃げ出したのが15歳の頃。その時に偶然アイトに出会い、人生の転機が訪れる。


 彼女は純粋に明るいわけでは無い。そんな過去を背負っているからこその明るさ。眩しいほどの明るさの中に確かなかげりがある。


 そんな彼女が挑んだ試験の最終項目、ラルド教官との実戦。



 訓練場。


 「準備はいいか」


 「はい! いつでもOKで〜す!」


 ニコッと笑うカンナはヘアゴムをくるくる回して魔力を通し形状変化。ヘアゴムはショートソードへと形を変える。


 「うむ。それではいくぞ」


 ラルドは床を蹴ってカンナに迫る。


 「ぬん!」


 ラルドの訓練用短剣の横振りをカンナはショートソードで受け止める。武器を介して2人が押し合う。


 「うにゃあ!?」


 だがそうなると当然ラルドの方が力は上。押し込まれたカンナは体勢を崩す。


 「やあ!!」


 それならばとカンナはあえて押し込まれた勢いを活かして両手を床についてバク転。おあつらえ向きの右足サマーソルトがラルドに迫る。


 「うわいっ!?」


 カンナが驚きの声を上げる。まさか勢いのついた右足を掴まれるとは思っていなかったのだ。


 「軽いぞ!」


 「え! ありがとう!」


 「違うわ! 攻撃が軽い!!」


 ラルドは呆れた顔でカンナを壁際まで投げ飛ばす。


 「そっち〜!?」


 投げ飛ばされたカンナはそんな声を上げながら壁を左足で蹴って床に着地。


 「うにゃあ!?」


 顔を上げると、短剣(もちろん訓練用)が飛んできていた。カンナは顔を晒して必死に躱す。


 「ふん!」


 「うっ!」


 接近していたラルドの右フックを左脇腹に受ける。カンナはその場に片膝を落とす。


 「加減した。これでもう終わりか?」


 「まだ、まだだよっ!」


 カンナは脇腹を押さえて立ち上がる。表情には余裕がなかった。


 (本当は使わずに勝ちたかったけど、

  これで負けたら意味がない!)


 「辛そうだが? やめた方がいいのではないか?」


 「‥‥‥」


 「? どうした」


 ラルドは、さっきの発言に少し後悔することになる。



          「‥‥‥黙ってて」



 さっきとはまるで別人の態度。訓練の中でカンナから殺意を感じたのは初めてだった。無色眼が一瞬輝いたように見えたのは気のせいか。


 これまでと違うカンナの真剣な表情、綺麗な両眼に吸い込まれそうになる。


 「【線香花火】」


 バチンッ。


 ラルドの真上に線香花火が撃ち込まれる。


 (これは、あの時のーーー!!!)


 ラルドは思い出す。この流れはーーーーー。


 ふと前を向くとカンナのヘアゴムが短剣に形状変化していた。【血液凝固】を両足に施しているのか、さっきよりも高速でラルドに突進していた。


 重なる。約2年前の光景が重なる。自分を負かした銀髪仮面の少年と重なるーーーー。


 「ッシッ!!」


 声にもならないカンナの右手に持った短剣の突きをラルドは左手で彼女の右手首を掴む。


 そのタイミングでラルドの真上から赤い玉が落ちる。


 ラルドはそれを左手で払いのける。


 (来る! 彼が私を負かした、あの膝蹴りがーーー)



            バゴッ。



       ラルドの耳に聞こえる鈍い音。



          膝蹴りは、来ない。



        来たのは、左のローキック。



       ラルドの右足にめり込んでいた。



            「なに!?」



         ラルドの右膝が床をつく。



         「彼は彼、私は私!!!」



 カンナは左手で自分の右手首を掴んでいたラルドの左手をはたき落とし、その場で一回転。



         「やああああっ!!!」



    勢いをつけた、右手に持った短剣の横薙ぎ。



             スカッ。



           短剣が空を切る。



 それと同時に、頭を下げていたラルドの短剣が脇腹で寸止めされていた。



           「勝負ありだ」



         「‥‥‥負けた〜!!!」



    カンナはぺたんと、その場に座り込むのだった。




 試験終了後。


 「まさかレスタ殿の技を使ってくるとはな」


 「えへへ〜。教官はレスタ君の膝蹴りで負けたから、

  それをもう一回見せれば動揺するかなと思って」


 《エルジュ》結成当初、ルーンアサイドの構成員やレスタに誘われた者たちにレスタVSラルドの映像を見せたのだ。


 その際にカンナの【無色眼】が捉えるに至ったのだ。


 「‥‥‥いい読みだ。結果は後日伝える」


 ラルドは当時の敗北を思い出してフッと笑い、訓練場から出ていく。


 「疲れた〜!!! 教官強すぎるよ〜!!」


 カンナは床に座り込んだ状態で脱力する。


 「勝ちたかったな〜。勝ちたかった。

  勝ちた、かった‥‥‥勝ちたかったよぉぉ〜!!!」


 悔しさが募り、涙が溢れる。カンナに対してもう一つだけ記述が漏れていたことがあった。



      彼女は、かなりの負けず嫌いである。




 後に知らされた実戦の点数は80点。


 あと一歩のところまでラルドを追い詰めたこと。そしてコピーを応用してラルドの裏をかき攻撃に繋げたことが評価された。


 他の項目も過不足ない点数を取り、特技に関してはコピーによる技を披露し満点に近い点数を記録した。


 数日後、カンナは序列3位に選出され、《黄昏トワイライト》への所属を果たす。



   彼女は後に、誰よりも組織に貢献するようになる。



     以上が、訓練生時代のカンナの記録である。

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