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これで終わり

 「はぁ〜、めんどくさ」


 「はぁっ!!!」


 アクアが放った水と魔族が放った火がぶつかる。


 「こっちが有利なんだからもう終わってよ」


 「死ねぇ!!!」


 「話聞いてる?」


 その後も打ち合いは続く。だが少しずつ均衡が破れつつあった。


 「く、クソがっ!!」


 「だからこっちが有利だって言った。早く終わって」


 アクアの水が少しずつ押し始める。やがて魔族は防御で手一杯になった。


 「もうちょっと。あーしファイト〜」


 「調子に乗るなよ小娘が!!!」


 魔族の気配が変わる。


 「【スラッシュ】!!」


 「? めんどくさい〜」


 アクアは殺気を感じてめんどくさかったがしゃがみ込む。


 するとアクアの真上に斬撃が飛んでいて後ろの木が真っ二つに切れた。魔族が斬撃魔法を放ったのだ。


 「ありゃ」


 その後も魔族の攻撃が続く。アクアは水で斬撃を逸らしたり、威力を削いでから最小限の動きで避けたりしていた。


 「ったっ‥‥‥」


 だが、アクアの胸元が斬撃魔法で裂ける。水で斬撃魔法の威力を削ぎきれなかったのだ。痛々しい傷、そこからは血が吹き出し、魔族にかかるのだった。


 「はっはっはっ!!! どうした!!!

  ‥‥‥ん? この血の色、まさか魔族‥‥‥!?」


 アクアから流れた血は青色だった。


 「同族ではないか!! なぜ我らの邪魔をする!?」


 「‥‥‥うるさい」


 「そうだ!! 貴様、魔族なら翼はどうした!?」


 魔族は必ず成長するにつれて翼が生え、大きくなっていく。魔族にとって成人を意味するのは、翼が立派に生えたことである。


 だがアクアは魔族であるのに翼が無い。その理由を、アクアはめんどくさそうに言った。



          「切り落としたー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アクアは魔族の両親から生まれた生粋の魔族。だが偶然にもアクアの容姿は人間の特徴とほとんど変わらない。


 魔族は長寿である。アクアも魔族からするとまだ子供だが、人間からするととっくに成人している年齢。


 魔族は人族に迫害されて環境が劣悪な場所で生活していた。


 アクアは別に人間に恨みなど持っていなかった。正直どうでもよかった。だが両親や多くの同族が人間を恨み、侵略しようとするためついていけなかった。


 そのことを知られると自分自身が危険に晒される。そう思ったアクアは表面上、人間が嫌いと取り繕うにした。


 だがそれは間違いだとすぐに気づく。仕方なく同族の活動に参加していた。そしてそのことに疑惑を持った同族がアクアをテストした。それは捕まえた人間を殺せるかどうか。


 多くの魔族が見ている。捕まった人が泣き叫んでアクアに助けを求める。


 アクアは人間を殺すことなどできなかった。結局アクアは同族に罵倒され、拷問を受け、独房に入れられた。


 (あれだけ考えて行動したのに‥‥‥意味ないじゃん)


 アクアは考えて行動し、その結果が最悪であった時の意味の無さを痛く理解する。そんな惨めな気持ちは味わいたくない。


 そう感じたアクアはやがて深く考えるのをやめた。




 独房に入れられてから数日。


 (ここにいるとあまり寝付けない。逃げよ)


 アクアは逃げ出すことにしたのだ。もし逃げようとして捕まった場合どうなるかなんて全く考えなかった。考えたくなかった。


 その日は雨が降っていた。アクアは今まで同族にも隠していた水の能力を使う。独房が古く、穴が空いてる箇所から漏れた雨水を使い、操る。そして独房の牢を破壊する。


 外に出るとアクアは雨を全身で浴びる。それで喉の渇きを潤し、翼を広げて空へ駆けた。




 アクアが魔族から逃げ出した数日後。


 空腹で倒れていたアクアは人間に発見され、すぐに捕まる。


 (とりあえず寝よ)


 そして檻に入れられ馬車で送られていた最中。


 馬車が急に止まる。そしてそのまま動き出す様子がない。


 すると檻越しに銀髪で仮面をつけた少年が近づいてくる。


 その少年は何かの魔法を使って檻を破壊する。


 アクアは少年が伸ばしてきた手を掴んで外に出る。


 「‥‥‥誰?」


 「たまたま近くを通った者だよ。

  なんか人間が捕えられてるなぁ〜と思って、

  俺、奴隷とかあんまり好きじゃないんだ。

  前はそんなの見たこともなかったし。

  一応さっき馬車引いてる人に話聞いたけど、

  理由もなく無理やり君を売り飛ばそうと

  してたから、それはあんまりでしょ」


 「‥‥‥なに言ってるの?」


 「いやこっちの自分勝手な話って‥‥‥翼っ!?」


 少年がアクアの翼を見て大袈裟に驚く。


 (この子、私が魔族だって気づいてない?)


