幕間 メリナの定期報告
『ギルド連携魔物討伐体験』から5日後の夕方。
学園を出たメリナはエルジュの本部へ移動。レスタ(アイト)の他には《黄昏》とラルド教官しか許可なしに入ることが許されない幹部会議室。
エルジュの精鋭部隊《黄昏》No.10、メリナは扉を開く。
「ごめんお待たせ」
「いえ、メリナは学園の授業がありますから。
それに私も今来たばかりなので」
そう言ったのは同じく《黄昏》No.1、エリス。
「それじゃあさっそく報告する」
メリナはエリスの隣の椅子に腰を下ろす。
これはメリナが学園でのレスタ(アイト)の様子や学園の様子をエリスに報告する定期連絡。エリスはアイトに『代表代理』の地位を与えられたため、責務を果たすための一環だった。
「魔物討伐訓練に生じた魔族3匹の討伐。
下級魔族2体は事実通りアクアとカイルが
潜入中のギルド内で評価され、
2人ともD級からC級冒険者になったよ」
「それは朗報ですね。
上級魔族は? どうなりました?」
「それが‥‥‥《ルーライト》隊員、シロア・クロートの
単独討伐と認められ、学園で表彰されたよ」
「‥‥‥レスタ様は隠したのですね。
あの方にとっては、上級魔族討伐も
些細なことなんでしょうね」
「すごいことだと思ってないんだろう。代表らしいよ」
メリナがやれやれと言った感じで手を振る。アイトはただ目立ちたくないという理由でシロアに頼んだことを当然この2人は知らない。
「その後の学園の様子はどうですか?」
「特にこれといって気になることはないかな」
これで報告は終わり‥‥‥となならないことを次の発言でメリナは確信する。
「‥‥‥レスタ様の周りにも、何もないと?」
(‥‥‥エリス、それ私情だよね?)
メリナはそう感じたが、質問に答える。
「魔物討伐体験以降、代表と交流を持つ人が
増えたことくらいかな。2人。
1年Dクラスのギルバート・カルス、
クラリッサ・リーセル、ポーラ・ベル。
あとは3年Aクラス、シロア・クロートだね」
「くわしく」
エリスが前のめりに聞いてくるため、メリナは苦笑いを浮かべて話を続ける。
「先に挙げた3人はまあクラス内の友達みたいな感じ」
「そうですか」
「シロア・クロートは‥‥‥まあ、仲良さそう」
「‥‥‥どういうことですか?
知ってること全部話してください?」
(代表のことは逐一どんなことでも聞いてくる‥‥‥
まるで最重要案件が発生してるかのように)
勢いのあまり椅子から立ち上がったエリスにメリナは少し身を引く。
「ええと、あの」
「はやく」
エリスはどんどん前のめり、対してメリナは後退する。
「まず、代表と一緒に教室のど真ん中で姿を消したと
いう情報が‥‥‥ありまして」
「‥‥‥なん、ですって???」
エリスの圧に思わず敬語になってしまうメリナ。
「それと、定期的に放課後は2人で歩いていく姿が
目撃されてる‥‥‥ていうか、じ、実際に見ました」
「‥‥‥」
エリスの両目が輝き出す。瞳に刻まれている勇者の聖痕が明滅している。心なしか周囲に風圧を感じていた。
「お、落ち着け!! いや落ち着けって変だけど!?」
「‥‥‥落ち着いてますよ? 私はいつも冷静です」
(普段のエリスは自分のこと冷静って絶対言わない!)
空気が徐々に重苦しくなるのが耐えられず、メリナは必死に口を開く。
「代表が色恋にうつつを抜かしてると思ってるの!?」
「‥‥‥私はそんなこと何も言ってませんが?
メリナから見て、2人の様子がそう見えると??」
(しまったぁぁ!? 私としたことが墓穴をっ!?)
必死に、必死に沈黙を起こさないように粘る。
「いやいや! 実際に見た私の意見としては、
シロア・クロートから《ルーライト》の情報を
収集しようとしているんだと思う!!
そのためにちょっと距離感を近いんじゃない!?」
「‥‥‥レスタ様が、そんな雑な演技をしていると?」
(マジでめんどくさいなっ!?
誰かこの女を説得してくれぇ!!
私には手に余る!! 本当に余る!!)
普段の大人びた雰囲気が完全に剥がれてしまうメリナ。エルジュの中でも頭脳戦なら右に出る者がいない彼女ですら、エリスの追及から逃れることはできない。
(でも代表の真意が本当にわからないんだよな。
学園の様子を見ると本当に仲のいい先輩後輩として
交流してるようにしか見えないし)
それが本人の真意(そもそも策略なんてない)と言うことに全く気づかない。
その後、約30分にも渡って謎の押し問答を繰り広げる。メリナは憔悴しきっていた。
「‥‥‥メリナ、そのシロア・クロートという
少女に対する警戒を強めてください。
なんたって‥‥‥そう、《ルーライト》ですから」
「‥‥‥はい」
メリナはもうツッコミを入れる気すら起きなかった。扉を開けて出ていく無表情のエリスを見送ったメリナは机に頭を乗せる。
(この時間が1番疲れるよ‥‥‥)
それから数日の間。
「‥‥‥?」
シロアは休み時間の度に視線を感じるのだった。