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観光、楽しんで

 「王子の婚約者候補、か」


 アイトは落ち着いた様子で声を出すが、内心はこうである。


 (ごめん全く知らない)


 そんなことに気付くはずもなく、エリスは詳しく話し始めた。


 「『ベネット商会』の会長、アライヤ・ベネット。その娘でルーク王子の婚約者候補、エマ・ベネットが王国に訪れます」


 「王国内トップ、ベネット商会の会長の令嬢。王子の婚約相手として不足はないな」


 「‥‥‥すぐに我が『メルティ商会』がベネット商会を追い抜かすのでご心配なく」


 (いや聞いてないけど!?)


 エリスは一部分を強調して言う。アイトはエリスが負けず嫌いだったことをふと思い出した。


 エリスはアイトが褒めたベネット商会に嫉妬し、褒められたいという理由だけで絶対に超えることを以前よりも強く決意した。


 もちろんアイトはそんなエリスの真意を全く知らない。




 翌日。


 「っしゃあ!! ついに週明けから夏休みだぜ!!」


 「無事に全員補習はなし。よかったわ」


 「本当に良かったです!」


 ギルバート、クラリッサ、ポーラは夏休みの到来を喜ぶ。アイトも昨日の話を聞くまでは素直に喜べた。


 (婚約者候補が来るからってわざわざ5日も空けるか? 何か引っかかる。なんでだ‥‥‥うん、わからない! それはエリスたちに任せよう)


 アイトは分からないことを考えることを放棄して、事実として存在する事柄に意識を向ける。


 「そうだなあ!! 良かった良かったあ!!!」


 そう、大半の学生が待ち望む夏休みに。


 (明日から平穏な生活が待ってるんだ!!

  余計なことには首を突っ込むのやめる!!!)


 「あ、アイトがそんなにテンション高いの珍しいわね」


 クラリッサにドン引きされていることに気づかず、明日から何をしようか考えるアイトだった。




 城下町。


 ギルバート、クラリッサ、ポーラは放課後に用事があるということでアイトは1人で歩いていた。


 シロアは任務中のため学園にはいないためトレーニングは無し。時間が余って手持ち無沙汰だった。


 アイトは優雅に城下町巡りを楽しんでいると。


 「ん? なんだ」


 男2人に言い寄られている少女を発見した。水色の髪をした少し小柄な少女。


 (これは見過ごせないけど俺が助けに行って

  周囲に目立つと後々厄介だ。俺のすべきことは‥‥‥)


 アイトは気配を殺しながら3人との距離をできるだけ詰める。そしてかなり近い距離になると右手を前に出す。


 「グァ!?」

 「ウェ!!」


 その直後に凄まじい轟音がした後、2人が頭を抱えてフラフラと動きやがて倒れた。


 アイトは即座に忍び足で離れた。





 (ミッション・コンプリート。無事バレずに済んだ)


 アイトは再び城下町を歩きはじめてしばらく時間が過ぎた後。


 (あ、さっきの子だ)


 少女が周囲を確認しながらウロチョロしていた。


 (もしかして城下町に来るのは初めてなのか?

  そりゃ驚きで辺りを見渡すだろうな。観光、楽しんで)


 アイトは声をかけることなく歩き出した。





 「ふぅ〜」


 アイトは買ったドリンクを店の壁にもたれながら飲んでいた。


 (買いたいものは買ったし、これ飲んだら帰るか)


 「!?」


 「あ、あの」


 アイトは声がした方を向く。だが向いたのは声が聞こえたからではなかった。


 (なんだ? この嫌な感じ‥‥‥あ、さっきの子。

  もしかしてこの子から出ているのか?)


 さっき見かけた少女だった。両手でスカートをギュッとしながらアイトを見つめている。アイトは少し警戒を強めた。


 「何か?」


 「あ、あの‥‥‥『マーズメルティ』というお店、

  知ってますか?」


 「!?」


 (な、なんでそんなことを俺に聞く。

  まさか、エリスたちの潜伏拠点だとバレてる!?)


 「‥‥‥知ってるけど」


 低めの声で冷静に返事をする。


 「で、では私を店まで案内してくれませんか?

  すっごく方向音痴で、今どこにいるかも‥‥‥」


 「‥‥‥何のためにあの店に?」


 逆にこの聞き方をする方が怪しいとアイトは気づいていない。だが幸い少女も不審に思わなかった。


 「化粧品を買いたいんです。お願いします‥‥‥」


 「なんだ! それならOK! 案内するよ!」


 「! あ、ありがとうございます」


 『エルジュ』を探ろうとしていたわけではないとわかったアイトは了承した。少女の立ち振る舞いや話し方、声のトーンなどで嘘を言ってないと判断した。


 そして嫌な気配も気のせいだと結論づけた。


 「今日だけはすっごく運がいいです。

  怖い人たちが急に声をかけてきましたし、

  何かの罰なのかその人たちが急に倒れましたし、

  ですがこうして親切なあなたに会えました」


 「そ、そう。俺はアイト・ディスローグ。君は?」


 倒れたのは完全に自分のせいなのだがもちろんそれを言うつもりはない。


 「ルビーです」


 (ルビー!? 良い名前だッッ!!)


 アイトは宝石マニアの性として心の中で反応してしまうがすぐに冷静になった。


 「る、ルビーさんね。それじゃあついてきて」


 「は、はい」





 「ここが、『マーズメルティ』」


 「ここが‥‥‥」


 アイトとルビーは『マーズメルティ』に到着した。


 「それじゃあルビーさん、俺はこれで」


 「あ、あの!」


 アイトが帰ろうとするとルビーに呼び止められる。


 「どうしたの?」


 「アイトさんも一緒に入ってくれませんか‥‥‥?」


 「え、でもここは男子禁制で」


 「ここにカップル御用達と書いてます。

  カップルとしてなら男性も入れると思います」


 (そういえばエリスが利用者は女性だけどカップルも

  来るって言ってたな。男だけで入るのがダメなのか。

  ん〜、でもなあ。エリスたちが中にいるんだよなあ)


 エリスたちの前にカップルとして入ってくことに抵抗が強いアイト。変な誤解をされると厄介なことしか起きないと判断した。


 「ごめん。中には入れないけど店の前で待つくらいなら」


 「‥‥‥そうですよね。無理を言ってすみませんでした。

  不躾と自覚してますが、店の前で待ってもらうことは

  できますか?」


 「それなら全然いいよ。待ってる」


 「本当にすみません。よろしくお願いします」


 ルビーが扉を開けようとする。


 「失礼ですがお客様。お二人は恋人でごさいますか?」


 突然聞こえた声の方を向くアイトとルビー。


 「んぅ!?」


 「え、あ、あの」


 2人に話しかけたのはメガネを付けてスーツを着た金髪ポニテの女性。ものすごく大人びていて周囲の人たちもその美貌に見惚れていた。


 だがアイトは決して見惚れていたわけではなく別の理由で驚き、ガン見していた。


 (エリス!? 店の外にいたのか!!

  それにエリスから話を振ってきたということは‥‥‥)


 「はい。そうです」


 「あ、アイトさん?」


 「承知いたしました。それではご案内します。こちらへ」


 エリスが扉を開けて中へと誘う。


 「あ、アイトさん」


 ルビーが小声でアイトに話しかける。


 「向こうから言われたなら仕方ない。行こう」


 「ありがとうございます、アイトさん」


 (エリスがわざわざ芝居をしてまで呼ぼうとしたんだ。

  何か理由があるはず。だから無視できない‥‥‥)


 アイトとルビーはエリスに誘われて店内に入るのだった。


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