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『I・U作戦』

 「2人で戦いましょう!!」


 「‥‥‥(???)」


 シロアは意味が全くわからないといった様子で首を傾げてアイトを見つめる。


 「先輩と俺の2人で!」


 「‥‥‥(!? オドオド)」


 シロアはアイトの言っていることを理解して申し訳なさそうな様子を見せる。


 (なんで遠慮されるかわからないけど時間がない)


 アイトはシロアの方を向いて目を合わせる。


 「先輩がなんで俺を頼りたくないのかはわかりません。もし倒れた姿を見られたのが嫌だったならすいません」


 先に謝罪を述べたアイトは、話を続ける。


 「でも体力ないくらい人なんていっぱいいます。俺の友達にもいます! これからがんばっていけばいいじゃないですか!」


 「‥‥‥」


 シロアは、何も言わない。


 「できることがあれば俺、手伝います! 俺、体力だけは自信あるんでっ!」


 自信満々に言うアイト。シロアは何も言わない。


 「俺はルーライト最年少『時の(クロノ)、なんとか』シロア・クロートではなく、()()()()()に頼んでるんです」


 「‥‥‥!」


 「頼りになる先輩に頼んでるんです! だから、お願いします。力を貸してください!」  

  


 「‥‥‥‥‥‥」


 アイトの発言にシロアは反応しない。だが別の反応が起こる。


 「‥‥‥(ぽろっ)」



 「うぇ!? 酷いこと言っちゃいました!? 先輩の異名覚えてなかったからですか!?」



 シロアの目から、涙が溢れたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シロアはクロート家の1人娘として生まれた。名門貴族ではなかったがそれなりに地位のある中級貴族だった。


 玉のように可愛いかったシロアは両親に過保護に育てられた。そしてシロアが時空魔法の適性が高いことがわかると、より過保護に育てられるようになる。


 時が経ち、家族や親類以外との交流関係が無かったシロアは王立学園に入学するが、自分と近しい年代の人たちとの接し方がわからなかった。緊張して話すことができなかったのだ。


 だがシロアは自分を大切に育ててくれたからこそ両親に心配かけたくない、期待に応えたいと思い努力を続ける。


 そして2年生の秋。実力がルーク・グロッサの目に留まり『ルーライト』に入隊する。両親は大喜びした。シロアは自慢の娘だと。


 シロアはもっと期待に応えたいと思いさらに努力を続けるようになる。そのため元々苦手だった人間関係の構築を後回しにしてしまった。


 その結果、無表情で寡黙な1人の少女を作り出してしまった。


 シロアにとって交流があったといえるのは《ルーライト》の一員、特にアイトの姉であるマリア・ディスローグだった。


 シロアにとってマリアは信頼できる数少ない人の1人だった。だがマリアは年上で実力もある。シロアは自分が足を引っ張らないようにしなくちゃという考えでいっぱいだった。


 シロアは体力がなくてすぐ緊張し、そして人見知りである本当の自分なんて誰も受け入れてくれないとずっと思っていたのだ。


 だがアイトは自分の情けない姿を知ったにも関わらず全く幻滅した様子を見せることはなかった。


 そして周りの評価から作り出された『時の幻影(クロノ・ファントム)』シロア・クロートではなく、シロア自身を見てくれて頼りになると言ってくれた。


 そんなことは初めてで、嬉しくて思わず涙が溢れてしまったのだ。シロアは生まれて初めてこう思った。



   『素直な気持ちでこの人と関わっていきたい』と。



       『この人と一緒に戦いたい』と。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「‥‥‥(ハッ! ブンブン! ゴシゴシ)」


 シロアは勘違いだとアイトに知らせるために思い切り首を横に振りながら涙を拭く。


 「‥‥‥(コクッコクッコクッ!!)」


 (すごく頷いてくれてる!?)


 そしてシロアが肯定と取れる返事をする。無表情ではあったがどこか嬉しそうだとアイトは感じられた。


 「ありがとうございます! 作戦なんですが‥‥‥」


 アイトはシロアに自分の考えた作戦を小声で話した。


 「どうでしょう?」


 「‥‥‥(コクッ)」


 シロアはアイトが提案した作戦に賛成した。限られた猶予で他に案は出ないと思ったからだ。


 「それじゃあ、さっさと終わらせましょうか先輩っ!」


 「‥‥‥(フンスッ!!)」


 アイトは腕を回しながら言い、シロアは手を胸の前で固く握り締めながら気合を入れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ちょうどタイミングよく魔族が手から目を離す。『照明』で眩んだ目が回復した。


 「小僧!! 妙な技を使いやがって!!!

