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‥‥‥あれ?

 ここで、ルークとアイトが遭遇する数十分前に遡る。



 王都付近の平原。


 (任務で遅れた! 今日は婚約者候補さんが

  うちに来ていたはずなのに申し訳ない。

  でも答えはもう決まってるから関係ないか)


 心の中で謝りながら到着したルーク。そして彼の視界の先には、真っ黒の魔物の群れ。


 「? なんだあの黒い魔物‥‥‥興味深い!!」


 目を輝かせながらミアの作った『クロ人形』たちに飛びついた。結果は言うまでもない。




 「ルーク様! ありがとうございます!」


 「ケガはないか! 引き続き警戒を怠るな!」


 ルークはミアが仕掛けた『クロ人形』をすぐに殲滅した。


 「先にマリア殿が城に向かっておられます!」


 「報告ご苦労! ここは任せる!!」


 ルークは王都から城までの最短距離を走り抜ける。市民たちが彼を見て驚くがルークはスルーした。


 (マリア、ちゃんと僕に報告してくれないと)


 マリアからの連絡に気づかなかった自分に落ち度があることに気づかないまま城を目指すのだった。




 「マリア!!」


 グロッサ城2階の廊下。ルークは廊下に座り込んでいるマリアの肩に手を置いて話しかける。


 (まさか、もうマリアは)


 「‥‥‥ぅ。る、ルーク先輩?」


 目が覚めたマリアはアイトの魔法の影響が残っていて立ち上がることができなかった。


 「無事か。それよりも今はルーク『隊長』だぞ?

  時と場合で呼び方に気をつけて」


 「‥‥‥この、鬼畜」


 「? 何か言った?」


 マリアはボソッと小さな声で罵倒したためルークには聞こえていない。


 「‥‥‥もうしわけ、ありません。

  謎の集団の侵入を、許してしまいました。

  あたしの目で見たのは、レスタと、謎の金髪女です」


 「!! 本当か!」


 「はい‥‥‥狙いは、隊長の、婚約者候補だと思います」


 《ルーライト》の一員にはルークの婚約者候補の話を国王に聞かされていた。


 「あ、そういえばまだ会ってなかった。

  それに彼女が狙われているなら僕が向かう。

  マリア、誰にやられた?」


 「‥‥‥レスタ、です」


 「レスタ‥‥‥アイツが」


 「‥‥‥隊長?」


 そう言ったルークがマリアを抱えて廊下を歩き、やがて自分の部屋に着くとマリアをベッドに寝かせた。


 「‥‥‥は!?」


 意識が朦朧としているが今の状態にはマリアも反応を示す。そしてあたふたし始める。


 「気分悪いだろ? ここならまだ安全だから。

  回復するまで寝てていい。

  よくやってくれた。お疲れ、マリア」


 「‥‥‥時々、こういうことしてくるから、卑怯」


 ルークの褒め言葉と微笑みを見て、思い切り布団を被るマリア。一種の照れ隠しだった。


 「卑怯って何、部下の体調を気遣うのが隊長だろ?」


 「‥‥‥はぁ、もういいです。がんばってください」


 「? ああ」


 マリアの言った意味がわからないままルークは部屋を後にした。


 そして少女の悲鳴を聞いて部屋に入り、ルークはレスタ(アイト)と遭遇する今に至る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 城の外。


 無事に着地したエリスはルビーを地面に下ろし、足を城壁に擦って落ちる速度を下げて着地したセバスに驚いていた。


 「‥‥‥レスタ様は?」


 「先に降りろと合図された」


 「? どうして?」


 「それがさっきお嬢様と貴様が降りた後に

  ルーク王子と鉢合わせての」


 「な!? あの王子が!?」


 「小僧は『俺が戦うから先に行け』と伝わってくる

  合図をしてきた。だから先に飛び降りたのだ」


 「レスタ様‥‥‥」


 「仮面さん‥‥‥」


 ルビーは素性の知らないレスタ(アイト)のことを本気で心配していた。それに対してエリスはこう感じていた。


 (私たちを、ルビーさんを助けるために

  自分が残られるなんて。やはり人の上に立つ器。

  レスタ様、店で待っていますから)


 エリスはルビー、セバスと共に城から離れていくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ルビーが泊まっていた部屋。


 部屋の中から凄まじい金属同士のぶつかる音が響き渡っていた。2人の剣が部屋を動きに巻き込まれ、家具に傷が入っていく。


 「君たちが動いてるなんて何か理由があるんだろ?

