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幕間 悪意ある魔物狩り

 アイトがアーシャについていった日の夜。


 「はあっ!」


 黒髪の少年は声と共に剣を振り下ろし、ゴブリンを一刀両断。


 「ま、それくらいはやってくれないとな」


 そんな少年の後ろで腕を組んで木にもたれ掛かっているのは、銀髪ロングの美しすぎる女性。


 「ていうかアーシャ、これが特訓?」 


 少年が聞き返すと、女性はため息をつく。


 「はあ〜‥‥‥これはなアイト。

  お前の力がどれくらいか見てるんだよ。

  それを把握しないで鍛え始めても意味がない」


 (なんで今ため息ついた???

  それくらい察しろよバカってか??)


 短い付き合いだが彼女の性格を理解しつつあるアイト。実際にアーシャの心情の90%近くを憶測で捉えていた。


 そう、これはアイトの実力を確認するために行っている魔物狩り。身体能力、剣術、魔法など、アーシャの目が様々な能力を見ている。


 「グルルッ!」


 「! ベアウルフか!!」


 木の陰から現れた茶色の狼にアイトは剣を構える。後ろにいるアーシャは何も反応せずに様子を眺めていた。


 「バァゥッ」


 短い声と共に狼はアイトに突進する。その攻撃に対してアイトは愛剣である『聖銀の剣』を地面に突き刺す。突進からの狼の噛みつきを剣身で受け止める。


 「【ノア・ウィンド】」


 突き刺さっている剣を挟んで狼と対峙しているアイトは準備していた魔法を発動。


 空間魔法で生み出したボールの中で音魔力が無数に反射していく。轟音と共にそのボールが剣の反対側にいた狼に命中。狼は短い叫び声を上げた後、その場に倒れた。


 「‥‥‥へぇ」


 アーシャの声を背後に感じながらアイトは地面から剣を引き抜く。


 「なかなか頭がキレるじゃないか」


 「どうも」


 アイトは平然とした様子で剣をクルクル回した後に鞘に納める。アーシャが褒められると裏を探ってしまうのだ。そして今回はそれが正解だった。


 「だが、少し気になる点があるなぁ」


 アーシャはアイトの肩に手を回しながらニヤリと笑う。『ほら来た』とアイトはため息をついた。そしてアーシャから発せられた発言は、思いがけない転機となる。



     「なんでもっと簡単な魔法を使わない?」



 アイトはハッと頭を上げてアーシャを見る。アーシャは肩を組んだ状態のまま話し始めた。


 「さっきの魔法。たしかに便利な魔法だが

  魔力消費が激しいし発動にも時間がかかる。

  そりゃあ音、空間、幻影魔法を同時に発動したら

  そうなるのは当然だが」


 「! わかってくれるのか! さすが師匠!!」


 「師匠呼ぶなッ!!!」


 「ぐえっ!?」


 嬉しさのあまり唐突に踏み抜いてしまう地雷。気づけばアーシャとは距離が空いており、何より腹に衝撃が入っている。


 「呼び方は教えたよな!? 教えたよな!?」


 「す、すいませんでしたアーシャ」


 「よろしい。さっきの話の続きだが、

  なんでもっと簡単な魔法を使わない?

  あんなコスパの悪い魔法、ベアウルフに

  使うのはもったいないと思うが」


 アーシャの発言にアイトは嬉しそうに前のめりになる。


 「そう!! 教えて欲しいんだよ!!!」


 「はあ? 初級魔法を??

  さっきの魔法は自惚れそうだから言いたくないが、

  上級魔法に匹敵する代物だ。

  ましてやお前の、なんだっけ‥‥‥あ、『終焉』か。

  あれに至っては『破滅魔法ルインマジック』に匹敵する。

  そんな世間知らずな魔法を使えるお前が

  なんで初級魔法を使えない?」


 「‥‥‥それは、適当に混ぜてるから」


 「! なるほど、属性魔力をいくつも重ねて

  威力、精度、効果を高めているわけか。

  つまり魔法制御力がズバ抜けていると。

  だからお前の魔法はアンバランスなものが多いのか」


 (‥‥‥すごい。俺の知りたかったことを、

  アーシャは全て教えてくれる)


 アイトは彼女を初めて見直した(ほんの少しだけ)。


 「‥‥‥それは確かに教えないと危ないな。

  知らないまま属性魔力を混ぜてたら何かの間違いで

  国一つが吹き飛ぶ大爆発が起きかねない」


 (俺、そんな危ないことしてたの?)


