記録 精鋭部隊《黄昏》No.5、『脳筋』カイル
これはエルジュ戦力序列第5位、精鋭部隊《黄昏》に所属したカイルの訓練生時代について記した記録である。
カイルは竜人族の両親から生まれた竜人で皮膚が硬く耐久力がある。それに加えて本人の特異体質(魔力が全身を覆い続けるもの)により魔法耐性も異常に高い。
つまり物理と魔法において、高い耐性が備わっているのだ。
単純に強いから戦術を考えることもなくひたすら突っ込む。それを繰り返してきた。
性格は豪胆で能天気。思ったことがすぐ口に出てしまうが裏表のない性格から訓練生の中では慕われていた。
そんな彼が挑んだ試験の最終項目、ミアと同様に魔法が使えないため、特別ルールが設けられた上でのラルド教官との実戦。
訓練場。
「カイル、準備はいいか?」
「ああ! いつでもいいぜ!!」
ラルドが訓練用短剣を構えると同時にカイルは拳を握り締める。
2人は全く動かない。お互い、相手の出方を伺っている。
「しゃらくせぇ!!!」
‥‥‥わけではなかった。カイルはすぐに突進し、ラルドに迫る。
(はやい!!)
ラルドは頭を逸らすことで縦拳を回避、というより咄嗟に頭を逸らすことしかできなかったのだ。
ラルドが左手でカイルの伸び切った右手首を掴み、右手のナイフを振り抜く。
「あぶなっ!!」
カイルは強引に拘束を振り解き、その勢いのまま繰り出した回し蹴りがラルドに直撃ーー
「マジかっ!!」
しなかった。ラルドは咄嗟に短剣を頭上に投げ、カイルの右足を右手で受け止めて脇に挟む。
そして落ちてきた短剣を左手で掴み、カイルの右足にぶつけた。
「これでお前の右足はつかえな」
「ッラァァ!!!」
残った左足で床を蹴るようにして跳躍し、右拳をラルドの顔に振り抜く。
「ぐっ!!」
ラルドが後ろに吹き飛ぶ。カイルの攻撃が直撃したのだ。だが殴った時のカイルの体勢が不十分だったのか、勝負が決まったわけではなかった。
「やべぇな、片足でラルドに勝てってか!」
「はあ、はあ、そういう、ことだ」
カイルの一撃を受けたラルドが呼吸を乱しながら短剣を構え直す。
カイルは右足を折り曲げて左足で立つ。
「こりゃあまいったな。
でも負けるわけにはいかねえんだ」
バチンッ。
左足に【血液凝固】発動の合図。ラルドは警戒を強める。
気づけば、ラルドの背後にカイルがいた。
「俺の勝ちだ!!」
ラルドが、何も言わずにその場に倒れる。
カイルは目にも止まらぬ速さで突進し、すれ違いざまに鳩尾に左フックを叩き込んだのだ。
ラルドには、全く見えなかった。
「お〜い、早く起きてくれ〜」
カイルは気絶したラルドの前にしゃがみ込み、頬を叩く。
「起こす強さじゃないぞっ!!」
激しく頬を叩かれたラルドがすぐに目を覚ます。
「え? 結構弱くしたつもりだけどな」
「‥‥‥もういい。これにて、試験は終了だ」
「おい! 何点だ! 俺何点だ!
あの女に勝ってんのか!? どうなんだ!?」
腹を手で押さえてフラフラと動くラルドに、カイルの声が聞こえていなかった。
「おいぃぃぃ!!!!」
カイルが知りたかった答えは、数日後に知ることになる。
後に知らされた実戦の点数は192点(特別ルールにより元の点数の2倍)。
身体能力、【血液凝固】の熟練度は文句なし、ラルドにも勝利したが、不利になる攻撃を受けたこと、あとはもう少し考えて動く必要があるという点から少し減点された。
数日後、カイルは序列5位に選出され、《黄昏》への所属を果たす。
ただ純粋な『強さ』を、カイルは求め続ける。
以上が、訓練生時代のカイルの記録である。