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‥‥‥おい

 「お二人様いらっしゃいました〜!」


 エリスが声を出しながら中に入る。


 「いらっしゃいませ〜! ‥‥‥あり?」


 「は??????」


 「いらっ、しゃ?」


 「zzz〜」


 マーズメルティの店内。カンナたちがエリスの後から入って来たアイトとルビーを見て驚いている。その中には驚きではなく殺意を持つ人や興味なさそうな人もいたが。


 「‥‥‥(ジィ〜)」


 「あ! そういうこと」


 エリスにじっと見つめられたカンナはエリスの意図に気付いた。


 「お客様! 何をお探しでしょう!」


 「え、ええとっ、化粧品を」


 「わかりました! ご案内いたします!

  彼氏さん(笑)の方はどうされますか?」


 「あ、あの」


 カンナの質問にルビーが狼狽える。あまり見られたくないのだろうとアイトは感じた。


 「彼女が選び終わるまで待ってます」


 「そうですか〜! こちらで待っていてください〜!」


 「こち」


 「は、はい」


 カンナはルビーを連れて化粧品を探しに、リゼッタはアイトを引っ張ってルビーに声が聞こえない距離まで移動させた。そして椅子を持って来て強引に座らせる。


 「レーくん、ここで、まて」


 (犬か?)


 リゼッタはルビーを接客をしに向かう。というよりこれからの恐怖をリゼッタ自身が感じたくなかっただけだった。


 「zzz〜」


 アクアは3個並べられた椅子の上で寝ている。心底、働けよとアイトは感じていた。


 「お兄ちゃ〜〜〜ん?」


 「うおっ!」


 (ミア!? いつの間に!)


 アイトの背中にミアが抱き着く。アイトに気づかれないほど上手く気配を殺して近づいたミア。


 「‥‥‥あの女なに? 殺す? ねえ殺していい??

  いや殺しちゃうと苦痛を味わえないか。

  まず指先から少しずつ呪いを浸透させていけば」


 (こっわっ!!!!)


 アイトの背中に抱きついてるミアの目は黒く澄んでいた。まるで呪力が目にまで浸透しているかのよう。全く輝きが無い。


 「やめとけミア。あの人はさっき会ったばかりの他人だ」


 アイトは恐怖を抑えて平然と話すふりをする。


 「じゃあなんなの!? どんな関係!?」


 「この店への道を教えてくれって頼まれて連れて来た。

  一緒に入ったのはエリスがそう言ったからだ。

  俺に何か伝えたいことがあったんだろう」


 (そのエリスはルビーさんとカンナと化粧品を見て

  談笑しているが)


 「‥‥‥それならあの女は関係ないってこと?」


 「まったく」


 「‥‥‥なら良い。それならお兄ちゃんに

  そんなふざけた指示を出した

  あの金髪女を後で殺せばいいだけ」


 「おい、ミア?」


 「前々から鬱陶しいと思ってたんだ〜。

  やっぱりさっさと消しておくべきだった」


 ミアは小さな声で独り言を呟く。


 「‥‥‥おい」


 「え? なにお兄ちゃん♡」


 「‥‥‥何を言っているんだ」


 「!!! ひゃ‥‥‥!」


 「‥‥‥んぁ!? ぅあっ」


 ミアがその場に崩れ落ちる。椅子に座ったアイトが尻餅をついたミアを鋭い目で見下ろす。


 普段穏やかなアイトが放った凄まじい殺気に恐怖したのだ。その恐怖はアクアまでも目を覚ますほどだった。


 滅多に怒らないアイトの数少ない逆鱗の1つはエリスを傷つけられること。


 長年自分に付き添ってくれた彼女を傷つければそれが例えどんな相手だろうと許さない。例えそれが仲間であっても。


 ミアは仲間のエリスに攻撃なんてしない。口だけだとわかっていても発言自体が気にくわなかったのだ。


 「ご、ごめんなさいお兄ちゃん‥‥‥」


 「わかったらいいんだ。仲間なんだから、大切にな」


 「う、うん!」


 ミアの謝罪を聞いてアイトは普段の様子に戻る。


 「ふぅ‥‥‥zzz」


 アクアはその直後に寝始める。アイトの殺気が消えた直後に寝始める厳禁なアクアである。


 「で、でも‥‥‥さっきのお兄ちゃんも

  すごくカッコよかったあ♡ でへ、えへへへ♡」


 「レスタ様」


 ミアがトリップし始めた途端にアイトに話しかけたのはエリス。


 「どうした?」


 「この後店を出てルビーさんと別れたら、

  また店に戻って来てくれませんか?

