む、武者震いってやつです
「ちょっと、これ本当に出られるの!?」
「とりあえず真っ直ぐ走れば外に出るだろ!」
「はぁ‥‥‥すっごく脳筋思想」
「いいだろうが別に!!?」
走りながら言い合いを繰り広げるギルバートとクラリッサ。その2人の後をアイトは、息を乱すポーラと共に追いかける。
「はあっ、はあっ、あの2人、大声出しながら走り続けるなんて、すごい、ですね」
「あの2人は運動オバケだからな」
「でも、アイトくんも息切れしてないですね。私だけ、体力ないです‥‥‥」
「!! そ、そんなことないぞ! 呼吸するタイミングを掴めてないだけだよ。気にするなって」
苦し紛れの理由を繕うアイト。そんな理由でもポーラが納得して元気になる。素直で良い子である。
「そ、そうですよね! これから努力すればいいですもんね!」
「そうそう。今は2人に置いていかれないように急ごう」
「はいっ!」
こうして、アイトたちは意気揚々と前の2人を追いかけていく。
「ご、ごめんなさいぃぃ‥‥‥はぐれてしまいましたぁ‥‥‥!!」
数分後。
アイトたちは見事に2人を見失った。だが、前の2人に合わせれば、確実にポーラだけが逸れていた事になる。
「ま、まあ大丈夫だって。まっすぐ進めば2人に追いつくよ」
「アイトくん‥‥‥ありがとうございます。落ち込んでる暇があったら、走った方がいいですよね!」
「うん。でも足ガクガクしてるけど‥‥‥?」
「これは、む、武者震いってやつです!」
足の震えが全く止まらないポーラ。
そして、心配になるアイト。
(いざとなったら俺が担いでーーーっ!?)
アイトは妙な胸騒ぎを覚え、反射的に声を出す。
「ポーラ伏せろ!!」
「えっ?」
そして、ポーラに向かって火の玉が飛んでいく。
(間に合わない!!)
「きゃっ!?」
アイトは走ってポーラの肩を掴み、覆い被さるようにして姿勢を低くする。
その直後、アイトたちの真上を火の玉が通り過ぎていった。
「あ、あの。ありがとうございます」
「逃げるぞ!!」
「きゃ! あ、あの!?」
必死になっているアイトは、驚く彼女を抱き抱えて走り出した。
◆◇◆◇
一方、開始地点。
引率の教員が少し離れた場所から、1年生たちの実戦を観察している。すると、冒険者ギルドに所属している1人に話しかけられた。
「あのっ!!」
「ん? どうされました?」
教員が優しく話しかけると、冒険者が口を震わせて言い放つ。
「ここから先にある森の上空にっ‥‥‥魔族がいました!!」
それは緊急事態を呼び込む、恐ろしい一報だった。
「なに!? 上空に魔族がいた!? それは確かですか!?」
「は、はい!!」
「‥‥‥すぐに実戦を中断させます!!」
教員が迅速に判断し、視界に映る学生たちを見つめる。
「私は生徒たちを集めて点呼を取ります。あなたは大至急、王都に報告してください!」
「わかりました!!」
その後‥‥‥魔族出現の知らせが、王都ローデリアへ届いた。
グロッサ王立学園内、食堂。
1年生が魔物討伐体験でいないため、敷地内の各施設が普段よりも空いていた。
「‥‥‥(もぐもぐ)」
そして、シロア・クロートは1人で昼食をとっていた。まるで小動物のように一口が小さく、何度も口を動かしている。
「ーーーすいません! シロア・クロートさんはいますか!!?」
すると1人の教員が慌てた様子で食堂に入り、シロアの名前を呼ぶ。
シロアの周りの席で食事していた生徒たちが一斉に彼女に視線を向ける。
「‥‥‥(もぐもぐ、ふう‥‥‥?)」
シロアはようやく食べ終わって、ごちそうさまのポーズをしていた。そんな時に、周囲の視線に気付いて冷や汗を流す。
「いた!! クロートさんっ、急いで学園長室に来てもらえますか!?」
「‥‥‥(コクッ)」
シロアは即答して、食器を返却棚に置いて足早に歩き出す。そして、なんとなく要件が分かっていた。
「‥‥‥(ふんすっ)」
両手で気合を入れ、シロアは学園長室の扉を開けた。
◆◇◆◇
一方、森の中。
「やべぇ! 早く見つけないとラルドに怒られるぞ!!」
「エリスさんに怒られてしまいます!! 早く見つけないと! レスタさんどこ!?」
「おやすみぃ〜」
「寝ようとしないで探しましょうよぉぉ!!?」
カイル、オリバー、アクア、ミスト。