 アイトは今さら自分の行なっていたことの危険性を知ることになる。


 「だいたいお前の実力はわかった。

  お前の武器は思考力、魔力量、魔法制御力。

  特に魔力量、魔法制御力は類を見ないほど高い」


 「それって、アーシャよりも?」


 「? 何を言ってる。当たり前だろ。

  私は桁違いな魔力なんて保有してないし、

  複数の魔法を同時発動なんてしない。

  もしかしたらできるかもしれないけど。

  まあ、できたとしてもやらないけどな」


 「なんで?」


 単純な疑問が思い浮かび、一瞬で聞き返す。


 「‥‥‥説明が難しいな。これから実際に見せてやる」


 アーシャの発言を察知したというべきか、森が突然ざわめき出す。


 「!? な、なんだ!?」


 「言い忘れてた。この森は月に一度、

  何故かはわからないが深夜になると魔物が大量に

  出現する。しかもその魔物たちは普段出てくるもの

  たちと強さがまるで違う」


 アーシャは前方を指差しながら呑気にそんなことを言う。


 「‥‥‥おいその日って」


 奥に見える大量の眼光。アイトは念の為に確認した。


 「今日」


 「だろうなあぁぁ!!!」


 あまりの魔物の多さにアイトはすぐに剣を構える。


 「うええっ!?」


 だがすぐに変な声を上げる。アーシャに腹を掴まれて突然持ち上げられたからだ。


 「言っただろう、見せてやるってな」


 アイトの腹に手を回して片手で持ち上げたアーシャは上空に跳躍し、魔法を発動する。


 「ーー!?」


 アイトは声が出ない。見たことのない景色が広がっていた。


 大量の魔物たちが全く動かない。いやそんな次元では無い。まるで石像のように固まっていた。アーシャの時魔法である。


 「私は別に時魔法以外にも数多く魔法が使える。

  時空魔法も得意分野だ。だがあまり使わない。

  なぜなら、時魔法で全て事足りる」


 アーシャは右手の親指と人差し指で銃のような形を作る。


 「基本、魔法は使えば本人の魔力が消費される。

  魔力量が桁違いに多いお前でも有限だ。

  だが、時魔法は原理が少し異なる」


 右手の人差し指に何かのエネルギーが集まっていることをアイトは確認する。


 「時魔法は言葉の通り時を止める。

  そして時を止める際に消費されるのは魔力ではない。

  これまで存在していた時間の流れだ」


 「時間の、流れ?」


 「ああ。文字通りこの世界の針。つまり時間経過。

  1秒ずつ時は刻まれていくが()()()()以外は全て過去。

  数年前も、1秒前も過去は過去。

  もう過去になった世界は今を生きる私たちには

  必要ない。だから、それを使う」


 アーシャが説明する間にも指に集まり続けるエネルギー。


 「もはや数えられないほどの過去の時間に存在する

  世界のエネルギー、それを魔力として消費し

  魔法を発動する。それで時を止めることができるし、

  こうやって狙いを定めて出力することもできる」


 指に集まったものは、今も色が無いまま。


 「ま、まさかそれは」


 アイトの小さな声にアーシャはふっと笑みを漏らして、指から()()を放出する。



           「【悠久エタニティ】」



 透明な何かが、アーシャの指から解き放たれる。時間は、動き出していた。


 魔物たちは、原型を留めることなく吹き飛んでいく。地面が抉れていく。木が倒れて木っ端微塵になっていく。そして、耳を閉じたくなるほどの爆音。


 アーシャが放った何か。それが通り過ぎた先は、全てが吹き飛んでいた。


 「これで説明できただろ?

  ま、さっきのは厳密には魔力じゃないけど〜」


 そう言いながらドヤ顔を繰り出すアーシャをアイトは見ていなかった。


 「さあ、それじゃあ今から特訓だ。

  私の弟子になるんだ。強くなって貰わないと困る」


 アーシャの声に返事することすら忘れていた。そんな彼が考えていたことはただ一つ。



        (俺、生きていられる???)

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