表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/347

遠く及ばねえ

 「‥‥‥!、!」


 「へっ!! この程度でも見えないのかよ!!」


 カイルが木を伝って凄まじい速度で縦横無尽に駆け回るため魔族は魔法の焦点を合わせられなかった。


 「っはぁっ!!」


 「ブッッゥ!!」


 木を蹴って飛び込んだカイルが魔族の顔面を思い切り殴る。魔族は口から青い血を吹き出す。魔族は木に激突してまた木が折れた。


 「お、おのれぇ!!!!」


 「スピードが足りねぇお前が悪い!!

  そろそろ見つけないと厄介だ。これで終われや!!」


 カイルがまたも縦横無尽に魔族の周囲を駆け回る。


 「‥‥‥我を本気にさせたなっ!!!」


 そう言った魔族は自分の体に硬化魔法と加速魔法をかける。ラルド戦のアイトと同じ戦法。


 「!!」


 「ッラァ!!!」


 カイルは拳を掴まれたことに少し驚く。


 「あああぁぁぁ!!!」


 「グッッ」


 魔族が全力でカイルを殴る。拳を掴まれているためカイルは手を使って防御できなかった。


 「我に、魔族に、勝てると思ったのか!?

  魔法を全く扱わぬ貴様にっ、負ける道理はない!!

  魔法ではなくわざわざ拳で殺してやる!!

  我の拳で死ねることを喜ぶがいい!!」


 今度は魔族が縦横無尽に駆け回り、やがてカイルに飛びついて殴る。


 「!!!」


 「死ねぇ!!!!」


 魔族に凄まじいスピードで殴られたカイルは後方に吹き飛び大きい木に激突。その木が折れてもカイルは止まらず3本目の木にぶつかった際にようやく止まった。


 「フン、他愛もない。これが魔族との絶対的な差だ」


 「‥‥‥」


 「亡骸は吹き飛ばしてやろう。感謝しろ」


 魔族は片手を突き出す。


 「『ファイアフレイム』」


 火属性の上級魔法を発動し、放出されたレーザーがカイルの身体を包み、爆発が起こる。凄まじい爆音と粉塵が辺りを覆う。


 「さらばだ」


 魔族が始末を終えて歩き出す。


 「‥‥‥へっ、なかなかやるじゃねえか」


 「!?」


 粉塵の中から声が聞こえ魔族は思わず振り向く。やがて辺りの粉塵がなくなるとそこには遺体すら残っていないはずの男が立っていた。


 「まあまあ効いたぜ。最後のは全く効いてないけどな」


 カイルは特異体質により魔法への耐性がとてつもなく高い。魔族が放った火属性魔法は全く効いていなかった。


 「‥‥‥なぜ、生きている」


 「そりゃあ、見りゃわかるだろ。生きてる。以上!」


 全く解答になってないことをカイルは言って肩を鳴らす。


 「それじゃあ、お返しするぜ? しっかり耐えろよ!」



            バチンッ。



      火花が散ったような音がした直後。



            「!?」



        魔族はカイルを見失った。



         「グハァッッッ!!!」



     魔族は殴られた事実しか理解できていない。


  吹き飛んでる最中に蹴られ、殴られ、それが10数発も続いた。そこでようやく攻撃の雨が止む。魔族はすでに瀕死。青い血がそこらじゅうに散らばっている。カイルはやっと姿を現した。


 「おいおい、もう終わりか? やっぱテメェも

  【血液凝固】をした拳だと耐えれなかったか。

  それじゃあ今度こそ終わりにしようぜ!!」


 「ひ、ひい!!!!」


 「あ!! 逃げる気か!!」


 魔族がオリバー撃たれた羽を無理やり動かして空を飛び始め、かなりの高さまで上昇した。


 「逃すか、よ!!!」


 カイルは【血液凝固】を施している両足で力強くジャンプする。カイルのいた場所が衝撃に耐えられず陥没し、一瞬で上空にいる魔族に追いついてしまった。


 「オラァァァ!!!!」


 「ガッッ!!!」


 カイルが両手を握りしめた拳を魔族の背中に叩きつける。その直後には轟音と粉塵。魔族はカイルの攻撃によって凄まじいスピードで落下し地面に直撃した。


 「‥‥‥」


 魔族は生命活動を停止していた。


 「あ!? 別に今のでトドメ刺す気はなかったが!?

  まあいいか!! これで俺の勝ちだ!」


 カイルは死んだ魔族の付近に着地する。


 「テメェの拳はなかなかよかったぜ。だが足りねぇ。

  あいつの拳には、遠く及ばねえ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 カイルは竜人族の両親から生まれた立派な竜人。


 カイルは生成した魔力が自分の全身に勝手に流れてしまう特異体質を持っていた。そのため髪や皮膚、内臓に至るまで今でも魔力でコーティングされているため魔法耐性が圧倒的に高い。


 でも魔法が全く使えないため村では見下されていた。


 本来は村で一生を終わるはずだった。だがカイルはそんな人生を望んでおらず、村では自分より弱いヤツらにバカにされる。


 そのことに嫌気がさして16歳になったカイルは村を出ていくのだった。


 それからは主に魔物を討伐して素材を売ったり、闘技大会に出場して賞金を得たりして生活していた。


 そしてある日。珍しい宝石が優勝賞品とされる武闘大会に出場した。


 次々とトーナメントで勝ち進めていき、いよいよ決勝戦となる。決勝戦の相手は銀髪の仮面を被ったどう見ても自分より若い子供だった。


 「おい、テメェが決勝戦の相手か?

