仲良くしていこう!
エリスは、エマの耳から手を離す。
「わかったわ。爆発の条件は強い衝撃と時間制限。
外すと爆発すると言ったのは外す際に
衝撃が入るからでしょうね。
強い衝撃が入った後、2秒後には爆発するわ。
それと時間制限は、まだまだあるけど
詳細は言わない方がよさそうね」
「はいっ‥‥‥お気遣いありがとうございます」
セバスは少し離れた所で2人を見ながら頷いていた。
「貴様の部下、なかなか腕が立つではないか」
「まあ、出来過ぎた部下ではあるよ」
「!」
アイトの発言をエリスは見逃さなかった。「褒めてくれた!」と喜びのあまり顔を真っ赤に染めたまま話を続ける。
「レスタ様。イアリングの爆発解除を調べました。
付与魔法による時間制限は低度な魔法のため解除
できそうですが、付与による強い衝撃と
爆破魔法自体は高度な練度のため
解除は困難かと思われます」
「そうか。う〜ん、とりあえずイアリングを外すか」
「あの、衝撃を加えると爆発するって
言いませんでしたか‥‥‥?」
ルビーが心配そうにアイトに話しかける。
「大丈夫、【コーティング】」
心配そうにしているルビーの前でアイトは右手を出し魔法を発動。
「わっ!」
するとルビーの右耳のイアリングが薄い透明な柔らかい壁のようなものに覆われた。
「これで触ってもイアリング自体に衝撃は届かない。
さあ、今のうちに外して」
「は、はいっ!」
「さすがレスタ様。多才で知的です」
(消耗品を長く使うためのこの魔法が
まさかこんな場面で役に立つなんて。
案外俺の生活円滑魔法も捨てたものじゃないな)
ルビーがイアリングを外している間にアイトはそんなことを考えていた。エリスの称賛の言葉は届いていない。
「は、外れた‥‥‥本当に外せました!!」
「お嬢様! 本当によかったでございますっ!!」
右耳から外したイアリングを右手の手のひらに乗せたルビーはセバスと共に涙を流す。アイトはそれを見て【エルジュ】の活動をたまに行うのも悪くないと感じていた。
「お二人さん、本当にありがとうございますっ!!」
「気にしなくていいわ」
「あ、とりあえずそれもらうよ」
「は、はい」
アイトはすぐにルビーからイアリングを受け取る。
付与魔法による時間制限はアイトの魔力が介入することで解除した。
「『時間制限』は消した。
さあ、後はこのイアリングをどうするか」
「被害が出ないように空に投げ飛ばしてからあえて
爆発させるのはどうですか?」
ルビーがかなり力ずくな方法を挙げたことに喉が詰まりそうになるアイトどが、エリスが見ているため必死に冷静を装った。
「‥‥‥いや、爆発の規模がわからない。
あえて爆発させるのは危険だな。
‥‥‥決めた。俺の【異空間】で預かる」
「え? あ、預かるって大丈夫なんですか?」
「何か箱にでも入れて保管すれば【異空間】に
入れても大丈夫さ。それにもしかしたら
これが役に立つ時があるかもしれない。
ルビーさん、これ俺が預かって良い?」
「もちろんと言うのは変かもしれませんが、
ぜひお願いします」
「お嬢様がそう言うなら私も賛成だ。持っていけ」
(なんで上から目線なんだセバスチャン‥‥‥)
アイトは【異空間】からイアリングのサイズに合う箱を引っ張り出して中に保管し、再び【異空間】にゆっくりと入れる。
「これで爆発の件は一件落着」
「はい。ですがまだ問題は残ってます。
アライヤ・ベネットのことです。
これからのことをじっくり話したいので
『マーズメルティ』にお二人をお連れしても
いいでしょうか」
「良いが、絶対に口を割らせるなよ」
「はい。もちろんです」
エリスが2人に説明しているのをアイトは眺める。
(用も済んだし、早くここから出ないとな)
エリスの口止め説明が終わった後。アイトたち4人は部屋の窓付近に集まっていた。
「そこの窓から飛び降りればすぐです。
ルビーさんは私が抱えますので」
「よし、じゃあ2人とも行こう」
「え、ええっ!? と、飛び降り!?」
「貴様らっ!! お嬢様にそんな危険なことを!!!」
ルビーとセバスが声を出したのはほとんど同時だった。
ルビーとセバスに今回の件は全て黙認してもらうことを条件に、今後のことについて話すため潜伏拠点『マーズメルティ』に移動することになった。
そこで窓から飛び降りることになる。発案者はエリス。
「廊下から行けば兵士に鉢合う可能性がある。
それに比べればまど安全だ。
俺とエリスは魔法で空飛べるんだから。
高い所から衝撃を殺して着地なんて余裕だ」
「だが‥‥‥はあ、仕方あるまい。お嬢様、ご辛抱を」
「それなら安心です。エリスさん、お願いします」
「任せて」
エリスが窓を開けた後にルビーをおんぶし、窓枠に足をつける。
「それではレスタ様、先に降ります」
「ああ、下で待っててくれ」
アイトの声を聞いたエリスはルビーを抱えたまま窓から落ちていく。その際にルビーの絶叫が聞こえるがアイトは苦笑いするしかなかった。
「よし、それじゃあ俺たちも行くか」
「貴様の手は借りんぞ。これくらいの高さ、余裕じゃ」
「わかったわかった。じゃあ先に行ってくれ。
その方がルビーさんも安心するだろ」
「‥‥‥ーーーる」
セバスの声は小さく、アイトには聞こえなかった。セバスはあえて聞こえないように言ったのだ。
セバスが窓枠に足をかけ、飛び降りる準備をする。脱出は順調だった。ここまでは。
「僕の婚約者候補の声がした!!」
「!?」
部屋の中に一瞬で誰かが入ってくる。アイトは飛び跳ねそうなほど驚き、入ってきた相手を見つめる。
「! 君が銀髪ツインテちゃんの仲間のレスタか!
初めまして、僕はルーク・グロッサ。
力を持つ者同士、仲良くしていこう!」
(なっ!! なんでここにルーク王子が!?)
ルーク王子とレスタが鉢合わせる。2人の組織のリーダーが初めて顔を合わせた瞬間だった。
「お、おい小僧!!」
セバスがルークの登場に同情しアイトへ声をかけると。
(こっちに来い!! 手伝ってくれ!!)
アイトはこれから動き出すであろうルークを見逃さないように正面を向き、セバスに背を向けながら右手を前後に振る。
「!!」
セバスはアイトの意思を感じ取り(?)窓から飛び降りる。
「今飛び降りた人って、婚約者候補の執事、だよね?
それに婚約者候補の本人もいないし。
え、いったい何が起きてるんだ」
「‥‥‥は」
(飛び降りた!? こっち来てって合図したのに!!)
セバスの方を見ていなかったアイトはルークの発言でセバスの飛び降りに気づく。
「‥‥‥お前のせいで逃げられた」
「あ、なるほどわかったぞ!
執事さんは君から逃げるために飛び降りたのか!
それに、エマさんはどこだ?
君、エマさんと執事さんに何をするつもりだい?」
(何もわかってねぇ!!!)
アイトがセバスに対しての愚痴をルークは違う意味で解釈。奇跡的にルークは誤解をしていたのだ。
「ま、それは君に聞けば良いっ!!」
(速いっ!?)
剣を構えて突進してくるルークを、剣を抜いて正面から迎え撃つ。
謎の組織の代表と王国最強。そんな2人の戦闘が始まるのだった。