上に立つべき存在
真っ黒のレーザーが明滅し、凄まじい爆発が起こる。
「ッ!! うわぁぁっっ!!!!」
アイトは懸命に走って外を出て空に逃げようとしたが、外に出た瞬間に爆風に吹き飛ばされた。
その後にドーム状に爆発が広がる。先に空へ逃げてかなり距離を空けたエリスとターナにさえ爆風が届くほどだった。
粉塵が舞終わった後、謎の洞穴は消し炭になっていた。
‥‥‥様! ‥‥‥ト様!!!
アイトは、頭に響く声を頼りに目を覚ます。
目を開けると、視界のほとんどがエリスの顔で埋め尽くされていた。
「‥‥‥エリ、ス」
「アイト様ッ!! お怪我はありませんかッ!!?」
「あ、あ。大丈夫」
「無事でよかったッ!!!」
エリスが泣きながら寝ているアイトの胸に顔を埋める。エリスの頭を撫でながら周囲を見渡すと腕に包帯を巻いたターナがいた。
「ターナ‥‥‥」
「安心しろ。この腕はとりあえず今は固定してる。
もちろん今は動かせないが治癒魔法を
かけてもらえれば動くようになる」
「‥‥‥そうか」
アイトはそう言うとエリスの両肩を掴んで起き上がり、立ち上がる。
(‥‥‥俺はやっと、間違いに気づいた)
アイトは鞘から剣を抜き、左腕にあてがう。
「レスタ様?」
「レスタ?」
(これまでの甘い自分とは、さよならだ)
そして、自分の左腕を斬り落とした。
「グッッッ‥‥‥ガァッ!!!」
「キャァッ!!!! アイト様ッッ!?」
「!? お、おいっ!!!!」
エリスは絶叫し、ターナは絶句する。アイトがしたことの意味が分からなかったからだ。
「あ、ああ‥‥‥す、すぐに治療を、まず止血をッ!!」
「何もっ‥‥‥するなッ‥‥‥!!!」
「ゔぇっ? で、でもっ!!!」
「これはっ、ターナへの償いだッ!!!」
「はっ!?」
激痛で膝を地面につけて顔を歪めたアイトは泣きじゃくるエリスを嗜めた。
そしてターナはアイトに言われたことに驚きの声をあげる。
「ターナッ‥‥‥すまな、かったッッ」
「は、はぁ?」
「俺の、せいでっ、すまなかったッ!」
「な、何を言ってる!? お前のせいなんかじゃ」
「俺が、油断してたから、お前に、辛い、思いを‥‥‥
腕を斬られたことは、完全に俺の、せいだっ‥‥‥」
「わかった、もういいからっ!! 許す!!!
もともと怒ってなんか!! 許す、許すからッ!!」
ターナは両手を振って許すと連呼する。これほど取り乱すターナも珍しい。
「わ、私ユリアさんに連絡を、
あ、あ、カンナならコピーで治癒魔法をっっ!!」
エリスは大慌てでユリアといっしょにいるカンナに連絡を取る。
その間、アイトは一心不乱に話し始める。
「俺はっ、自分が強いと思ってたんだ‥‥‥
ラルドに勝って! 組織のトップに祭り上げられて!
《黄昏》のみんなが部下って知らされて!
勝手に自分が強いなんて思い込んでたっ!!
その結果がこのザマだっ!!!
武術大会でギルバートには素の力で勝ってないし!!
上級魔族の時はシロア先輩の協力があった!!
姉さんには速さで完全に負けてたし!!
ルーク王子には手も足も出なかった!!
そしてさっきのヤツにも苦戦した!!!
それどころか勝手に終わったと油断して
ターナの腕が斬り落とされることになったッ!!
俺は、死ぬほど後悔してるッッ‥‥‥!!!!!」
アイトはやっと黒いローブの女に言われたことを理解したのだ。組織のトップに立つのはこういうことだと。油断したら、自惚れたら終わりだと。大した覚悟もないのに生半可な行動をとると、後悔することになると。
アイトはこれまで戦闘で相手に単純に勝ちたいと考えたことが極端に少なかった。戦闘を行っている最中は『自分だと相手にバレないか』、そして『どうやってやり過ごすか』という考えがほとんど占めていた。
その甘えが、油断がこれまでの結果に繋がったと痛感した。
ターナはアイトの懺悔を聞きつづけている。それに対して、何も文句は言わなかった。
「覚悟が足りなかったッ!!
自分には関係ないと心の中で思ってたッ!!!
俺はもう、生半可な覚悟で
人が傷つくのが耐えられないッ!!!」
「‥‥‥なら、強くなればいい」
「ゔぇっ‥‥‥?」
ターナは泣きじゃくるアイトの前にしゃがみ込む。
「覚悟なんてそう簡単にできるものじゃない。
ボクだって暗殺者になって死ぬほど悩んだし、
後悔もした。だが、今でも続けている」
「‥‥‥」
「何かをすることに全く後悔しない方が珍しい。
いずれにしろ後悔はするんだ。
膨大な数から1つを選んでいるんだから。
自分が弱いことに気づけたなら、強くなればいい。
それこそ、誰にも負けないような『天帝』レスタに」
「‥‥‥ターナッ」
「ボクはお前が代表なのが心底気に入らなかった。
ナヨナヨしてるし意思は弱いし見栄を張るし。
そのことにエリスやミアを始めほとんど気づかない。
でも今回でわかった。心底感じた。
やっぱり、誰よりも人の上に立つことに向いてない。
でも、誰よりも優しい。そんなお前だから、
お前だからこそみんなに慕われているんだ。
そんなお前が、ボクの上に立つのも悪くない」
「‥‥‥!!」
ターナがアイト背後に回り込み、針を刺す。痛みを和らげるツボを押したのだ。そして布を押しつけて止血する。そしてアイトの左腕を拾って断面にくっつけて包帯を巻いた。
「だが今はまだ少し期待している程度だからな?
いつかボクの上に立つべき存在だと証明しろ」
「ターナ‥‥‥ごめんッ!! ありがどうッッ!!
俺がんばるッ!! がんばるからッッ!!」
ターナは右手でアイトに手を回し抱き寄せ、後ろから抱きしめる。血が付くことなんてどうでもよかった。ターナは躊躇しなかった。
やがて、アイトの意識は落ちていった。
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「いや〜危なかった♪ なんだあの魔法、凄まじかった♪」
消滅した洞穴からかなり離れた場所にエレミヤはいた。アイトが【終焉】を放った瞬間にアイトの視界が届いてないことを確認して咄嗟に闇魔法で地面を這って逃げ延びた。
「やっぱり勇者の末裔が仮面くんの周りにいたのか♪ これで、これでついに‥‥‥」
エレミヤは喜びながら、夜を彷徨うのだった。




