『ベネット商会』会長と娘
翌朝。エマ・ベネットが城に来訪する日。
『聞いたかアイト! 怪盗ハートゥ!! 今日にでも王都に来るかもしれねぇ!』
アイトは魔結晶でギルバートと話をしていた。
「そうらしいな。でも俺たちに関係ないだろ?」
『な〜に言ってんだ! 城には入れねぇけど王都に現れたら姿を見るチャンスじゃねぇか! それに捕まえられるかもしれねぇだろ? 今日の夜に集まろうぜ! な、良いだろ!』
「悪い今日はどうしても外せない用事があって」
『なんだって!? せっかくのイベントなのによ〜! オレたちで捕まえるから期待しててくれ!』
「あうんがんばって」
ギルバートとの連絡を終えたアイトは急いで店舗『マーズメルティ』に向かうのだった。
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一方その頃、グロッサ城。
ユリアの部屋に泊まったエリスたち。
エリス、カンナ、ユリアは王の間を覗いていた。
その場にいたのはグロッサ国王、ダニエル・グロッサ。『ベネット商会』会長、アライヤ・ベネット。
そして彼の娘であり婚約者候補のエマ・ベネット(本名ルビー)。
「あれがアライヤ・ベネットですか」
アライヤは背が高く、年齢の割に若く見えた。白髪が混じった茶色の髪、顎には無精髭。そして高価なスーツを着ていた。
「う〜ん、見るからに会長って感じがするね!」
「とりあえず姿を確認できただけ良しとしましょう。なぜかアライヤの写真は出回ってませんでしたから」
「そういえばユリアちゃん! 王子はいないの?」
「お兄様は今任務中で今日の夜まで帰ってきません。それとエマさんは今日うちに泊まると思いますよ! ですから調べる機会はあると思います!」
「でも『怪盗ハートゥ』も来るかもしれないよねっ? 城の警備すごそうだなぁ、楽しみだねっ!」
「カンナ‥‥‥もう少し緊張感持ちなさい」
その後もエリスたちは情報収集に努めた。そしてアクアは。
「zzz〜む〜にゃ〜zzz」
ずっとユリアの部屋のベッドで眠っていた。アイトが気になっていた理由はこれだったのだ。ただ豪華なベッドで寝たかっただけ。
「こちらの都合で息子に会えなくて申し訳ない。今日の夜にはルークが帰ってくる。ぜひ、今夜は泊まっていてくれ」
「お言葉に甘えます。と、言いたいところなのですが私は夜にやらねばならない仕事が残っておりまして。エマだけ泊めてもらってもいいでしょうか」
「もちろんだ。アライヤ殿。だが怪盗ハートゥとかいう泥棒が近くを飛び回っているらしいが、エマさんを宿泊させてもよいのか?」
「はい。怪盗が来たとしても王国が誇る『ルーライト』の皆さんがいますから」
「そうか。ならば何も言うまい」
「それじゃあエマ、粗相のないようにな?」
「‥‥‥はい。本日はよろしくお願いいたします」
ユリアの予想通り、エマ(ルビー)の宿泊が決まった。
それから、エリスは魔眼による【透視】をルビーへ試みるも見張りがいるため近づくことはできなかった。
食事の際に少しだけ話す機会があったが情報は集まらず。その後も隙を伺いルビーに近づこうとするが全て失敗。
そして【透視】を行うことができないまま、時間が過ぎていくのだった。
夜。
ついにそれぞれの思惑が重なる時間がやって来た。
城の警備は厳重に行われていた。
怪盗の件やユリアの友達が宿泊している件、そしてルークの婚約者候補のエマ・ベネットの宿泊。
それらが重なったため、城内の警備は手厚くなっていた。
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王都付近の平原。
そこには『エルジュ』の戦闘服を着た3人がいた。
「【打ち上げ花火】」
男は右手から魔法を発動。上空にまで打ち上がった後に凄まじい爆音と火花が散った。
「さっすがお兄ちゃん♡ はあ〜キレイ♡」
「きれい。さす、レーくん」
男の近くにいた2人は花火を見て感嘆の声を上げる。
「それじゃあ作戦通りに行くぞ。ミアとリゼッタは王都内に潜入。途中までは俺も同行する。それとミア、頼んだぞ」
「は〜い♡ え〜いっ。これでいいよ。さあ行こうお兄ちゃん♡」
「レーくん、ふぁい」
「さあ、行くぞ」
王都、ローデリア。
城の兵士たちが平原から上がった爆発に騒ぎ出す。そして城の兵士の一部が平原の様子を見るために列になって王都を移動している。
「さっすがお兄ちゃん♡ 有象無象がビビり出してる♪」
「レーくん、かっく、いい」
ミアとリゼッタが兵士の多数が王都から平原へ移動しているのを見てそう言った。
「‥‥‥それじゃあここからは別行動だ。もし戦闘になれば死なないように加減しろ。それと2人とも、無理はするな」
「は〜い♡」
「りょ、かい」
アイトは城へ向かって足を進め始めた。
(ぜったいに正体だけはバレないようにっ!)
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同時刻、ユリアの部屋。
アイトの花火が部屋にいる3人に届いた。
「‥‥‥あぅ。ん〜、目、覚めた」
「来ました。レスタ様の合図です」
「まさか花火を陽動に使うとはね〜! それにミアとリゼッタも強いし安心だし、これはメリナの作戦かな? 続きが楽しみ〜!」
カンナのマシンガントークが炸裂。エリスはあまり聞いていなかった。
「すごいっ!! 入学前の魔物騒動の爆発はアイトくんの仕業だったんですね! あの時もすごくキレイでした!」
ユリアが目をキラキラさせているのを、カンナは苦笑いで見ていた。
4月の魔物討伐の際の花火はカンナのコピーによるもの。だがコピーのことはユリアに話してない。
そのためユリアがあの時の花火はアイトの仕業だと思うのも無理はなかった。
「それでは私は目的を果たしてきます。カンナとアクアはここで待機しててください」
エリスが立ち上がり、髪の染色魔法を解く。黒髪から鮮やかな金髪へと変化した。
「ラジャ〜! 何かあったら連絡する!」
「何もすることない? んぅ〜‥‥‥zzz」
「がんばってください!」
微笑んだエリスはユリアの部屋を飛び出し、ある場所に移動を始めた。
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王国付近の平原。
「うわぁぁ!! なんだコイツら!!!」
1人の兵士が絶叫し、周りの兵士も慌て出す。
暗く澱んだ魔物たちが周囲に出現していたからだ。
これはミアの呪力によって作られた人形、【クロ人形】。ミアの呪力は無尽蔵。そのため多くの人形を作り周囲の目を引くということも可能だった。
「はぁぁぁ!!!!」
だがミアの【クロ人形】の多くが1人の少女に倒される。その少女は『ルーライト』の隊服を着ていた。
「ありがとうございます!! さすが『迅雷』殿!!」
「あたしは城の様子を見てくる!! 数は減らしたから、持ち堪えて!」
そして迅雷と呼ばれた少女は、兵士たちの称賛を浴びながら城へと移動を始めた。
「もうなんで出ないのよあの人! 何かあったら報告しろって言ってるくせに! ジル副隊長やシロア、他のみんなもまだ任務中だろうし、もう!!」
魔結晶で連絡しようとするが相手からの応答がない。
『迅雷』と称されるマリア・ディスローグは、悪態をつきながら城へ向かった。