お仲間に会わせてください
屋上の一件の後。《エルジュ》本拠地。
「うわぁ〜〜〜!!! ここが拠点ですかぁ!」
ユリアは《エルジュ》の本拠地に着いて目を輝かせている。それを見たアイトはため息をついていた。
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アイトが学園の屋上でユリアに昨日の出来事を説明した後。
『ぜひ、アイトくんのお仲間に会わせてください!
絶対に誰にも言わないので! お願いしますっ!!』
ユリアが目を輝かせながら頭を下げた。アイトは対応に困っていた。
断ると組織のことをバラされるかもしれないし、承諾すると組織について知られてしまう。その2つを天秤にかけた結果。
「‥‥‥ わかった。でも条件がある」
条件付きでユリアのお願いを承諾したのだった。
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「うわぁ〜!! とっても広い拠点ですね〜〜!!」
ユリアが拠点に感動している間。アイトは急いで連絡用の魔結晶を取り出す。
「エリス、聞こえるか」
『はい、アイト様。どうされましたか』
「ユリア王女を拠点に誘うことになった」
『えっ?』
「だが安心してくれ。絶対に口外させない。
何かあったら全責任は俺が取る」
口だけは達者なアイトである。
『大丈夫です。わかってます。
アイト様の選択は常に正しいですから」
(うん、絶対そんなことないよ?)
アイトは心の中でツッコむが時間がないため口には出さない。
「それとユリア王女は治癒魔法を使える。
拠点に呼ぶついでにアクアを治してもらう」
アイトがユリアに出した条件、それはアクアのケガを治癒魔法で治療してもらうことだった。ちなみにユリアは二つ返事で承諾。
『さすがの計画性。全くの無駄がありません』
(うん、俺はエリスにとって神様なの?)
アイトは心の中でツッコむが(以下略)。
「だから黄昏のみんなに
拠点にはしばらく戻ってくるなと伝えてくれ。
なるべくユリア王女に知られたくはない」
『了解しました』
「それじゃあ頼んだぞ」
アイトはエリスとの連絡を終える。ユリアはまだ夢心地の様子。
(ふう。アクアは知られてしまうが治療してくれるから
プラスの方が大きい。マイナス要素なんて他には)
「あ! ここにいるなんて珍しいね!」
「!?」
アイトの思考は一瞬で別のものに変わった。銀髪ツインテール少女の登場により一気にマイナス方向へと。
(か、カンナ!? な、なんでここに!?)
「‥‥‥なぜ、ここに?」
アイトは夢心地のユリアの前でカンナの名前を呼ばないように注意しながら尋ねる。
「アクアのお見舞い! 昨日ケガしたって聞いたから、
心配で来たんだ〜! 君もそうなんでしょ!?
さっすが私たちのリーダー♪」
「え!! 私たちの、リーダー!? それってぇ!?」
夢心地だったユリアがカンナの発言によって意識が帰ってくる。目をキラキラと輝かせて。
(何すぐに情報漏らしてんだ!?)
アイトがカンナの大胆発言に恐怖し震えるも、この惨劇は終わらない。
「わたし、ユリア・グロッサと申します!
あの、もしかして!!
アイトくんのお仲間さんですか!!?」
「ヌフフっ、世界を変える組織!
レスタくん直属の精鋭部隊《黄昏》所属、
No.3 『自由人』、カンナだよっ!」
(言うなぁぁぁぁ!!!!!!)
惨劇はまだまだ続く。まだまだ、まだまだ続く。
「精鋭部隊!? すごい!! すごいですね!!!
もしかして数ヶ月前の魔物襲来の時って!!」
「あったり〜! レスタくんと私たちで退治したっ!」
カンナは右手でピースしながらウィンク、そしてドヤ顔で答える。
(おいいいぃぃぃ!!!? もうやめろぉぉ!!!!)
