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強くなるには

 時は少し遡り、2日前の休日の夜。


 アイトは自室で、とあることを考えていた。


 (強くなるには、指導してくれる先生がいる。

  しかも俺は、実家の家庭教師から教わったことは

  ほとんどないし、もはや我流だ)


 エリスと別れてから1年半の間、アイトはほとんど参考にならなかった家庭教師の授業。


 ラルドから教わったのは主に【血液凝固】、それとほんの少しだけの武術や体術。


 それ以外は誰にも教わったことがなかった。


 そしてアイトは、特に魔法の訓練がしたいと考えている。


 (ラルドは教官で忙しいだろうし、学園の教師は

  正直そこまでアテにならない)


 アイトはこれまでの人生で見てきた人たちを思い浮かべる。


 (ギルバートは魔法が得意じゃないし、クラリッサとポーラも違うな。姉さんは怖いし)


 アイトは、次々に知っている人物を思い浮かべていく。


 (シロア先輩は魔法の系統が違いすぎる。とりあえず王子は1番論外だな。‥‥‥あ、1人いた)


 そして、思いついた1人に連絡をかけるのだった。




 『うぇ!? わ、わたしに魔法を教わりたい!?

  あ、アイトくんがそんなことを言うなんてっ!』


 頼んだ相手はユリアだった。


 「頼む! 【賢者の魔眼】を持ってるし、

  回復魔法まで使える。

  間違いなく知り合いで1番魔法の素質があるんだ!

  お願い! 俺に魔法を教えて!」


 『とんでもありません! 遺跡を吹き飛ばせるような人に

  教えることなんてないですし、わたしも今学んでる

  最中なんですから!』


 こうして、最後の頼み綱ことユリアに断られたアイト。


 (他には、他に誰か‥‥‥あ。でも、どうだろう。

  正直まだ信用できてないけど、試す価値はある)


 アイトはその人物を呼び出すため外へ出た。




 王都。


 人目にあまりつかない場所にアイトは移動した。


 (おそらく、これで来るはずっ)


 アイトは【異空間】から市販の短剣を取り出し、自分に向ける。


 (これで来なかったらピンチにも程があるな。

  さすがに、保険をかけてギリギリで止めよう!)


 「っシェぃッッ」


 アイトは自分に短剣を振り下ろすのは初めてだった。そのため恐怖で声が怯みまくっていた。




         「何をやってる!!」



 アイトは気づいた時には自分の右腕が掴まれており、相手の握力で圧迫されて短剣を落とす。そして右手が解放された。



          (やっぱり来た!)



        現れたのは、黒いローブの女。



       「何のマネだ? 血迷ったか?」


       「違う。お前に用があったからだ」


       「! まさか、気づいたのか」


 女は驚きで声色が少し高くなる。アイトは気づいたのだ。これまで自分に介入してきたタイミングを。


 「ああ。王国内で俺が()()()()()()()()()()

  必ずお前は現れる。それと、実際に傷ついた時には

  俺が王国内にいれば必ず様子を見に来る」


 1度目は魔物討伐体験でシロアと一緒に上級魔族を討伐した後の王国内の医務室。あの時は肩に重傷を負っていた。そしてアイト自身の甘えを気づかせるような助言。


 2度目は城で王子の危険な攻撃を受けそうになった時。あの時は命を落とす危険さえあった。


 (つまり、コイツは俺に死なれると困るってことになる)



 「まずは、ありがとう。

  あんたのおかげで自分の甘えに気づいた。

  あんたの言う通り、死ぬほど後悔した」


 「‥‥‥そうか」


 「それと、頼みがある。

  こっちがあんたを誘い出した目的だ」


 「‥‥‥なんだ」


 アイトは、頭を下げてこう言った。



        「俺の、師匠になってくれ」



           「‥‥‥はあ?」


 女の反応は、至極当然なものだった。


 「俺は、強くなりたいんだよ。『エルジュ』の代表として恥ずかしくないように」


 「つまり、ずっと組織を引っ張る覚悟ができたと?」


 「いや、正直そこまでの覚悟はない。

  今でもこの地位から離れたいと思ってる」


 「は、矛盾してるな」


 「でも、何も功績を残さないまま辞めたくはない。

  エリスや、みんなのためにも」


 「‥‥‥」


 「理由はわからないけど、あんたは俺に死なれると

  困るんだろ? それなら俺を強くするのも

  あんたにとって悪くないんじゃないか?