彼らはアイトを見失った事で、焦りまくっていた。眠たいだけの1人を除いて。
「ん? おいあれ! 魔族じゃねえか!?」
「‥‥‥本当ですね。森に向かって魔法を放っています」
「もしかして、あの狙われてる所にレスタがいるんじゃねえのか!?」
「そんなのわからないじゃないですか。根拠があって言ってます?」
感情派のカイルと理論派のオリバー。見ての通り、彼らは全く話が合わない。
「根拠はねえ、勘だ!! そして俺の勘はよく当たる!! だから行くぞ!!」
だが、カイルが自分の直感にゴリ押しして動き出す。組織の中で最高の身体能力を持つ彼が、全力で。
「待ってください! 単独行動はダメですって!」
「zzz〜」
「なんで私が担がないと行けないんですかぁぁぁ!!」
それを追うのは、銃を持ったオリバーと、寝ているアクアを担いだミスト。
そんな2人では『脳筋』カイルの後を追う事は、到底できなかった。
◆◇◆◇
そして、森の中で逸れる原因を作った2人。
「おいクラリス!! なんか、上空から誰かに撃たれてねぇか!?」
「間違いなく魔法ね! ここからじゃ、誰が撃っているか見えないけど!!」
ギルバートとクラリッサは、今まで走ってきた方角から逆走しながら話をしていた。
「アイトたちを置いてっちまったし!! 上から魔法撃たれてるし! どうなってんだよ!」
「もしかしたら2人も、私たちみたいに上から狙われてるかもしれないわ。早く合流しないと!」
「ああ!!」
つまりギルバートとクラリッサは、合流すべく引き返しているのだ。
だが、それは叶わない。
「ーーーそうはさせんぞ脳筋ども」
「「!?」」
突然空から現れた影が、鋭い爪で横薙ぎに攻撃する。その刹那、2人は互いに頷きあう。
「はぁっ!!」
「ッラァっ!!」
クラリッサが杖で受け止め、ギルバートが背中の大剣を構えて斬りかかっていく。まさに阿吽の呼吸。
だが相手が空を飛んだ事で、ギルバートの大剣は空振りしてしまう。
「っ!? 魔族‥‥‥!?」
「ちっ!! きたねぇ野郎だ!!」
見下ろしてくる襲撃者は、魔族だった。クラリッサが驚きの声を漏らし、ギルバートが舌打ちをする。
「空を飛べないことを後悔したまえ」
そして魔族が嘲笑った後‥‥‥魔法陣が浮かび上がった。
◆◇◆◇
まさに、変わりゆく局面。魔族の介入により、事態は更に混乱していく。
「アクアぁぁぁっ、おねがいですから起きてくださいぃぃ!!」
そんな中、泣き叫ぶ声が森の中で響き渡る。
停滞していたのはミスト、オリバー、そして‥‥‥今も眠り続ける強心臓アクア。
先走ったカイルは、完全に逸れていて合流不可能。まさに激しく切り替わる展開に、オリバーが眉を下げて懐へ手を入れる。
「アクアは一度寝ると、なかなか起きませんからね‥‥‥仕方ない。アクア、すみません」
「あの!? ま、まさかぁぁぁ!!」
オリバーは取り出した拳銃を、アクアへと向けた。ミストの心配する声を無視して、引き金をーーー。
ダァァァンッッッ!!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
発砲音と同時に鳴り響く、ミストの絶叫。彼女は極度のビビリで、自分で銃を使えないほどである。
「‥‥‥んあっ。ミスト、うるさいっ」
そして、アクアが顔を顰めながら目を覚ました。た。銃声ではなく‥‥‥ミストの悲鳴によって。
「私が悪いんですかぁ!? 悪くないですよねぇぇぇ!!!?」
ミストが涙目で抗議の声を上げるが、オリバーは華麗に無視して話し始めた。
「‥‥‥アクア。レスタさんの現在地、確かめてもらえませんか」
「命令なら聞かないー」
アクアは即答して欠伸する。我関せずという態度を取り続けて。
「命令じゃありませんよ? レスタさんのためです」
そこで、オリバーが絡め手で攻めた。アクアの心理を上手く突いた、遠回しな方法で。
「‥‥‥はぁ、めんどくさ。あるじー」
そして‥‥‥アクアは観念したように、手から大量の水を森にめがけて飛ばす。アクアの手から放たれた水はまるでロケットのように打ち上がる。
アクアは目を瞑る。しばらくその状態が続き、やがて目を開けた。
「‥‥‥いた。たぶん中央あたり。今からあるじに合図するー」
アクアは欠伸をした後‥‥‥右手を掲げて水を放出するのだった。