「精鋭部隊というのは、カンナさんの他に
どんな人がいるのですか!?」
「え? 他にはうにゃぁぁっ!!?」
カンナはアイトのデコピンによって意識を刈られるのだった。
「さあ、ここだ」
アイトたち3人はとある部屋の前にたどり着く。1人は気絶しているため麻袋に入れてアイトが担いでいるが。
アイトは変装していないのでレスタと思われず、拠点にいる人々はアイトのことを同僚と思っただけだった。もしアイトがレスタだと知れば泡を拭いて倒れてしまうことは避けられない。
カンナは『黄昏』に所属している有名人のため麻袋の中に隠すことによって存在を隠蔽。ユリアは念の為アイトが用意した仮面(レスタの変装とは別のやつ)を装着している。
「ここにいる方を治療するんでしたよね。
ちなみにカンナさんと同じ
精鋭部隊の1人ってことでいいですよね?」
「うん。名前はアクア」
「名前まで教えてもらってありがとうございます!」
(もうどれだけ細かな情報でも嬉しいんだな)
アイトは遠い目をしながらお辞儀しているユリアを見つめる。
「名前教えた理由はすぐにわかるよ」
「え?」
そう言ったアイトはドアをノックする。
「んぅぇ〜? だれ〜? めんどくさい〜」
(奇跡的に起きてたか)
そんなことを考えながらアイトは部屋の扉を開ける。
「入るぞー」
アイトが中に入っていく。
「‥‥‥っ?」
そしてアイトの後に入ったユリアが絶句した。
なぜなら部屋の床が何も見えないレベルの汚部屋だったからだ。
かろうじてベッドには物が置かれておらず胸元には痛々しい包帯、ヨレヨレのシャツと白い下着を付けた青髪の女の子が気持ちよさそうに寝転がっている。
「なんとなく想像ついてたけど、まさか想像通りとは」
「想像ついてたって、え? これの‥‥‥?」
「アクア、ケガは大丈夫か?」
「んぅ〜? んわぁ、あるじ〜大丈夫じゃない痛いー」
ユリアは2人の会話を聞いたのちに気を取り直す。
「初めましてわたし、ユリア・グロッサです!」
「自己紹介〜? めんどくさいー」
「アクアさん、ですよね。アイトくんから聞きました」
「あるじ、ナイスフォロ〜」
「‥‥‥独特な方ですね」
お転婆好奇心の塊王女ことユリアですら顔を引き攣らせるほどの実力者、その名もアクア。
「あ、痛くない」
「これで大丈夫です」
ユリアの治癒魔法によってアクアは無事に完治。
「‥‥‥あ、治ったら任務に参加しないとだめじゃんー。
痛かったけどベッドでゴロゴロできたのになー。
君、よくもやってくれたな。ありがとう〜」
「ど、どういたしまして」
(ユリアが本格的にドン引きしてるぞ)
ユリアとアクアは相性がかなり悪いようだった。そもそもアクアと相性が良い相手がいるかどうかは不明である。
相性の良い相手として、いつも叫んでいる水色髪の元暗殺者を思い出したが、あれはただのパシリ扱いだなと思考を止めた。
「昨日の任務だってめんどくさかった〜。
前の遺跡の時みたいにあるじが【終焉】で
森全体を吹き飛ばせばよかったじゃんー」
「お、おい」
アイトはアクアの発言を聞いて嫌な予感がした。そしてその予感は的中。
「前の、遺跡の、時みたいに、吹き飛ばすっ??」
目を見開いた第二王女がアイトの方を向く。アイトは視線を逸らす。
(お前も情報漏らすんかいっ!?)
またしても、惨劇が始まる。
「アクアさん。メルチ遺跡を吹き飛ばしたのは、
この方が行ったことですか??????」
「うんー」
(そこはめんどくさいって返答を渋れよ!!!)
アイトはため息を漏らした。この後の展開が読めるからだ。
案の定、ユリアの質問地獄が始まる。結局これまでの情報はほとんど知られたといっていい。
アイトはこう考えていた。
(いつ、この地位から離れよう)