 「私、魔族なんだけど」


 アクアは後のことを考えずに口に出してしまう。


 「? へ〜! 魔族って翼生えてるのか〜!」


 「? それだけ?」


 「え? 魔族がどうかした? なんか関係あるのか?」


 少年はアクアが魔族と知っても少しも驚かなかった。まるで魔族を見たことあるかのような反応。


 「‥‥‥魔族を見たことあるの?」


 アクア自身も思わず聞いてしまうほどだった。


 「いや無いよ? ハーフエルフとか竜人とかなら

  見たことあるんだけどなぁ。魔族は初めて。

  魔族だからって悪と決めつけるのは良くない!

  って言うのは簡単だけど、難しいと思ってる。

  でも君はただ眠そうで悲しそうだったから助けた」


 「‥‥‥変な人」


 だがアクアは不思議と悪い感じはしなかった。


 (もう考えるのめんどくさいからこの人についてこ。

  なんか、なんとなく良い人だと感じる)


 アクアは少しだけ頭を下げる。


 「ねぇ、ついていっても良い?

  その代わりなんでもするから。

  さすがに多少めんどくさいことでも」


 「なんでも!? ん〜、じゃあ‥‥‥決めた。

  それならエリスの手助けをしてもらうか。

  君、見たところ子どもらしいけど本当に良いのか?」


 (‥‥‥たぶん倍は年上)


 アクアは心の中で呟く。アイトは?を浮かべていた。


 「いい」


 「本当に?」


 「いい」


 アクアは即答する。


 「それじゃあちょいと失礼して」


 少年がアクアを抱き抱えて風魔法で空を飛ぶ。


 (あ‥‥‥風、気持ちいい)


 「‥‥‥zzz〜」


 「寝た!? どんな胆力してんの!?」


 こうしてアイトに助けられたアクアは、久しぶりに安心して眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後アイトはアクアを連れて《ルーンアサイド》の本拠地に着く。


 「この子、保護してくれない?」


 アイトは隣に立つ眠そうなアクアを紹介しながら、ラルドに話しかける。


 「レスタ殿の頼みならもちろんだ」


 ラルドは二つ返事だった。


 「いつも悪いな」


 「とんでもない。レスタ殿は先をよく見ておられる」


 「? とにかくありがとう」


 アイトはラルドに礼を言った後、アクアの前に立つ。


 「ねえ、行っちゃうの?」


 「大丈夫。ここには俺の家族みたいなやつがいるし、

  このおじさんもしっかりしてる。大丈夫さ」


 アイトはアクアの頭を撫でる。


 (年下に頭撫でられてる。でも、嫌な気はしない)


 アクアはほんの少しだけ、無意識に笑う。


 「それじゃ、また来るから」


 「ありがとう、あるじ」


 「あるじ!?」


 「うん、あるじ」


 「‥‥‥まあいいか」


 こうしてアイトはルーンアサイドの本拠地から離れていく。


 その場にいるのはアクアとラルドの2人となった。


 「少女よ。魔族だな?」


 すかさずラルドがアクアの翼を見ながら話しかける。


 「そうだけど、魔族じゃダメなの?」


 「いや、レスタ殿が連れてきたのだ。

  おぬしを信用しないのは、

  レスタ殿を信用しないのと同じだからな」


 「ふーん」


 全く興味なさそうなアクア。


 「だが、周囲の者は恐れるかもしれん」


 「それなら今解決する」


 アクアは、右手で水を放出し、ナイフの形状に変化させる。



      そして、左の翼を切り落とした。


          「うっ‥‥‥!」


        「!? な、なにをっ!!」


 ラルドが驚くと同時に左の翼が床に落ち、青い血が溢れ出す。


          「ああっ!!!」



 そしてアクアは同様に左手に作った水の刃で右の翼も切り落とす。右の翼も床に落ち、切断面から青い血が吹き出す。


 だがアクアは水なら触れれば操作することが可能。切断面を手で触って青い血を無理やり止め、止血した。両目から、一筋の涙が流れる。


 「はあ、痛い‥‥‥痛い‥‥‥けど、これでいい」


 「た、確かに翼が無ければ外見で魔族とは思われんし、

  バレても疎外感を減らすことはできるが‥‥‥!!