  お互いに利益がある」


 「‥‥‥1つ聞かせろ。なんで、私なんだ?

  お前とはまともに戦ったことはない。

  どうして私なんだ」


 女は至極当然なことを質問する。今までアイトに戦闘に関わるものを見せたことは微塵もない。そしてアイトは理由を話し出す。


 「それは、あんたが王子に気づかれずに俺を

  助けられるほどの実力があるからだ。

  あの時、王子の目を盗んで俺を助けることは

  相当難しいはずだ。それをやってのけたあんたは

  絶対に強い。それにミアもやられたしな」


 「‥‥‥あっはっはっ!! 大した観察力だ!」


 女は急に笑い出す。


 「それじゃあお返し。左腕、動かせるんだろ? 私の目は誤魔化せない」


 「‥‥‥ああ」


 左腕は昨日の夜の時点で完治していたが、念の為に付けていた。アイトは左腕に巻かれた包帯を外し、【異空間】に入れる。


 「それじゃあ、テストさせてもらおう」


 「テスト?」


 「一度でもいい。私に攻撃を当ててみろ。

  そしたらお前を弟子にしてやる。

  猶予は夜明けまでだ。よ〜い、始めっ!」


 「勝手に始めんなっ!!」


 そう言うアイトだが即座に臨戦態勢を取る。


 (まずは距離を詰めてからーー)


 「ぶっ!?」


 そう思った矢先、腹に凄まじい衝撃が来る。アイトは後ろに吹き飛んで倒れた。


 (なんだっ!? 何をした!? いったい何を)


 「はっ!?」


 起き上がった瞬間にまたも凄まじい衝撃。アイトは地面を転がり続け、やがて立ち上がる。女は笑っていた。


 「おいおい、早くしないと地面と

  イチャイチャするだけで夜明けが来ちゃうぞ〜?

  ははっ(笑)」


 「このアマッ!!」


 アイトは【血液凝固】を両足に付与し、一気に近づこうとする。


 「うがっ!!」


 だが、女との距離を半分ほど詰めた時点でアイトは謎の衝撃に襲われ吹き飛ぶ。


 今回は受け身を取れたが、なぜ攻撃が当たるのか全くわからない。


 (相手は素手、魔法を発動させた兆候も全くない!

  それに今までの衝撃は、殴られた時と似ている!

  だけどあいつが近づいて来ることに気づけない!!)


 アイトはひたすら考える。女はそのまま突っ立っていた。


 (もしアイツが俺に接近して殴ってきてるなら、

  速いって次元じゃない!! ‥‥‥次元、じゃない?)


 女は、アイトの様子を見て笑っていた。


 (‥‥‥まさかっ、そんなことがあり得る、のか?

  いや、ここは異世界だ。だとしたら‥‥‥)


 「そろそろ行くぞ〜」


 女が気だるそうな声を上げる。アイトはその瞬間、両眼に『血液凝固』を発動させた。


 「ぐっ!!!」


 結果は変わらず吹き飛ばされる。アイトは両目の『血液凝固』を解除した。


 (‥‥‥間違いない。そんなの、卑怯だ‥‥‥)


 アイトは立ち上がり、女の方を向く。


 「やっとわかった。お前の力が‥‥‥」


 「お? もう気づいたの? 考え込んでるとは思ったけど

  予想より早かったな。じゃあ、言ってみろ」


 「まず俺がどれだけ反応速度を高めてもお前の姿、

  攻撃が見えなかった。それも全くだ」


 「ふむ」


 「さっき、俺は瞬きせずに両目を強化して見つめ続けた。

  けど、それでもお前の姿、攻撃は見えなかった」


 「へぇ〜、そんなことしてたんだ」


 「‥‥‥それに、地面を観察してやっとわかった」


 「地面?」


 「仮に神速の如き速さで動いているなら地面に足跡が

  着くはず。それに多少の粉塵も舞うだろ。

  だが、そんな兆候は全く見られなかった」


 「‥‥‥へえ」


 「つまり、とてつもなく速いって訳ではない。

  それじゃあ考えられるのは1つ。

  俺が意識していない間を動き、攻撃する」


 「‥‥‥ははっ」


 アイトは、今でも自分が信じられないことを口にした。




        「時を、止めてるんだろ」




         アイトの発言に、女は。



     「正解! 私は【時魔法】の適性者だ」



         嬉しそうに返事をする。



      そんな声を聞いて、アイトは絶望した。



         夜明けまで、あと2時間。

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