  それを僕に教えてくれないか?」


 (いや手一杯で話す余裕すら無いわっ!!

  戦ってる最中に話しかけるな疲れるわっっ!!!

  間違いなく今まで戦った中で1番強い!!)


 ルークの速く、美しく、そして重い剣撃を捌くだけでアイトは精一杯だった。それも両腕に加速魔法、【血液凝固】まで発動している状態で。


 「‥‥‥話すわけがない」


 アイトは声質を普段と変えながら必死に言葉を絞り出す。


 「そうか。なら君を倒した後にでも聞こう。

  せっかくだしマリアの仇、取らせてもらおうか!」


 (生きてますけど!?)


 心の中で突っ込んだのも束の間。ルークの姿がアイトの視界から消える。


 「!!」


 そしてその直後にまた凄まじい金属同士のぶつかる音。だがそれは一度しか起きなかった。


 「‥‥‥っっ!!!!」


 ルークの剣が背中に当たる寸前で止まっている。アイトの剣が間に割り込んでいるからだ。


 アイトは必死に歯を食いしばっている。背後からのルークの剣を咄嗟に自分の背中に右手をねじ込み愛剣を回すことによって防御。だが体勢的にアイトが圧倒的に不利である。


 (もう、これしかないっっ!!)


 「まさか反応してくるなんて思わなかったよ。

  それに咄嗟に剣で背中を守るとはね。

  でも、その体勢は流石にキツイでしょ」


 「‥‥‥」


 「だんまりか? まあそれでもいい。

  この後にいっぱい話してもらうから、さ!!」


 ルークが剣に力を込めてそのまま押し込もうとする。


 (‥‥‥今だ!!)


 アイトは左手をルークに向けて魔法を発動する。ルークが話している間に左手である魔法の準備をしていたのだ。発動した魔法は、【ノア・ウィンド】。


 発動した瞬間に凄まじい轟音が部屋で響く。


 「っっっ」


 「ぐっ」


 ルークには当たったが、距離が近いアイトも巻き添いになった。2人とも意識に影響が出始め、その場に倒れかける。


           「魔力解放」


            「っ!?」


 だがアイトは体を震わせながらも必死にルークから距離を空ける。ルークの体から謎の金色のオーラが立ち込めていたからだ。


 そのオーラがルークを包み込むように囲い、やがて周囲に広がっていく。


 そこで、アイトは自分の目がおかしくなったのかという感情に陥る。


 周囲に広がるのは大昔の大規模戦争を映し出したかのような光景。


 兵士たちが剣を交え血を流し、その後ろから雨のような弓が降り注ぎ血の水たまりを作っていく。それがアイトの視界の見渡す限りに映っていたのだ。


 そのことに気を取られていたアイトは気持ちを引き締めてルークに向き直る。


 するとルークは【ノア・ウィンド】も受けたにも関わらず普段通りの様子を見せた。


 「まさか、あんな魔法を使えるなんてね。驚いたよ。

  凄まじい魔法制御力だ。さすがメルチ遺跡を

  1人で吹き飛ばしただけのことはあるね」


 「‥‥‥っ?」


 (なんで‥‥‥【ノア・ウィンド】をくらって、

  そんなにピンピンしてるんだ‥‥‥?

  それにこの光景は‥‥‥現実なのかっ?)


 意識が朦朧としているアイトには、ほとんど聞こえていなかった。


 「正直、魔力解放をすることになるとは思わなかった。

  さあ、そろそろ君のも見せてくれ」


 (な、なにを、言ってんだ‥‥‥?)


 アイトは本気でルークの言っていることが理解できなかった。


 「‥‥‥まさか、魔力解放できない?

  参ったな。正直、がっかりだよ」


 ため息をついたルークの体から金色のオーラが溢れ出す。


 (見たことない、色‥‥‥!!!

  もしかして、『聖騎士の魔眼』の力‥‥‥!?)


