頼っても、いいっ?
「‥‥‥(ハッ! オドオド)」
「ど、どうしました先輩? あ、これですか?」
シロアはアイトの左肩を見てビクビクしている。
「今はちょっと痺れて動かせないですけど大丈夫です。
それでは1年生のところに」
ガシッ。
「あ、あの?」
シロアに急に右腕を掴まれアイトは話すのを中断する。
「‥‥‥ぼそっ(【メタ】)」
小さい声で呟くとアイトとシロアはその場から姿を消した。
「うぇ!? ここって‥‥‥!?」
アイトとシロアが転移した場所は学園の医務室の前だった。シロアはアイトを引っ張りながら中に入っていく。だが先生はいない。
(先輩って医務室の前にも魔法陣書いてたの!?)
「‥‥‥(グイグイ)」
「あ、あの? ちょっ」
アイトはシロアに腕を引っ張られ、椅子に座らされる。
「‥‥‥(ガサガサ)」
シロアは医務室の棚を漁り始める。
(ていうかどうしよ!?
1年生の集合場所に先に着いてる予定だったけど、
ギルバートたちにどう説明すればいいんだ!?)
アイトが頭を抱えていると魔結晶から通信が来る。
『あ、あの〜! 今どこにいるんですかぁ!?
アクアとこの子運ぶの大変なんですけどぉぉ!!』
アイトは声が聞こえた途端、即座にシロアに聞こえないよう音量を最小限まで下げて聞く。
「あ、ミスト。良いタイミングだ。
今学園の医務室に転移してるから俺の班の人たちに
上手く言っておいて。あ、それじゃあ切るぞ」
アイトは小さな声でミストに要件を伝える。心配性なアイトだが今は疲労で頭が回らず深く考えていなかった。
『うぇ!? ちょ、ちょっとまってくだ』
シロアが救急箱を持って近づいてきたためアイトは切断を切る。
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「酷いですぅぅ!!! なんで私がこんな目に〜〜!!」
ミストはアクアとポーラを抱えて絶叫していた。
「オリバーさんっっ! だずげでぐだざい〜っ!!」
魔結晶でオリバーに接続して助けを乞う。
『こちらオリバー。み、ミスト? どうされました?』
「なんかあの人学園の医務室にいまじで〜!!
班の人だぢに上手く説明じでぐれと〜っっ!」
泣き声と言わんばかりと濁音の多さにオリバーは苦笑い。
『わ、わかりました。それは僕の役目ですね。
確かミストが班の1人を抱えているんでしたよね?』
「は、はいっ。 そうですっっ」
『了解しました。状況がわかっていれば大丈夫です。
ではなるべく早く1年生のところにきてくださいね』
「あ、あのっっ!! できればこっちを助けてほし」
ブツッ。
オリバーとの通信が途絶える。
「運ぶ方が大変なんですよぉぉぉぉ!!!!」
「うるさいぃ」
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魔物討伐体験を行っていた平原。
「はぁっ、はあっ、やっと集合場所に着いた‥‥‥」
「も、もう走れない‥‥‥」
ギルバートとクラリッサがオリバーの策略通り、素直に遠回りしてやってきた。
「あ!! ギルバート! クラリッサ!!
無事だったか!! お前たち何をやってたんだ!!」
1年Dクラスの担任が2人に話しかける。
「わりい!! 魔族に遭遇して時間くっちまった!」
「も、もし、申し訳ありません」
「まあいい! ところでアイトとポーラはどこだ??」
「はぁ? アイトとポーラは俺たちよりも先に
着いてるはずだってギルドのやつが言ってたぞ」
ギルバートの発言にクラリッサがうんうんと頷く。
「なに? まだ来てないぞ!!?」
「はぁ!!? ま、マジか!!」
「え!? な、なんで!」
ギルバートたちの話が耳に入ったユリアは。
(アイトくん‥‥‥絶対何か行動してる!!
良いなぁ!!! ずるいですよぉ〜!!!)
