意味があるのかっ?
30分後。
(ターナ‥‥‥無事でいてくれ!!)
アイトが謎の洞穴に到着。長い距離を休憩なしで移動したため体力オバケのアイトでも少し息が上がっていた。飛行は魔力温存のため使わなかったのだ。
洞穴の中に入り、広いところに出る。
「おやっ、本当に来たね仮面くんっ!」
「れ、レスタ‥‥‥」
エレミヤの言葉がアイトは一切聞こえていなかった。聞く余裕がなかった。
エレミヤの周りには血溜まり、そこには数人の死体が。
そして‥‥‥椅子に座っているターナの左腕が、地面に転がっていた。辺りには血が飛び散っており、彼女の意識は朦朧としている。
「これで勇者の末裔がいることは確実♪
さあ、どこにいるのか教えてもらおうか。
それとも、君が勇者のーーッ」
エレミヤは最後まで言うことができなかった。アイトの拳が頬にめり込んだからだ。拳を振り抜いてエレミヤを吹き飛ばす。
次にターナをドーム状に囲う障壁魔法を3枚重なるように発動。魔法制御力による同時発動をアイトは惜しむことなく使う。
エレミヤは地面を転がるがすぐに起き上がった。
「う〜ん、速いっ! そして痛い! いいね!」
「‥‥‥」
「もしも〜し、聞こえてる? 仮面く〜ん?」
「‥‥‥黙れ」
「ん?」
アイトは勢いよく剣を抜き取り、右手に持つ。
「‥‥‥殺すッ」
仮面で顔の上半分が見えていないにも関わらず、アイトの凄みにターナは驚き目を見開く。意識が朦朧としていてもはっきりと感じられた。それは、完全な殺意。
(あんなレスタ、初めて見る‥‥‥)
「あはははっ!! いいねっ! 面白いっっ!!」
エレミヤが両腕に紫色のオーラを纏うとアイトが一瞬で間合いを詰める。始めから両手足に【血液凝固】、つまり本気の合図だった。
アイトが右手の剣を縦に振り下ろす。それを左腕を横に薙ぎ払うようにして受け流すエレミヤ。アイトは素手で剣を受け流されたことに驚いた。
「知ってる? 素手でも剣を流すのは可能♪
正面から受け止めなければ、いいのさっ!」
エレミヤの逆の手の拳がアイトの脇腹に迫るが左腕を曲げるようにしてブロックする。
「ッ‥‥‥!?」
だが殴られたような痛みがアイトを襲った。
「痛いでしょ? でも外傷は残ってないよ。
だって、心に攻撃してるんだから。
防御しても、たとえ硬化魔法を付与しても
心は常に剥き出しさ♪」
アイトはエレミヤの乱打を剣で受け止め、反撃で横蹴りを繰り出すが避けられる。そして2人の間に距離ができた。
「名付けて【剥き出しの心】。おしゃれでしょ?」
「ダセェよ!!!!」
その後も2人の戦いは均衡状態が続いた。
「レスタ様っ!!!」
だがエリスの登場によりその均衡が崩されることになる。
「!? なんで来た!?」
「! まさか、勇者の末裔っ!」
エレミヤがここに来て初めて動揺したような表情を見せたがそれも一瞬。アイトを無視してエリスに詰め寄ろうとする。
「近づくなッッ!!!」
逆鱗に触れたエレミヤはアイトの蹴りを受けて地面に転倒。エレミヤが起き上がる瞬間を狙い、胸を横一文字に斬った。
「‥‥‥なっ?」
だがアイトには斬った感覚が来なかった。よく見るとエレミヤの胸にドス黒いモヤがかかっている。
(なんで当たらないっ!?)
その後も剣を振るが攻撃が通らない。エレミヤは微笑んでいた。
「れ、レスタッ‥‥‥!! そいつは闇魔法使いだっ!!
闇は全てを飲み込むと言われてるっ!!
その中には、衝撃も含まれるっ!!」
「あら、あの子は物知りだね」
必死に叫ぶターナの助言によりアイトはエレミヤに攻撃が通らない理由がわかった。
自分の体に闇を纏うことで攻撃を無効化していると。アイトは無敵ではないかと思ったがすぐにその考えを否定する。
(それなら始めから全身に、常に闇を纏えばいい。
だがそれをせず、攻撃が当たる部位に瞬間的に
発動してる。つまり纏える闇には限界がある!!)
