どこかで会ったことある?
グロッサ城外、庭園。
アイトと黒いローブの女が向かい合っていた。
「なんでお前が!?」
「窓から飛び出して意識が無い君を助けた。
しかもあの王子くんにはバレてない。
先にお礼でも言ったらどうだ?」
庭園の花を観察しながら女は言う。
「‥‥‥とう」
「ん〜? よ〜く聞こえないぞ〜♪」
「ありがとう!! これでいいな不審者!」
「それ、感謝してる?」
女は笑い声を響かせる。アイトは気になることが山ほどあった。それを追求していく。
「なんで俺を助けた?」
「ん〜? それはヒ・ミ・ツ♪」
「‥‥‥(イラッ)」
「それよりも、君にはやることがあるだろ?
これからのベネット商会についての話し合い」
「‥‥‥なんでそんなことまで知ってるんだ」
「ん〜? ヒ・ミ・ツ♪」
黒いローブで全身がほとんど見えないにも関わらず女はあざとい(と思われる)ポーズをした。
「もういい。じゃあな」
「じゃあね〜♪ 任務がんばれ代表さん♪」
「!! また、いない」
女が一瞬でアイトの前で消える。どういう原理か考える気力すら湧かなかった。
(あの女‥‥‥キライ!!!)
内心毒吐きながら魔結晶でエリスと連絡を始めた。
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(レスタには逃げられたし、
マリアの言ってた謎の金髪女も見当たらない。
とりあえずステラとユリアの様子を見に行くか)
グロッサ城2階廊下。
ルークは妹2人の無事を確認するため移動していた。
「あ! お兄様〜!」
「うぃっ!」
少し遠くからユリアはルークを発見し駆け寄る。ユリアの隣にいた少女は変な声をあげてその場に立ちすくんだ。ルークはユリアの姿を見てホッとした。
「なんだユリア、無事だったか。怪我はない?」
「なんだってなんですか!! 大丈夫ですよ!」
「‥‥‥ん? あそこにいる女の子は?」
(ギクゥッ!!)
少女はルークから目を逸らし硬直する。
「あ、わたしの友達のカルナちゃんです!
今日うちに泊まりに来たんですよ!」
「ふ〜ん、とりあえず挨拶するか」
ルークは少女に近づき手を差し出す。
「兄のルーク・グロッサです。
妹がいつもお世話になっています。
これからも仲良くしてあげ、て‥‥‥?」
ルークは目の前の少女を見て違和感を感じた。
(黒髪ツインテールで赤い瞳。
見たことないはずなのに初対面に感じない)
「か、カルナだよっ! よよよ、よろしくねっ!」
「‥‥‥???」
ルークは少なからず動揺していた。まさか自分より年下でありそうな妹の友達にタメ口で話されるとは思っていなかったのだ。
「‥‥‥君、どこかで会ったことある?」
「!!! な、なんのことでっしゃろ!?
見に覚えがないにぁ〜!? ないないにゃあ〜!?」
(‥‥‥変な子だ。変な子といえば4ヶ月前の
誘拐騒動の際に会った銀髪ポニテコピー少女がいたが
あの子は活発でもっとアホっぽかった。
それに【無色眼】は染色魔法で瞳の色を
変えることができない。考えすぎか。
たぶん僕が王子だから緊張してるだけ)
ルークはこれ以上ないほど失礼な解釈で目の前の少女に笑いかける。
「そうだよね。これからも妹をよろしく」
「は、はいっ! よろしく任されております!」
ルークは少女に微笑んだ後にユリアに話しかける。
「ステラの様子は僕が見に行くからユリア、
カルナさんと一緒に自分の部屋に戻ってて」
「わかりましたっ!」
ユリアの返事を聞いたルークはすぐにステラの部屋へ向かう。
ユリアと少女は急いでユリアの部屋へ戻り始めた。
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ユリアの部屋。
「ハァ、危なかったぁ‥‥‥!!
私が演技派じゃなかったらバレてたぁ!」
少女ことカンナはユリアの部屋でホッと息を漏らす。
(やっぱり【血液凝固】を目に発動させて大正解っ!)
【血液凝固】を発動した箇所は血液が多く集まるため赤くなる性質がある。その性質を活かし、両目に【血液凝固】を発動することで瞳に血を集結させ赤くさせたのだ。
体の体質変化によるものであるため魔法でない。そのため【無色眼】でも色が赤くなる効果があった。
「え、演技派‥‥‥? ‥‥‥?」
「え?」
「何でもないですっ!!