  対戦相手、どれだけ弱かったんだよ!!」


 「お喋りはいいから早くかかってこい。

  俺は宝石にしか興味ない」


 「デケェ口を叩くじゃねぇか!!!」


 カイルは少年に殴りかかる。


            バチンッ。


 そのような音が聞こえた途端。


 「グッ!?」


 カイルは思い切り腹を殴られる。


 (このガキ、なんて重いパンチしてやがんだ‥‥‥!!)


 人生で受けた打撃の中で1番重かった。カイルは思わず殴られた箇所を押さえる。


 その後もほとんど一方的に殴られ続ける。


 (お、オレが‥‥‥こんなに、一方的に!

  このガキ、ナニモンだ‥‥‥!!!)


 カイルは殴られ続けたが、最後までダウンはしなかった。だがもちろん判定負け。少年に完敗した。


 「へぇ〜。【血液凝固】を施した腕だったのに

  耐え抜くとは。さすが決勝相手。それじゃあ」


 少年はそう言って商品をもらって闘技場から出ていく。


 「ま、待て!!」


 カイルはその少年を追いかけた。




 「おい! なんだあの技は!? 魔法じゃねえだろ!」


 カイルは闘技場の外で歩いている少年に話しかける。


 「? ああ、決勝相手か。魔法じゃないよ」

 

 カイルはこれまで魔法に抵抗があった。自分が使えない力に負けても土俵が違うではないか。卑怯ではないかと。


 だからこそ魔法を使う相手には絶対負けたくないと強く思っていた。


 だが今回は魔法ではなく完全に技、実力で負けたのだ。自分よりも年下で体格的にも劣る少年に。


 「その技!! オレに教えてくれねえか!?」


 カイルは少年に思わずそう言ってしまった。自分を負かした相手に教えてくれと頼むのは恥かもしれない。バカにされるかもしれない。


 だがそんなことよりも少年が使った技に、純粋な強さに興味を持ったのだ。


 「【血液凝固】のこと?」


 「そう!! そのケツエキギョウコってやつ!!

  教えてくれるなら仲間にしてやってもいいぜ!」


 「謹んで遠慮致します。それじゃあ」


 「ま、待てやァァァァ!!!!!」





 その後も少年を追いかけまわしたカイル。


 「しつこいな。なんでそこまでして」


 「強くなりてえからに決まってるだろ!?

  オレは魔法が使えないからって村のヤツらに

  馬鹿にされてきた!!

  殴り合いでオレに手も足も出ないヤツらに!!

  魔法が使えない竜人だからってな!!!

  村の中では土俵にも立たせてくれなかった!!

  そんなの納得できるか!!

  オレはもっと強くなって世界のヤツらに

  認めてもらって村のヤツらを見返してやるんだ!!

  魔法の使えないオレが英雄だってなあ!!!!」


 「‥‥‥なるほど、そういうわけね。わかった」


 少年は息を吐きながら話を続ける。


 「これ以上追いかけ回されるのは勘弁してほしいし

  教えるよ。とは言っても教えるのは俺じゃない。

  俺も人から教わったんだ。その人に君を紹介する」


 「本当か!! それで構わねえ!!

  俺、カイル!! テメェは!?」


 「‥‥‥レスタ」


 「そうかレスタ!! 見てろよ!!

  必ずテメェを殴り飛ばしてやるからな!!」


 「‥‥‥遠慮します」


 厄介な相手に目をつけられたとため息を漏らすアイトだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後アイトはカイルを連れて《ルーンアサイド》の本拠地に。ラルドにカイルを紹介し、【血液凝固】を教えてあげてとアイトは伝えた。


 アイトはエリスが離れていった後、定期的にラルドの元を訪れて武術や体術、そして【血液凝固】を教えてもらっていたのだ。


 そしてアイトが帰った後。


 「【血液凝固】をタダで教えるわけにはいかない。

  教わりたいのなら《エルジュ》の一員となれ」


 教官のラルド・バンネールの発言に、カイルは首を傾げる。


 「はあ? エルジュ?」


 「レスタ殿が代表を務める組織のことだ。

  とは言ってもまだ準備している途中だが。

  そしてもうすぐ訓練生たちの訓練が始まる。

  訓練の中の 1つに【血液凝固】が含まれる」


 「 1つ聞かせてくれ。どんなことやる組織だ?」


 「レスタ殿の側近をしていた者の話によると

  『自分たちのために行動すること』が組織の理念だ。

  主にレスタ殿が決める。だが戦闘は必ず起こる。

  だから私が訓練するのだ。如何なる時に対応できる

  優れた能力を身につけてもらうためにな」


 「なんだそれ‥‥‥面白そうじゃねえか!

  いいぜ!! オレ、訓練生になる!!

  それで、必ず活躍してやる!!」


 「面白い。いいだろう。骨のあるヤツは歓迎する。

  だが甘くないぞ? 約300人訓練生がいるからな」


 「上等だ!! 強えヤツがいっぱいいるってわけだ!

  最高の環境だぜ!! 絶対負けねぇ!!!!」


 「フッ、それでは行くぞ。ついてまいれ」


 「ああ!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こうしてカイルは訓練生になった。


 【血液凝固】を誰よりも使いこなすようになり、持ち味の身体能力と特異体質で序列5位にまで上り詰めたのだ。


 組織の活動も実力主義で戦闘が多くて最高だとカイルは思っている。


 今ではレスタ(アイト)との再戦を希望している。アイト本人はおそらく望んでいないだろうが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


   「もっと強くなって、レスタをぶっとばすっ!!」


   カイルはそう呟きながら森を歩いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