冷静に分析したアイトはエレミヤと攻防を繰り広げながら大声を上げる。
「エリス!! ターナを連れて離れてろ!!!」
「いえ私も加勢を!」
「ターナが最優先だ!!! 急げっ!!」
「! ‥‥‥はい!」
エリスは何も言わずにターナに駆け寄る。その瞬間にアイトはターナの周辺にかけていた障壁魔法を解除。
「あははっ! こんなに楽しいのは久しぶりだな〜!」
「一生楽しんでろッ!!」
2人の攻防が続く間にエリスはターナと地面に落ちていた腕を抱えて洞穴の外へ出ようとする。
「逃すと、思うかいっ!?」
「!!」
エレミヤが攻防の中、突然足払いをかける。不意をつかれたアイトは足が地面から離れる。
「ッラァッ!!」
だがアイトは左手の手のひらを地面につけてそのまま浮いた勢いのまま右足で蹴りを放つ。そのような攻撃が来ると思ってなかったエレミヤは頭に蹴りを受ける。
「‥‥‥ハハッ! そこから蹴りを放つなんて。
対応力が凄まじいねっ!」
「ヴッ!!」
だがアイトの蹴りは体勢が悪かったため浅かった。エレミヤはアイトの右足を掴み地面に叩きつける。地面に叩きつけられたアイトは低い呻き声を上げた。
「やあっ! 君が勇者の末裔かい?」
その瞬間にエレミヤがエリスの前に回り込む。ターナを抱えたエリスはエレミヤに追いつかれてしまった。
「下衆が‥‥‥邪魔をするな」
エリスは冷えた眼差しでエレミヤを睨む。当然エリスは染色魔法で瞳を青く覆っているため勇者の紋章はエレミヤに見えていない。
「それじゃあ、直接聞こうかな!」
「ッ‥‥‥!!」
ターナを抱えたエリスは両腕が塞がっていて戦闘態勢に入れない。その隙をついてエレミヤが両腕に闇のオーラを纏って拳を振りかぶる。
「ッ‥‥‥?」
だがエレミヤの拳がエリスに当たることはなかった。エレミヤの体が硬直しているからだ。そんな彼の腕には針が刺さっている。その針には、神経毒。
「‥‥‥おかえしだッ、イカレ野郎」
どれだけ意識が朦朧としていても、たとえ片腕がなくてもターナは外さなかった。自分はもう動けない演技をして、この一撃を虎視眈々と狙っていたのだ。
「す、すごい子だッ‥‥‥♪」
エレミヤがそう言うとその場に膝から崩れる。だが膝立ちの状態から地面に倒れることはなかった。
「こいつ、なんて耐性してるんだっ‥‥‥」
ターナは絶句した。今が好機だという考えが抜け落ちるほどの衝撃だった。
「終わりよ」
だがエリスは見逃さない。ターナを左手で抱え直すと右手手で剣を抜き、エレミヤの心臓めがけて突き刺した。
「ざん、ねん‥‥‥♪」
「! まだ、纏えるの?」
だが、エレミヤには届いていない。エリスが刺した箇所にはドス黒いモヤがかかっていた。体はほとんど動かさなくても闇を纏うことはまだ可能だった。
「エリス、ターナ! 先に出てろっ!!」
少し離れた位置にいるアイトに振り向くと、一瞬でアイトの意思を察知したエリスが剣を抜いて鞘に収める。そして大急ぎでターナを抱えて洞穴の外へ走りそのまま空を飛んでいく。
アイトの両手の各指に、それぞれ各属性魔法の小さな玉が浮き出ているからだ。
合計10個の魔法の1つに合わせる。するとそれぞれの属性が反発し凄まじい音と衝撃が起こる。混ざってできた魔法のエネルギーは真っ黒。
その状態をキープしながらアイトは洞穴の出口周辺に歩いて移動した。アイトが洞穴の中にいるエレミヤを見下ろす形になる。
「なにを、する気だい?」
「今から死ぬお前に、言う意味があるのかっ?」
凍りつくような目で見下ろしたアイトは真っ黒の魔力の塊をレーザーとしてエレミヤに放つ。その魔法はメルチ遺跡を破壊して以来、1度も使っていない。
アイトにとって禁忌の魔法、【終焉】だった。