か、カンナさん。バレなくてよかったですねー!」
ユリアは必死にさっきの発言を誤魔化すために大声を出す。
「zzz‥‥‥」
そしていつまでも目が覚めないアクアであった。
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「レスタ様、お待ちしておりました」
「レーくん、おか」
エリスたちの潜伏拠点兼、お店『マーズメルティ』。
エリスとリゼッタがアイトの来訪を待っていた。アイトが魔結晶でエリスに連絡した頃、エリスたちはすでに店に着いていた。
「2人ともお疲れ。ルビーさんとセバスは?」
「あちらで待機してもらってます」
テーブルを見るとルビーとセバスが椅子に座っていた。
「それでリゼッタ。ミアは大丈夫か?」
「だいじょぶ、今、すや〜」
別室で寝てることを聞いたアイトは安心し、ルビーたちのテーブル付近の椅子に腰を下ろす。
「レスタさん! よかったご無事で!」
「‥‥‥悪運は強いようだな小僧」
「ああ、おかげさまでっ」
アイトはセバスが先に逃げたことを根に持っていた。セバスはアイトの少し尖った態度に全く気づいてない。
「それじゃあ始めよう。もう夜遅い」
アイトがそう言うとエリスがアイトの左隣に腰を下ろし、リゼッタがアイトの背後に腰を下ろす。
「アライヤ・ベネットのことです」
エリスが話を切り出すとルビーは少し暗い顔をする。
「正直に言うわ。イアリングのことを調べる際に
私はルビーさんの過去を知ってしまった」
「‥‥‥っ!!」
「な、なんじゃと!」
エリスと顔を合わせたルビーが息を呑む。セバスは驚き、アイトは何も反応しなかった。調べると言った時点で勇者の魔眼の『透視』で全て見透かしていると思っていたからだ。
「少なくとも昔のあなたの養父は、
イアリングに爆破魔法を施して
あなたを暗殺の道具に使うような人ではなかった。
優しい立派な養父だったと思うわ。
でも最近になってまるで人が変わってしまった。
あなたに対して態度が冷たくなり、
ついに今回の件にまで発展した」
「‥‥‥はい。本当に私の過去を知っているのですね」
「‥‥‥知らなかった。本当にアライヤ様が‥‥‥
!! もしや、誰かの変装であるとかっ!!」
「それはないわ。間違いなく本人よ」
「なぜそう言い切れる!!」
「‥‥‥セバス。エリスには言い切れるんだよ」
魔眼のことを知っているアイトがセバスをたしなめる。だがセバスは納得しなかった。
「だからなぜじゃ!?」
「‥‥‥その理由を話すと、2人には
覚悟を持ってもらわないといけない。
これから何があっても誰にも話さないという覚悟をな。
もし誰かに話したら‥‥‥俺たちが消す可能性がある」
淡々と呟くアイトの凄みにルビーとセバスは息を呑み、戦慄する。エリスとリゼッタまでも驚きを隠せなかった。
魔眼のことが周囲に知られればエリスに間違いなく危険が及ぶ。アイトはそのことが許せなかった。
「‥‥‥そこまで言うなら信用しよう。
だが、私はアライヤ様がそんなことをするなんて
信じられぬ!! お嬢様にそんなことをするなんて!!」
「セバス‥‥‥」
「‥‥‥そこまで言うなら、調べる価値がありそうね。
もしかしたら、アライヤ・ベネットは
誰かに操られているかもしれないわ」
「‥‥‥もしや」
「心当たりがあるの?」
「うむ。最近になって新しい者がベネット商会に
出入りするようになったのだ。
その者が出入りする理由をアライヤ様に聞いた時、
かなり返答があやふやで疑問に思っていた。
それに私の目から見てかなりの実力者だ」
「あなたから見てなんてよっぽどね」
エリスがそう言うほど、セバスの実力は相当なものであるとアイトは理解した。またセバスが言う怪しい者のことも。
「外見は?」
アイトは他に気になる点を聞く。
「銀髪の青年だ。華麗な顔立ちをしているが
何を考えているかわからん不気味な男よ。
年はそう‥‥‥小僧より少し上くらいだ。
もちろん小僧ではない。声が小僧より大人びていた」
(銀髪? なんだ‥‥‥何か引っかかる。なんでだ?)
「‥‥‥そういえば、昼にアライヤさんがグロッサ城に
訪れた際にそんな人がいたわ。
あの時はただの部下だと思ってた」
エリスは少し悔しそうな様子を見せる。その際に魔眼で調べなかったことを後悔していた。
アイトは立ち上がって話し始める。
「とにかく、実際にアライヤ・ベネットに会いに行こう。
ルーナさんとセバスは城に戻って」
「え! そ、そんなっ!」
「早く戻らないと城のみんなが驚くだろうし。
大丈夫、アライヤさんに危害は加えない」
「‥‥‥貴様に言われても怪しさ万点だが、
お嬢様を助けてくれたんだ。さすがに信じよう。
アライヤ様の気の迷いならそれでもいいのだ。
だがあの方に何かある時は‥‥‥どうか、
アライヤ様も救ってくれ。頼む」
「私からもお願いします! お父様を助けてください!」
セバスが頭を下げる。ルビーも続いて頭を下げた。
「ああ、必ず。よ〜し、それじゃあ向かうか。
今は王国内の宿屋とかに泊まってるよな?
アライヤ・ベネットがいる場所を教えてくれ」
「もちろんじゃ。場所はーーーーー」
「思ったより少し遠いな。リゼッタは引き続き待機」
「りょかい」
「エリスはルビーさんたちと一緒に城へ戻ってくれ」
「!! レスタ様、私もお供いたします!」
「それじゃ、リーが」
「エリスはユリアの友達としてグロッサ城に潜入してた。
だから今いないことを誰かに知られるとまずいだろ?
それにここにミアを1人にしておけない」
「それはそうですが」
「そ、だけど」
「大丈夫。近くにいる『トワイライト』の誰かと
一緒に行くから。それに王国内だし大丈夫」
「‥‥‥わかりました。くれぐれも気をつけてください」
「きおつけ」
「ああ。それじゃあ、各自行動開始!」
アイトたちはそれぞれ移動を開始した。