驚愕に支配されている
グロッサ城。
「お父様! こちら、わたしの友達のエリカちゃん、
カルナちゃん、アイスちゃんです!」
「そうか。ユリアが友達を連れてくるなんて
初めてのことだ。いつも娘が世話になっている。
ゆっくりしていきなさい。ただ明日は来訪があるため
あまり城内を動き回らないように頼む」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます〜!」
「‥‥‥んぁ、ございますー」
グロッサ城。エリス、カンナ、アクアの3人は潜入に成功していた。ユリアの友達として。
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話は少し遡る。
エリスはアイトの目を見つめ、考えていた案を述べる。
「私とカンナ、そしてアクアのグロッサ城への
潜入を許可してください」
「‥‥‥え、潜入?」
「はい。レスタ様が戻ってくるまでの間に
話し合って決めました」
「‥‥‥そうか」
アイトは空返事しかできなかった。意識の全てが驚愕に支配されているからだ。それは潜入自体に驚いているわけではない。驚いている理由は。
(アクアが城への潜入に立候補した!? ハアッ!?)
めんどくさがり、行動力0どころかマイナスであるアクアが潜入に乗り気という事実に、鈍器で頭を殴られたかのようなショックを受け続けていた。
「zzz‥‥‥」
(話し合いの今も寝てるアクアが!? なんでっ!?)
全てを投げ出してでもなぜ立候補したか聞きたい衝動に駆られるアイトだが今はそんな状況じゃない。
「潜入してもよろしいでしょうか」
「ん!? あ、ああ。エリスがそう思うならいいよ」
正直アイトは自分の出番が無いならエリスたちの基本どんな行動でも制限はかけない。
「ありがとうございます。必ず成果を上げます」
「でも、カンナが潜入するのは大丈夫?
たしか王子に顔見られたんだろ?」
「ま、そうなんだけど染色魔法で髪色を変えて
メガネでもかけたら大丈夫でしょ! ダイジョブ!」
カンナはなんの根拠もないことを自信満々にダブルピースしながら言った。
「確かにそのことは不安ではあるのですが、
カンナの【無色眼】は必ず役に立ちます。
それと城内で情報収集をすると踏まえ、
明るい性格と会話能力が重要だと思いました。
それにカンナのやる気が凄まじいので」
(絶対最後の部分が決定の理由だろ)
「だって〜城への潜入なんて絶対面白いじゃん!」
「「「‥‥‥」」」
「♡♡‥‥‥」
「zzz‥‥‥」
カンナの予想通りの発言にアイトたちは絶句する。未だにトリップし続けている少女や寝ている少女もいるが。
「それじゃあどうやって潜入するんだ?
使用人の振りをして忍び込むとか?
さすがに誰にもバレずにルビーさんの
イアリングを調べるのは不可能だろ」
「それは‥‥‥今考え中です。
できれば正面から堂々と潜入したいのですが」
「はいはいっ! それなら良い案があるよっ!
ユリアちゃんの友達としてお城に
泊まることにするのはどう!?」
「‥‥‥確かに、それなら堂々と参入できるし
話も聞きやすいはず。それに多少の行動にも
目を瞑ってくれるだろうしな」
「カンナ、すごい、あん」
「ナイスアイデアです」
「えへへ〜、それほどでも、ある!」
ドヤ顔ピースをしたカンナの提案はみんなが納得するものだった。
そしてこの後、アイトはユリアに連絡を取る。ユリアは王族であるため自前の魔結晶を持っているのだ。
『え!! アクアさんとカンナさんの他にもお仲間を
紹介してくれるんですか!!
ぜひ城へ潜入してくださいっ!!
アイトくんたちの活動の手助けしたいですっ!』
アイトが用件を伝えるとユリアは即了承。夕方近くになってるのにも関わらずエリスたちは城に泊めてくれることになったのだ。
こうしてエリスたちは無事に城に潜入できた。
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「ここがわたしの部屋です! 入ってください!」
エリスたちはユリアの部屋に入る。とてつもなく広く、可愛らしい部屋のデザインだった。
「初めまして! ユリア・グロッサです!
アイトくんから話は聞いてます!
よろしくお願いします!」
エリスがカンナとアクアの方を見る。カンナは頷き、アクアはボ〜っとしていた。
「エリスです。よろしくお願いします」
「エリスさんですね!
さっきアイトくんから話を聞きましたよ!」
「!! ど、どんな話をしてました? どんな」
エリスにとって興味しかなかったが表面上は冷静な様子で聞こうと取り繕った。だがカンナから見ると興味津々なのは完全にバレていた。
「代表代理で、頼りになるって言ってましたよ!
後々はエリスさんに代表を任せたいと!」
アイトは潜入の件を話した時に、ユリアからエリスがどんな人物かしつこく聞かれたため話していた。そして最後の言葉は話すうちに自然と出たアイトの本音だった。
「!!!! そ、そうですか‥‥‥そうですか(///)」
そしてアイトの言葉はエリスに突き刺さった。最近聞いていなかったアイトからの褒め言葉。
普段はクールで完璧超人、勇者の末裔であるエリスが歓喜で表情をコントロールできなかったのだ。
「あ! エリスがそんなにニヤけるの初めて見た〜!
いつもはクールの完璧さんなのに新鮮〜!」
「‥‥‥(ジィ〜)」
アクアもエリスの反応が珍しいと思ったのか、ガン見していた。
「ば、バカ。そんなことないわよ」
「焦ると敬語じゃなくなるんだ! へぇ〜!!」
「‥‥‥(ジィ〜)」
「‥‥‥コホン、話を変えましょう。
ユリアさん、今回の件ですが」
「もちろん誰にも言いませんよ!
でも、お兄様の婚約者候補さんの調査ですか」
「? 他に何かあると思ったの?」
カンナが質問するとユリアが目をパチパチさせて答えた。
「はい。てっきり怪盗の件だと」
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アイトの自室。
『代表! 今話せる!?』
魔結晶から聞こえた声はメリナだった。
「メリナ? どうした?」
『さっき、怪盗ハートゥが王国内で飛び回ってるのを
見たって! 今、王都で話題になってる!』
「なんだって? 『怪盗ハートゥ』が!?」
『怪盗ハートゥ』。世界を飛び回る怪盗で、狙ったものは逃さないと言われる凄腕の怪盗。知らない者はいないほどの有名な怪盗。世間に疎いアイトでも知ってるほどの有名人。
(何かを盗む際は少し前に目的地の辺りを飛び回り、
その後に予告状を出す。意味不明なやつだ)
『近日中に予告状が出るかも』
「もしかしたら、明日の可能性もあるってことか」
『うん。今、エリスたちが城に潜入中だったよね?
大丈夫かな? 代表、どうするか明日の朝に
話し合わない? 明日から夏休みで何もないし』
「‥‥‥わかった。翌朝、『マーズメルティ』に行く」
『了解。それじゃあ代表、また明日。おやすみ』
「おやすみ‥‥‥」
メリナとの通信が切れる。
(なんで怪盗ハートゥがこのタイミングで!?
まさか明日、城に入る気じゃないだろうな!?
エリスたちはもう城内に潜入してるんだぞ!)
予想外の第三者の登場により、明日への不安が募っていくのだった。
そして事態はさらなる混乱へと移っていくことになる。