  レスタ様に話したいことがあります」


 「わかった。それじゃあまた後で」


 「アイトさん、無事に買い終わりました」


 ルビーは右手に商品を入れた袋を持っている。


 「それじゃあ行くか」


 「ありがとうございました〜!!」


 カンナの声を背中に浴びながらアイトたちは店を出た。





 「アイトさん、ありがとうございました」


 「まあ、成り行きだし」


 アイトたちはマーズメルティを出て王都を歩く。


 「ふ〜んふふ〜ん♪」


 (鼻歌だ。さっき会った時より元気そう)


 「‥‥‥あ! すいません、つい」


 「いや気にしなくていいよ。さっきの鼻歌って、

  この国の国歌だよね? すごく上手かった」


 「そ、そうですか‥‥‥ありがとうございます」


 初めてルビーが微笑むのを見たアイトはぎこちなくなりながらも話題を変えた。


 「それで、どこにーー」


 「お嬢様〜!!!」


 アイトが何か言おうとした途端に馬車がやって来る。


 (馬車で来るとは、この子、お嬢様だったのか)


 「セバス!」


 「お嬢様、探しましたぞ!! 心配で心配で!!!

  1人で王都を歩くのは危険でございますぞ!!」


 「‥‥‥申し訳、ありません」


 「無事で何よりです。さあ向かいましょう!

  ‥‥‥お嬢様、その少年は?」


 「! 彼は何も関係ありません。

  道に迷ってる私を助けてくれたただ親切な方です」


 「そうでございますか。私の名前はセバス・チャン。

  少年、お嬢様を助けてもらい感謝する。

  後で何か礼をしたい、名前を教えてもらっても?」


 「いえ結構です。お気持ちだけで」


 アイトはこれ以上接触して何か起きるのを防ぐべく断った。


 (セバス・チャン!? え、マジで!?

  まるっきりセバスチャンじゃん!)


 それにアイトはしょうもない考えで頭がいっぱいだった。


 「感謝する。それではお嬢様、参りましょう」


 「は、はい。アイトさん」


 ルビーはアイトを目を合わせる。


 「本当に、ありがとうございました。

  もっとお話ししていたかった。

  できれば、少しでも前にあなたに会えていれば‥‥‥」


 「え?」


 ルビーはアイトにしか聞こえない声でそう言った。アイトは聞き間違いかと思い声を漏らす。


 「‥‥‥ありがとうございました!

  このご恩は必ず忘れません! 絶対に忘れません!」


 「別に生きてる限りまたいつか会えるさ!

  あ、せっかくだし次会った時に歌を聞かせて!」


 「! はいっ‥‥‥そうですね!」


 ルビーがアイトに一礼した後に馬車に乗る。そして馬車が動き出す際もルビーはアイトの方を見ていた。嬉しそうで、悲しそうな顔。


 その表情はアイトには見えないのだった。





 「レスタ様。お帰りなさいませ。さっそくお話が」


 「ああ」


 アイトはエリスの忠告通り潜伏拠点、マーズメルティに戻った。


 店も閉店しており、カンナたちは椅子に座っている。


 アイトが椅子に座ったと同時にエリスは話し出す。




    「レスタ様がお連れしたルビーという方、

     間違いなく、エマ・ベネットです」



           「‥‥‥ん?」



 「さすがです。あの女性をエマ・ベネットだと見抜き、

  情報収集のためにここに呼んできてくれるなんて。

  レスタ様のお手を煩わせずに私たちが見つけようと

  思って写真を見せなかったのですが、

  それでも見つけ出してくれました。

  さすが私の、いえ私たちの代表です」


 「‥‥‥ん??」


 (話題のエマ・ベネットだって!?)


 もちろんアイトは狙って連れてきたわけではない。


 「‥‥‥それで、何かわかったか?」


 アイトは驚きを隠しつつ話しかける。


 「詳しいことはわからなかったのですが、

  違和感がありました」


 「違和感?」


 「はい。それは化粧品です。

  話を聞いてみると化粧品を買うのは初めて。

  令嬢のルビーさんが自前の化粧品を

  今まで持ってなかったのは不自然です」


 「! たしかにそうだな」


 ルビー(エマ・ベネット)が化粧をしていなかったことをアイトは思い出す。


 「それに、ルビーさんがつけていたイアリング。

  明らかに魔力の痕跡がありました。

  何らかの細工をされているのは間違いないかと」


 「‥‥‥あ、違和感の正体はそれか」


 アイトはルビーに会った途端に変な魔力の気配を感じて少し警戒した。アイトは魔法制御力が凄まじいため、何かから漏れ出る魔力の気配に敏感になっていた。


 「そして1番の違和感は、名前です」


 「名前?」


 「確認したところ、ルビーの方が彼女の本名でした」


 「ルビーの方が、本名?」


 (勇者の魔眼で確認したなら間違いない。

  でも、ルビーの方が本名ってことは)


 「ルビーさんは、養子なのか?」


 「その可能性が高いと思います。

  ですが彼女本人から聞いたわけではありません。

  私たちの思い過ごしかもしれません。

  でも、それにしては違和感が残ります」


 「確かに思い過ごしだったとしても、

  イアリングの魔力反応は気になるな」


 「はい。それにもし王族が関わる今回の訪問で何かあれば

  王国に危機が訪れる可能性があります。

  そこでレスタ様にお願いがあります」


 「お願い?」


 「はい」


 エリスは続きを話す。そのお願いというものは、アイトにとって頭を抱えることに繋がるものだった。


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