眠り妨げたやつ
「クソッ、上から狙われ続けてる!」
アイトはポーラをお姫様抱っこしながら森の中を走り回っていた。まっすぐ走ることはできていない。
「アイトくん、本当に足を引っ張ってごめんなさい」
「え!? なんだよ急に!?」
「私が体力ないばっかりに、こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんっ!」
「そんな話は後! 今しても意味がない! 後悔するのはこの状況を打破してからだ!」
「アイトくん‥‥‥」
「!? 何か濡れた!? これ、水滴か?」
上を見ると雨が降っているように感じられた。だがどこかおかしい。
(俺たちの真上からしか水が落ちてこない。意図的に水を降らしている? ‥‥‥アクアか!)
魔族の可能性もあるが攻撃性のないただの水を降らしてくる意図がわからない。
それなら水の使い手アクアの仕業だと考える方が合理的だとアイトは思った。
「【スプーリ】!」
「え、‥‥‥」
アイトは【スプーリ】でポーラを眠らせる。
(これで大丈夫だ!)
アイトはポーラを地面に寝かせてあの魔法を発動する。
「【打ち上げ花火】!!」
森の上空で凄まじい破裂音と火花が飛び散るのだった。
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「あの魔法、間違いなくレスタさんですね」
「活躍したしもう寝ていいよね?」
「念の為まだ起きててくださいぃぃぃ!!!!」
アイトの花火によって確信を持ったオリバーとミスト。
「ミスト! アクアを連れて先に行ってください!」
「うえ!? オリバーさんはどうするのですかっっ!?」
「僕は自分の仕事をします」
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「なんか今すげえ音したな!! あの魔族のせいか!?」
「たぶんそうでしょ!!」
ギルバートとクラリッサが花火を魔族のせいだと勘違いする。
「おいクラリス! 何か遠距離魔法はねえのか!?」
「無いわよ! ギルこそ何かないの!?」
「ねえよ!!」
「はっはっは! 言い合う暇があるなら攻撃してきたらどうかね? このままだとお陀仏だぞ?」
「「あの魔族‥‥‥絶対殺す」」
2人のその怨念が届いたのか。
「ぐあっ!! な、なに!?」
魔族の羽に小さい何かが貫通する。バランスを崩して魔族が落ちてきたのだ。
「「チャンス!!!」」
2人が同時に武器を構えて落ちてくる魔族にタイミングを合わせる。
「オラァァァァ!!!! どけぇぇぇぇ!!!!」
だがその瞬間。赤い髪の筋肉隆々青年ことカイルが2人を凄まじいスピードで飛び越え、落ちてくる魔族に迫る。
「ッラァァァァァ!!!」
「ヴァァォァァァ!!!」
カイルが魔族の顔面に拳をめり込ませる。魔族が吹き飛んで木に激突しその木が折れて倒れる。
「俺の邪魔すんじゃねぇ!!」
「誰だおまえ!!」
「誰よあんた!!」
ギルバートとクラリッサは、ほぼ同時に言い放つのだった。
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(そろそろアクアたちが助けに来てくれるはず)
花火を打ち上げた後、アイトはポーラを抱え直して魔族の魔法を避けながら森の外を目指して走る。
魔族はかなり上空にいて存在が確認できる程度。アイトから攻撃するのはあまり現実的ではなかった。
「え!?」
そう思っていた矢先。魔族の魔法がピタリと止む。慌てて上を見ると魔族はどんどんこちらへ落ちてくるように見えた。
(誰かがやってくれたのか!! 今のうちに!)
アイトはそのまま森を駆け抜けていくのだった。
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「ふう。なんとか 2匹とも当たった」
スナイパーライフルを構えていたオリバーは安堵を漏らす。
2匹の魔族は両方ともオリバーの狙撃によって空中から落とさせたのだ。
【血液凝固】で目を強化してスコープの役割を担う。そしてサプレッサー付きのスナイパーライフルで狙い撃ちした。
(魔族の身体は硬い。比較的貫通しやすい翼しか狙えなかった。あとは頼むよ3人とも)
オリバーはそのままライフルを構えて援護に回ることを決めた。
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「俺が誰って?? 俺はカイル! ギルドだ!!」
さすがにバカのカイルでも《エルジュ》と名乗るのは絶対にダメだとわかっていた。
「ギルド所属のヤツか。オレはギルバート。その魔族はオレが殺す。邪魔をするな」
ギルバートにそう言われたカイルはこのままアイトと2人を合流させるのは何となく嫌な予感がした。
「‥‥‥さっきお前らと同じ制服を来た男女を見たぜ。たぶん森の外に出てる頃だ」
レスタ(アイト)が動きやすいようにと珍しく頭を使って嘘をついたカイル。
「なに!? アイトとポーラだ!! 本当か、って森の外!? あいつら、いつの間に」
「ってわけで早く行きな。ここは俺が引き受ける」
「わ、悪い。サンキューな!!」
ギルバートとクラリッサがまたもさっきの道を逆走する(本来進んでた方角へ走る)。
そしてカイルと一言も話さなかった人見知り健在のクラリッサを起き上がった魔族が攻撃を仕掛ける。
カイルはそれを素手で受け止め、ぶん投げた。
「邪魔を、するな!!!!!」
「お前が邪魔なんだよ!!!!」
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「クソッ!!! 誰の仕業だ!!!?」
アイトを狙っていたがオリバーの狙撃で撃ち落とされた魔族は憤慨していた。
「早くあの小娘を追わねば!!!」
「ゼェ、ゼェッ、ゴホッ、待ってくださいぃぃっ!!」
「zzz〜」
「あ!?」
魔族が後ろから聞こえた声の方へ振り向くと吐きそうになっている短い水色髪の少女とその背中で寝ている長い青髪の少女だった。
「なんだお前ら? ガキが邪魔をするな」
「ガキ!? 私今日酷いことしか言われてないぃっ!」
「死ねぇ!! 【ファイアフレイム】!」
魔族が手を前に出して魔法を発動。凄まじい威力の火属性魔法。
「うぎゃっっ!!」
奇声をあげてミストはなんとか避ける。火属性魔法が木にぶつかって音を立てて燃え始める。
「zzz‥‥‥んぁ、焦げ臭い。誰、眠り妨げたやつ」
アクアが機嫌悪そうに、ミストの背中で起きる。
「アクア!! あの人ですっっ!!」
ミストが魔族の方に顔を向ける。
「‥‥‥ふ〜ん、鬱陶しい。ミスト、下ろして」
ミストはそう言われてアクアを地面に下ろす。
「えい」
アクアが手から水を放出して燃えていた木を消火する。
「めんどくさいけど、生かしておく方がめんどくさい。めんどくさいけど始末するか〜。うざいし」
「ああ!? だから邪魔するなって言っただろうが!!」
アクアと魔族は、明らかな敵意をぶつける。
「ミスト、邪魔」
「はいいっっ!!」
そして、涙目のミストは一目散に離れていった。