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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
3章 婚約者候補、来訪

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あなたを待ってる

 ルビーと別れて数時間後。


 アイトは自室に戻り、エリスに連絡を取る。


 『アイト様、どうされました?』


 「大事な話がある。今から会えない?」


 『大事な話‥‥‥わかりました。

  どちらへ向かえばよろしいですか?』


 「久々に、あの場所に行こう」





 「アイト様」


 「ごめんわざわざこんな遠くまで」


 「いえ、アイト様のお誘いならどこでも嬉しいです」


 アイトが指定した場所は実家から少し離れたとある泉。


 2人が昔、訓練を行っていた思い出深い場所だった。


 「懐かしいですね‥‥‥もうあの日々から数年ですか」


 「ああ」


 エリスが当時を思い出しながら目を少し細める。どこか嬉しそうでもあり、寂しそうでもあった。


 「エリス」


 「はい」


 名前を呼ばれたエリスはアイトを正面から見つめる。




      「しばらく、俺は組織から離れる」



  エリスは、アイトの思いがけない言葉に息が止まる。



       「な、なぜ、ですか‥‥‥?」



   先を聞くのが不安だが、聞かずにはいられない。



      「それは‥‥‥強くなるため、かな」



      「アイト様はすでにお強いです!」



  エリスが即座に言うとアイトは目を瞑り首を横に振る。



 「今の俺は、強くなんてない。本当に強くない」


 「そ、そんなことっ!!」


 「強くないんだよ。今のままじゃダメなんだよ。

  《エルジュ》のトップとして、ダメなんだよ」


 「‥‥‥」


 「ごめんな。これは俺のワガママだ。

  このままの自分が許せないんだ。

  納得いかないんだ。だから、強くなりたいんだ」


 「‥‥‥」


 「離れるといっても夏休みの間だけ、連絡もできる!

  会うのはちょっと厳しいかもしれないけど‥‥‥」


 「‥‥‥嫌っ!」


 エリスはアイトに抱き着き、頭をぐりぐりする。


 「嫌っ! いや! 会えないなんて、いやっ!!」


 「前は1年半くらい会わなかったぞ?」


 「あれは! 私が決めたことだからっ!!

  自分から離れるのは我慢できた!

  でも、あなたから離れられるのは耐えられない!!!」


 「‥‥‥ははっ、ワガママだな。エリスも。

  でもわかってほしい。1年半前、俺は止めなかった」


 「あっ‥‥‥」


 「あの時、正直腹が立ったよ。

  命懸けでラルドに勝って。また同じ日々が始まると

  思ったのに、急な話だったんだから。

  でも、腹は立っても止めることはできなかった。

  それだと俺のワガママだからな」


 「‥‥‥」


 「すぐに戻ってくる。そして今度こそ‥‥‥

  立派な代表になるために帰ってくる。

  だから、それまでの間を任せたい。『代表代理』」


 「‥‥‥っ!」


 エリスが息を呑む。アイトがこれほどの決意を見せたのは初めてだったから。これほど頑なに意見を変えなかったのが初めてだったから。物腰が柔らかい普段とは違う、覚悟の証。


 「‥‥‥わかった」


 エリスがそう言って顔を上げる。涙で滲んだ目でアイトを見上げる。


 「私、ワガママだった。いつまでも子どもだった。

  それであなたにずっと甘えてた。

  でもあなたは変わろうとしてる。だから私も変わる。

  私が支えたいのは、これからもずっとあなただけ。

  今まではあなたの後ろをついて行きたいと思ってた。

  でもこれからは、隣であなたを支えたい」


 「エリス‥‥‥」


 「行ってきて、()()。そして帰ってきて。

  私、もっと立派になったあなたを待ってる」


 「‥‥‥ああ!」


 アイトが決意すると同時に、エリスも決意した。


 エリスはこれまで、意識的に自分が『下』という感覚でアイトに接していた。もちろん仕えたいという気持ちは今でも変わらない。


 だが、このままでは自分はいつまでも子どもだと気がついたのだ。自分の意思で決められない、幼い子どもだと。


 そして代表代理に任命されたエリスは、自分の地位の重要性に気づいていなかった。アイトが不在の際には代わりに組織を引っ張っていくことができる地位ということに。


 そんな自分が敬語を使い、『下』という認識を持ったままではアイトの期待にも応えられないと認識したのだ。


 これまでの幼い自分と決別する第一歩として、アイトに対する敬語をやめ、対等になろうと決めた。


 アイトの決意は、エリスに成長を促した。


 これ以降、エリスは仲間に対して敬語を使わなくなった。




 夜。


 アイトは自室で荷物の整理をしていた。


 必要な物は《異空間》に収納し、いらない物は置いていく。


 エリスの他にもギルバートたち、そしてシロアにも夏休みの事情を伝えたその時はさすがに『強くなりたいから』とは言わなかったが。


 準備ができたアイトは外へ出る。そして王都付近の平原に到着した。



         「遅い。早く行くぞ」



            「ああ」



     そこには、黒いローブの女が立っていた。



  黒いローブの女が歩く後を、アイトはついて行った。


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