相変わらずの活発王女であった。
「すみません。その話なのですが、少し手違いが」
ギルバートたちに近づきながらそう言ったのはオリバーだった。
「あ!! さっきのギルドのやつ!!」
「先ほどはどうも。それでアイトくんとポーラさんの
話ですが、ギルドメンバーからの連絡によると、
どうやら2人はここにくる前に魔族に襲われました。
その時に『時の幻影』で名高い
シロア・クロートさんが魔族を倒して2人を助けた。
ですが助けに行く前にアイトくんはケガをしてたそう
なのでシロアさんがアイトくんを連れて医務室に
連れていったそうです。ポーラさんは僕の
ギルドメンバーの方と一緒にこちらに
向かってきてます」
「な、なんか情報が多いな!? アイトは無事か!?」
「はい。命に別状はありません。今治療を受けています」
ギルバートはホッと息を漏らすと続けて話しかける。
「とりあえずあの『時の幻影』が
アイトたちを助けてくれて、
アイトはその時の怪我の治療で医務室に移動。
ポーラはアンタの仲間とこっちに向かってる、
ってことでいいんだな?」
「はい、安心してください」
「よ、よかった〜‥‥‥」
クラリッサが安堵のため息を漏らす。ギルバートも安心していた。
(ふう、これで上手く誤魔化せました)
オリバーも自分の任務を完了して満足していた。
「お〜い!! オリバー!! 来たぞ〜!!」
オリバーは遠くから走ってくる誰かに呼ばれて振り向く。その男は青髪の女の子を抱えて走っており、隣には水色の髪の女の子が誰かを担いで並走していた。
「カイル!? そうか、ミストと合流してたんですね」
オリバーにそう言われた男はオリバーたちの前で止まる。
「ああ!! コイツから連絡されてな」
「カイルさん、本当にありがとうございますぅぅ!!」
「zzz‥‥‥んぅ、ミストぉ、うるさいぃ。
しかもゴツゴツしてて居心地悪いー」
「私が悪いんですかぁぁぁぁ!?」
「おまえ何様だっ!?」
「ミスト! 今はその子を先に!!」
喧嘩勃発の火種を撒き散らすアクアに案の定声を上げた2人。それをわかっていたオリバーは咄嗟にミストに話しかけて必死に話を逸らす。
「あ、そうですねっ!! こ、この方ですよね??」
ハッとしたミストが抱えていた女の子を地面に下ろす。
「「「ポーラ!!」」」
ギルバート、クラリッサ、担任の声が重なる。
「んぅ〜? ‥‥‥うぇ? こ、ここどこです?」
3人の声が大きかったのかポーラはやっと目を覚ますのだった。念の為かなりの強度で【スプーリ】をかけていた。
こうしてアイト以外の1年生が全員集まりグロッサ王国へと帰還するのだった。
ギルドの人たちも拠点に帰っていく。
今回は『エルジュ』ではなくギルドとして活躍したアクアたち。そしてアイトもレスタではなく、学生として行動したの
だった。
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魔界に位置する魔王城。
「失礼します。魔族3人の生体反応が消えました。
その中の1人は、ゾルタ殿です」
「なに? あのゾルタが‥‥‥」
「はっ、どうやら人間に倒されたらしく」
「2ヶ月前には500もの数が一夜にして全滅だった。
グロッサ王国め、このまま放置しておくのは
我が魔王軍にとって脅威だ」
魔王軍の中で魔族3人が倒された話は瞬く間に広がっていった。
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学園の医務室。
「いたたた!! 痛いっ!! すっごく痛いです!!」
「‥‥‥(フンスッ)」
「痛いっっっ!!!」
アイトはシロアに包帯を巻かれながら絶叫していた。
「‥‥‥(ふうっ)」
「はぁ、はぁっ、これで終わりですか?」
「‥‥‥(コクッ)」
「手当してくれて、ありがとうございます‥‥‥」
アイトは涙目でシロアにお礼を言う。アイトとシロアはお互い椅子に座って向き合っていた。
「‥‥‥」
「‥‥‥あ、あの?」
シロアは下を向いて動かない。アイトは心配になって話しかける。すると。
「‥‥‥くん」
「え?」
「‥‥‥アイくん」
「は、はいっ!!」
シロアがついに声を出したことに緊張するアイト。とても可愛らしくて癒し効果がありそうな声だった。またアイトは別の理由で驚いていた。
(俺、先輩に『アイくん』って呼ばれてたの!?)
「‥‥‥今日は、ありがとう」
「えっ? な、何がですか?」
「私、アイ君から、勇気もらった。
今まで、緊張して話せなかった」
「? そ、そうですか?」
「でもアイくんになら話せる。あまり緊張しない」
シロアはニッコリしながらアイトの顔を見る。
「これから、体力も、おしゃべりも、色々がんばる」
するとシロアが膝の上に置いていた手をぎゅっとしながらプルプルし始める。
「だ、だから。だから、だから‥‥‥」
「は、はい」
「アイくんに、頼ってもいいっ?」
シロアは上目遣いで少し顔を赤くしている。無表情だが普段との変化にアイトは気づいた。
「‥‥‥も、もちろんでふっ。
これからもよろしくお願いしますっ」
破壊力が凄まじくアイトは思わず噛んでしまった。そして声が少し裏返っている。
「‥‥‥(パァッ!!!!)」
シロアの目が輝き出す。
「!?」
シロアの両手がアイトの両手を包み込む。
「ありがとう‥‥‥これからもよろしく、アイくんっ」
シロアが初めて微笑んだ。
アイトは破壊力が高すぎるギャップと笑顔に耐えるのに必死だった。
周囲に天才と称賛されている無表情な少女と共闘し、彼女自身が変わるきっかけを作り出したアイト。
本人は、そのことに気づいてない。