  なぜ、そんな決断ができるっ!?

  魔族にとって、翼は重要器官のはずだ!!

  命の根源とまで言われている!

  死んでもおかしくないのだぞっ!?」


 翼には多くの神経が通っている。それは人間が腕や足を切り落とすのとは比べ物にならない激痛。実際、魔族にとって翼の切断は痛みで脳が破壊されるほどである。アクアは、それに耐えてみせた。


 「そうなんだ。こんなに痛いのは人生初。

  っていうかこんな痛みもう二度と味わえないかも」


 ラルドは、ついに恐怖した。地獄のような体験を受けた直後であるにも関わらず、涙は流しているが表情一つ変えない。何も見ていないようで何かをぼんやり見ている目。


 そして翼を切り落とした見返りというべきか、現在のアクアから満ち溢れている魔力の密度に、鳥肌が立っていた。


 ラルドは急いで部下に包帯を持って来させ、アクアに手渡す。


 「めんどくさい、巻いて〜」


 「‥‥‥よくわからん者だ」


 ラルドはアクアの後ろに回り込んで包帯を巻く。


 「大丈夫なのか」


 「たぶんー」


 曖昧なアクアの答えに、ラルドは訝しげな様子を見せながらも、こう考えていた。


 (間違いなく、この子は逸材だ。

  レスタ殿の力になることは間違いない。

  だが‥‥‥同時に世界を脅かす存在になりかねない)


 考え事をしながらでもラルドは包帯を完璧に巻き終える。 


 「それでは訓練生になるってことで良いのだな?」


 (訓練生ってなに? そんな話聞いてない。

  でもまあ良いか。考えるだけ無駄)


 「いい」


 思考から発言までの時間が短すぎるアクアである。


 「わかった。ついてまいれ」


 (あの子についてこ)


 そして何も考えてないアクアは、ラルドの後についていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こうしてアクアは詳しいことを全く聞かずに訓練生となった。


 アクアにとって訓練は辛いことでもあり楽なことでもあった。


 ただ訓練を受けるだけで食事をもらえ、快適な寝床も得られる。


 (成績が良かったらもっとご褒美くれるかも)


 そう考えたアクアは最低限の努力を続けた。アクアは別に体を動かすのが面倒ではない。いや確かに面倒だとは思っているがご褒美をもらえるためなら仕方ないと割り切った。


 それよりも物事を深く考える方が面倒であり、それなら寝たいと思うだけだった。頭使うより身体動かした方がマシという考えもある。


    そしてアクアは序列4位になったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 回想が終わって、アクアVS下級魔族。


 「切り落とした!? 魔族にそんなことできるわけが」


 アクアの発言を聞いた魔族は目を見開く。対してアクアは全く聞いていない。


 「痛い。痛い。もう最悪。でもこれで終わりー」


 「な!? グォァっっ!!」


 アクアがそう言った途端、魔族が何かに締め付けられる。


 「き、貴様!! 何をした!!!」


 「説明するのめんどくさい。それに痛いー」


 アクアは両手をギュッと握りしめた途端に締め付けが何倍も強くなる。


 「えい」


 掛け声と同時に魔族の身体が弾け飛ぶ。叫びながら魔族は息を引き取った。


 アクアは魔族に付いた自分の血を形状化して相手を拘束、そして締めつけて圧迫死させた。実はアクアは考えて斬撃魔法を捌くのがめんどくさくなったためわざと攻撃を受け、その血を利用しようと直感で決めていた。


 そのことをアクアは説明する気が起きなかった。


 「痛い」


 「アクア! すごいですぅぅ!!」


 木に隠れていたミストがアクアに駆け寄る。


 「ま、魔族だったんですねぇ!!」


 「悪い?」


 「いえとんでもないですぅぅ!!

  アクアは、アクアですからぁぁ!!!」


 ミストはこの時、アクアが一瞬だけ微笑んだ気がした。


 「こんなに痛いと寝るのに支障が出る。なんとかして」


 「回復魔法使える人が《エルジュ》にいないのに

  そんなの無茶ですよォォォ!!!」


 「使えないやつー」


 「ひどぃぃぃぃ!!!」


 ミストが絶叫する。その声は高らかに、森の中で響いていた。


    アクアとカイルによって、魔族2人は倒された。

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