あんた、何者よ
城門前。
(誰もいない。やっぱりあの花火が効いたな。中には警備してる人がいるから油断しないように)
城に着く前に物陰でアイトは染色魔法で髪を銀髪に変え、仮面をつける。レスタへと変装した。
そして城の中へと潜入する。
(めんどうな事が起こる前にさっさと終わらせよっ!)
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グロッサ城、2階廊下。
《エルジュ》の戦闘服を着たエリスは黒い布を巻くことで口元を隠し、走って目的地に移動していた。
バリンッ
すると廊下の窓ガラスが破れ、誰かが城内に入る。
「!! あんたが平原に魔物を出現させて城に攻めて来た侵入者ねっ!!!」
(速いっ!)
着地と同時に刀を抜いた少女が凄まじい速さで突きを放ちエリスを襲う。エリスはその突きを横に動いて避ける。
「フッ!!」
そしてその瞬間に少女が刀を横一文字に薙ぎ払う。だがエリスは壁を蹴って宙返りすることでその薙ぎ払いを華麗に回避。少女から少し距離を取って着地する。
エリスが回避行動を取ったのは少女が攻撃を繰り出すのとほぼ同時だった。
「今のを避けるなんて‥‥‥あんた、何者よ!!」
「!」
エリスは少女の顔を見て少し驚いた。
アイトの姉、マリア・ディスローグだったからだ。
「あなたは‥‥‥だがあなたといえども『ルーライト』である以上、容赦はしない」
「当たり前よ!! 手加減したら殺す!!」
直後、廊下から金属音が響き渡る。
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グロッサ城内、1階廊下。
『お兄ちゃん! 聞こえる!?』
「ミアか! どうした!」
魔結晶でミアから連絡があり、走りながら話を聞く。
『平原の人形がかなり壊されちゃった! 雑魚兵士じゃこんな短時間で壊されない! おそらく近くにあのウザい部隊の誰かいる!』
「《ルーライト》か。わかった! 連絡ありがとう。ミアたちも気をつけて!」
『は〜い♡ お兄ちゃん、今どこに』
アイトはミアの質問を聞く前に魔結晶の接続を切る。そして階段から2階に向かう。
(このままあの部屋へ向かう!)
アイトは廊下を駆け回って目的地に向かっていた。
(エリスからの連絡はまだか! このままだとこっちが先に着くぞ!)
「!!」
アイトが2階の廊下にたどり着くと、少し先で誰かが戦っていた。
「なんで、当たんないのよ!!!」
アイトは相手の刀を回避しているエリスを発見する。
「! レスタ様!!」
「よそ見すんじゃ、ないわよ!!!」
エリスが後ろを向いた途端、マリアが突きを放つがエリスは障壁魔法を貼って阻止。
(ゲッ‥‥‥姉さんじゃん。しかも、刀?)
アイトはエリスの相手に気づいてゾッとする。
「あんたが指名手配中のレスタね! あたしがあんたたち2人を捕まえる!!」
マリアはレスタがアイトだとは気づいてなかった。
マリアは目の前のエリスを飛び越えてアイトに接近する。
(うえっ、こっちに来る!! もう仕方ない。エリスに先にルビーさんを【透視】してもらわないと俺も行動できない!)
アイトは剣を抜いて飛び込んで来たマリアの刀を止める。
「先に行け!!」
「で、ですが」
「今はお前が早く行動してくれないと俺も動けない!」
「ちょっと! 何企んでるのよ! 行かせるわけないでしょ!!」
マリアが声を荒げるが、エリスは聞こえていないように頷いた。
「‥‥‥わかりました。レスタ様、先に行ってお待ちしています!」
「待てっ!! あの女、絶対逃さないっ!!!」
マリアは刀を押し込んでアイトを後方に弾くと後ろを振り向いてエリスの後を追う。
「ま、待テッ」
「きゃっ!!」
アイトはマリアの背後に回り込んで足払いをした。マリアが可愛らしい声を上げて尻餅をつく。
アイトは姉に反抗したのは初めてのことで、声が少し震えてしまったのだ。
「邪魔っ、すんなっ!!!」
「うおっ!?」
マリアは座り込んだ体勢から後転し両足でアイトめがけてドロップキックを仕掛けるも、アイトは首を傾けて回避。マリアはその勢いで跳躍しアイトから距離を取る。
「なんなのアンタ。邪魔しないでよ。それに腹立つわ。
弟と似た背格好だから余計にねっ!!」
「!? 早く、かかってコイ」
マリアの発言はアイトを動揺させるには充分すぎた。
(バレてるっ!? いやバレてないよねっ!?
姉にバレたらもう死ぬしかないっ!!
バレるまえに、さっさと倒さないと!!)
こうしてアイトは実の姉と戦うことになる。
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3階廊下。
前に誰かいるのを感じ取ったエリスは足を止める。
「何者じゃ。王城に攻めてくるなんて正気とは思えんぞ」
(誰? 普段の城内にこんな人がいるなんて情報は
なかったはず。それもこんなおじいさん)
「狙いはお嬢様か!? もしそうなら容赦はせん!!」
(! なにか飛んで来る)
エリスは愛剣を抜き出し飛んで来たものを弾こうとする。だが飛んで来た物はエリスにとって予想外のものだった。そのため少しだけ動揺し、油断を見せた。
(!? カード?)
途中からカードが不規則に動いてエリスの剣は空を切る。カードには魔法が施されており、相手の思い通りに動かせるものだった。
「!」
そしてエリスの肩を掠めたカードはやがて床に落ちた。
(トランプカード? 戦闘で使うものなの?)
カードに意識が向いていたエリスは、一瞬で迫り来る相手に気づくのが遅れた。
「くっ」
相手の正拳突きをエリスは硬化魔法をかけた腕で咄嗟にガードしたが、振り抜いた拳がエリスを後方へ吹き飛ばす。
「あっ‥‥‥」
着地と同時にエリスは思わず声を漏らす。
「覚悟せい!! お嬢様の専属執事兼ボディーガードの、
このセバス・チャンが返り討ちにしてやるわ!」
(これがセバスチャン!)
アイトの話で聞いたルビーの執事だったのだ。エリスはアイトの語り具合で強敵だと認定していたのだった。
夜は長い。これから城内は更なる混沌へと落ちていく。