 「ま、魔眼‥‥‥!?」


 「ご名答。僕の魔眼、『聖騎士』としての力さ!」


 ルークは口から漏れたアイトの言葉に返事をし、剣を鞘に納める。そして何かを投げる動作に入る。


 するとルークの左手に金色の魔力でできた槍のようなものが浮かび出す。


 『聖騎士の魔眼』を持つ者は、悪しきものを浄化すると言われている聖属性の魔法を使いこなすことができる。聖属性魔力は聖騎士の魔眼を持つ者にしか使えない。


 (やばい‥‥‥! あんなのくらったら‥‥‥!)


 意識が朦朧としているアイトでも危険を察知するほどの気配を感じ取る。グロッサ城内の部屋が、いや城全体が揺れ始める。


 「まあ、これをくらったら五体満足でいられないかも

  しれないけど、後で治してもらうから安心して!」


 (ふざけんなっっ‥‥‥!!)


 アイトは最後の力を振り絞って【血液凝固】を両足に発動する。


 「っらぁ!!!」


 そして自分の中での最高速度で部屋の窓から飛び出した。


 それを見たルークは、笑っていた。


 「アハハッ!! 君は予想通りに動いてくれる!

  この技を、僕が城の中で撃つと思ったのかい?」


 (まさか、俺が飛び出すって読んでたのか‥‥‥!?)


 ルークが思い切り振りかぶり、窓の外へ投げ飛ばす。



          「【金の槍(ゴールド・ランス)】」



 アイトは自分に向かって聖属性のオーラでできた槍が飛んで来ているのを目にする。


 そして凄まじいスピードでみるみるアイトに迫っていく。


 だが今のアイトには力が残っておらず、風魔法による飛行はもちろん、魔法の発動すらできなくなっていた。


    (どうすれば‥‥‥!!! どう、すれば‥‥‥)



     そしてアイトの意識は、ここで途切れた。


        空には金色の線が突き抜けた。




 ルークは窓から外を眺めていた。


 「‥‥‥いない。あれを受けて消滅した?

  いやまさか‥‥‥あの状況で逃げた?

  ‥‥‥ハハハハッ! 面白い!!

  今回は引き分けってところかな。

  次会うときには、習得していてほしいものだ」


 ルークの視界に、アイトの姿はなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「なに今の揺れ!」


 「なんでしょう。大丈夫ですかね‥‥‥」


 「zzz」


 ユリアの部屋。


 カンナとユリアは城全体が揺れたことに驚いていた。未だ寝続けている人も1人いるが。


 「お父様、お姉様大丈夫かな‥‥‥

  何も事情を知らせてないから心配です」


 「ユリアちゃん、それなら見に行こうよっ!」


 「え、でも、いいんですか?」


 「家族を心配するのは当たり前! さあレッツゴ〜♪」


 「‥‥‥はい、そうですねっ! 行きましょう!」


 「アクア〜‥‥‥は寝てるね。それじゃあ2人で行こう!

  ステラ王女のお部屋に案内してほしいな!」


 カンナとユリアは立ち上がり移動を開始する。


 「はいっ! こちらです!」


 「よろしく〜!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王都。


 「わ! なんですか今の光!」


 「城の方から見えましたな」


 「静かにっ。事情を知ってる人にバレたら大騒動になるわ」


 エリスたちは『マーズメルティ』へ慎重に移動していた。


 (今のは‥‥‥あの王子の魔法?

  あれは相当な威力のもの。かなり危険。

  でもアイト様、私は信じてますから)


 エリスは一瞬目を瞑ってアイトの無事を祈り、気合を入れ直す。


 「もししばらくしてもレスタ様が来なかったら

  その時は私だけもう一度城に戻るわ。

  とりあえず今は急いで向かいましょ」


 「貴様が仕切るなっ!」


 セバスの声を無視しつつ移動を続けるエリス。ルビーは苦笑いを浮かべる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「‥‥‥ん? ぅ‥‥‥頭いたい」


 上半身を起こし周囲を確認する。


 (確か窓から飛び出してあの王子の攻撃をくらいかけて、

  それから‥‥‥あれ? なんでこんなところにいる?

  そもそもなんで俺は無事なんだ?)


 アイトがいたのはグロッサ城の庭園。


 自分の胸に手を置いて考えてみるが何も出てこない。



    「なに自力で逃げ切ったと思い込んでるんだ」



        声がした方に反射的に向く。



        「あっ!? お前は!!」



     目の前には、黒いローブの女が立っていた。

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