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記録 精鋭部隊《黄昏》No.7、『瞬殺』オリバー

 これはエルジュ戦力序列第7位、精鋭部隊《黄昏トワイライト》に所属したオリバーの訓練生時代について記した記録である。



 オリバーは常に冷静で判断能力に優れる。誰とでも会話を繋げることができ、交友関係もかなり広い。魔法は苦手だがその他の分野で苦手なものは無く、何より銃撃の扱いはトップ。


 狙撃で右に出るものはいない。


 そんな彼が挑んだ試験の最終項目、ラルド教官との実戦。



 訓練場。


 「準備はいいか」


 ラルドが訓練用短剣を手に取り、オリバーに忠告する。


 「はい。大丈夫です」


 オリバーは右手に拳銃、左手にナイフを構える。どちらも訓練用の殺傷力がない代物。拳銃に込められる弾数は6発。


 「訓練用の拳銃は実物に比べて速度が相当落ちる。

  もちろんそれは加味するが、本当に使うのか」


 「はい。それが僕の武器ですから」


 その発言に全く迷いがない。試験前でこの落ち着き様。ラルドは感心した。


 「そうか。ならば止めまい。それでは、始める」


 ラルドが短剣を構えると同時にオリバーも拳銃の照準を定める。


 (訓練用の拳銃だとこの距離で教官には当たらない)


 暗殺技術はもちろん近接戦闘においてもエルジュ有数の実力者。


 ラルドもオリバーの銃の扱いは把握している。


 だからこそ、オリバーがナイフで接近してくるのは予想外だった。


 「っ!」


 声もなくオリバーがナイフを振るがラルドには当たらない。予想外とはいっても回避できないわけではなかった。


 ナイフを振ったことで伸びたオリバーの左腕をラルドは掴む。


 だがその瞬間にオリバーが拳銃を発砲。音と共に銃弾が床に反射する。


 ラルドは咄嗟にオリバーの腕を離して半歩下がったのだ。


 (今のを避けるか!)


 すかさずオリバーは拳銃を構えるがラルドの足払いが命中する。床に転んだ瞬間にナイフを振り下ろすラルド。


 発砲音が聞こえ、咄嗟に顔を逸らすラルド。頬を銃弾が掠めた直後、ラルドのナイフがオリバーの首元に置かれていた。


 オリバーも同時にナイフを仕掛けたがオリバーの肩に留まっていた。


 「参り、ました」


 オリバーの降参の声と共に、ラルドはナイフを首元から離す。


 「上達したな。近接戦闘でここまでできれば上出来だ」


 「僕の主な役割は戦闘ではないですしね」


 ラルドは見過ごさなかった。涼しい顔をしているオリバーの拳がギュッと握り締めているのを。


 「これからも鍛錬を怠るな」


 それを指摘するのは野暮である。ラルドは訓練場から出ていった。


 「‥‥‥クソッ! もっと強くならなければ、

  レスタさんと、エリスさんの足手まといになる。

  それだけは、死んでも嫌だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 オリバーはグロッサ王国領に領土を持つ有名貴族の息子だった。ただし妾の子。正妻からは差別され冷遇され、そんな生活がオリバーは嫌だった。


 そして実の母が病で死んだオリバーは居場所が無くなった。彼自身も父の元で生活したいとは思っていなかった。


 オリバーは家出したのだ。だが世間を知らない少年が自立できるほど王国での暮らしは甘くない。そして家名を捨てた。


 それどころか山賊に捕まり、人身売買の対象になりかけた。


 だが、そんな山賊連中を皆殺しにしたのがまだ幼いエリスだった。アイトの元から離れて半年後である。


 山賊が次々に殺されていく様子を見ていたオリバー。感じていたのはただ一つ。


 (なんて、強くて美しい人なんだ)


 一目惚れと言っていい。そして命の恩人ということもあってか、エリスを憧れの対象として見るようになった。


 その後、オリバーは去ろうとするエリスに頭を下げる。いっしょに連れて行ってくれと。自分に出来ることならなんでもすると。


 ちょうどエルジュの立ち上げで人材確保にも手を入れていたエリスはオリバーを連れてルーンアサイドの本拠地へと帰る。



 「ラルドさん。人身売買を行う山賊たちを始末。

  それと人質になっていた少年を連れてきました。

  どうやら身寄りがなく、仲間になりたいと」




 「うむ。ご苦労だった」


 エリスは歩き出し、中へ入っていく。残ったのはオリバーとラルドの2人のみ。

 

 「少年。我らは保護団体ではない。

  役に立たぬ者を召し抱えるつもりはない」


 「なんでもします」


 「自身の手を汚すことになっても、よいのか」


 「構いません。さっきの人の役に立てるのなら」


 「エリスのことか? 別に恩を感じる必要は」


 「もちろん恩は感じています。

  でも、あの人に心を強く打たれました。

  僕もあんな人のようになりたい。それだけです」


 そう言ったオリバーの目はひたすらに真っ直ぐだった。


 「‥‥‥わかった。それではついて参れ」


 「はい!」


 こうして1年前、オリバーは訓練生となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 のちに知らされた実戦の点数は65点。


 最後の銃弾は実弾なら当たっていたかもしれない、倒れた体勢での高精度の銃撃。


 数日後、オリバーは序列7位に選出され、《黄昏トワイライト》への所属を果たす。


    彼の銃に多くの者が助けられることになる。



    以上が、訓練生時代のオリバーの記録である。

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