  もういい!! 貴様ら2人とも殺してやる!!!!」


 魔族が怒り狂った様子でアイトとシロアに接近する。


 するとアイトがシロアを置いて1人で魔族の方へ走っていき魔族の攻撃に迎え撃つ姿勢を取る。


 「まずは貴様からだっ、小僧!!!!」


           「あっっ!!」


 アイトが明らかに意味不明なタイミングで大声を出す。


        「はっ?? グァっ!?」


  すると魔族の右側に転移で現れたシロアが棒で右頬を殴る。


           「グォっ!!」


 魔族が吹き飛んだ方向にアイトは先回りして殴る。そしてその直後。


           「あっっ!!」


           「ブッ!!」


 アイトが声を上げた直後にシロアが転移で先回りして魔族を殴る。


 シロアに殴られた魔族が吹き飛んだ方向はアイトが待機していた場所とはかなりズレていた。


        「‥‥‥(ハッ!)」


        「任せてください!」


 (2人がかりなら先輩の体力消費を抑えられる。

  それに体力面は俺が補えば、いい!!)


            バチンッ。


 アイトは【血液凝固】を施した足で走り、吹き飛んだ魔族に一瞬で回り込む。


          「よいしょっ!」


  アイトは空中で体勢を変えて魔族の背中を蹴飛ばし地面に叩きつける。


          「いっっ!!」


       「その手はもう効かんぞぉぉ!!」


 魔族はすぐに立ち上がってアイトではなくどこからか現れるシロアに警戒する。


 (この小僧の情けない声が小娘が目の前に現れる合図!

  さっき我を蹴った際に小僧が情けない声を上げた!!

  必ず横、もしくは背後に小娘がやってくる!!)


       「グゥォァっ!! な、何!?」


 だが殴ってきたのはシロアではなく正面から飛び込んできたアイトだった。


 (もうこっちの作戦が見破られそうだっ!

  それにコイツの身体、頑丈でタフすぎる!!

  本当はもう少しダメージを与えて動けなくなった時に

  これを使おうと思ったが仕方ない!!)


          「うっっっ!!!」


 アイトはそう言った後に走りながら左腰に差していた聖銀の剣を鞘から抜く。


          「グハッ!!」


  作戦通りシロアが転移で魔族の正面に現れて棒で殴る。


        (よし、行ける!!!)


        「もらったぁぁぁ!!!」


 アイトは自分の方へ飛んできた魔族の左胸付近めがけて剣を刺す。狙いは心臓だった。


       「グァァァァァッッッ!!!」


 確かな手応え。間違いなく突き刺した感触がした。


           (勝った!!)


        アイトが勝利を感じた瞬間。


           「ぐあっ!?」


    アイトの左肩に魔族の爪が突き立てられる。


      (はあっ!? 心臓刺しただろ!?)


 「残念だったな小僧!!

  人間と魔族では心臓の位置が違うのだ!!」


 そう言った魔族が後ろに飛び身体に刺さっていた剣から離れる。


          「おぁぁっ!!」


 離れる寸前にアイトの左肩を突き立てた爪で抉ってから離れる。その激痛に思わず声を上げてしまう。


      (身体の構造どうなってんだよ!!)


 アイトは膝をついて悶絶する。左肩からは血が溢れていた。


           「‥‥‥!!」


 シロアはアイトの横に転移し駆け寄る。


 「だ、大丈夫。早くしないとこっちがピンチです。

  さっさと倒しましょう!!」


 「‥‥‥(コクッ!!)」


 「あっ!!!」


 アイトが走り出しながらそう言うとシロアが魔族の目の前に転移する。


 「そんな小細工はもう効かん!!!」


 シロアの棒攻撃を手で掴み、棒ごとシロアを投げ飛ばす。


 「先輩!!」


 「‥‥‥」


 シロアは地面を転がるがすぐに立ち上がる。


 魔族はアイトの声とシロアの転移の関係性を見抜いていた。


 (『あっっ』は小娘が転移して『いっっ』は転移しない。

  もう散々あの小娘の転移は見てきたし、

  それさえわかれば我が遅れをとることはない!!)


 魔族がその場で構える。


 アイトはシロアの様子を確認した後、再度走り出す。


        「もう通用せんぞ貴様ら!!」


 アイトが魔族に近づいた時。


          「うっっ!!!!」


  (『うっっ』だと!? そういえばさっきもーー)


 「‥‥‥(っ!!)」


 「グハッ!!」


 シロアが魔族の背後に転移して殴り飛ばす。


 (『うっっ』は『あっっ』と同じ!! おそらく他の言葉が来ても『いっっ』のような転移しない選択肢はほとんどないだろう。もうこのふざけた作戦も終わりだ!!)


 魔族は考えを改めて相手の次の攻撃に意識を集中する。


      アイトが走りながら魔族に近づく。


          「あっっ!!」


         (転移が来る!!!)


 魔族が周りを警戒する。しかしシロアが来る様子はない。


       「なに!? ぐはっ!!」


 アイトは右手に持った聖銀の剣で魔族の右胸を刺した。狙いはどこかにある心臓。


      (いったいどうなっている!?)


 魔族は自分の考えが間違っているかもしれないと焦っていた。それがアイトの作戦の一部に引っかかっている証拠だった。


 『I・U』作戦で、魔族に追い討ちをかけていく。

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