む、武者震いってやつです
「ちょっと、これ本当に出られるの!?」
「とりあえず真っ直ぐ走れば外に出るだろ!」
「はぁ‥‥‥すっごく脳筋思想」
「いいだろうが別に!!?」
走りながら言い合いを繰り広げるギルバートとクラリッサ。
その2人の後を、アイトとポーラが追いかける。
「はあっ、はあっ、あの2人、大声出しながら走り続けるなんて、すごい、ですね」
「あの2人は運動オバケだからな」
「でも、アイトくんも息切れしてないですね。私だけ、体力ないです‥‥‥」
「!! そ、そんなことないぞ! 呼吸するタイミングを掴めてないだけだよ。気にするなって」
苦し紛れの理由を繕うアイト。そんな理由でもポーラは納得して元気になる。
「そ、そうですよね! これから努力すればいいですもんね!」
「そうそう。今は2人に置いていかれないように急ごう」
「はいっ!」
「ご、ごめんなさいぃぃ〜〜はぐれてしまいましたぁ」
数分後。
ポーラの速さに合わせることを意識していたアイトは、ギルバートとクラリッサが見えなくなっていることに気づくのが遅れた。
そしてポーラは前を見る余裕すらなかった。
「ま、まあ大丈夫だって。まっすぐ進めば2人に追いつくよ」
「アイトくん‥‥‥ありがとうございます。落ち込んでる暇があったら走った方がいいですよね!」
「うん。でも足ガクガクしてるけど‥‥‥?」
「これは、む、武者震いってやつです!」
足の震えが全く止まらないポーラが心配になるアイト。
(いざとなったら俺が担いで、!?)
「ポーラ伏せろ!!」
「えっ?」
アイトはポーラに向かって火の玉が飛んでくるのが見えた。
(間に合わない!)
「きゃっ!?」
アイトはポーラに向かって走り、覆い被さるようにして姿勢を低くする。
その直後にアイトたちの真上を火の玉が通り過ぎていった。
「あ、あの。ありがとうございます」
「逃げるぞ!!」
「きゃ! あ、あの!?」
必死になっているアイトはポーラの言葉が聞こえず彼女を抱き抱えて走り出した。
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引率の教員が1年生たちの実戦を観察しているとギルドに所属している1人に話しかけられる。
「あの!」
「ん? どうされました?」
「ここから先にある森の上空に、魔族がいました!」
「なに!? 上空に魔族がいた!? 確かですか!?」
「は、はい!」
「すぐに実戦を中断させます。
私は生徒たちを集めて点呼を取ります。
あなたはすみませんが王国に報告してください!」
「わかりました!!」
その後、魔族出現の知らせが王国内に届く。
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グロッサ王立学園内。昼休み。
1年生が魔物討伐でいないため食堂もかなり空いていた。
「‥‥‥(もぐもぐ)」
シロアは1人で昼食をとっていた。
「すいません! シロア・クロートさんはいますか!!」
1人の教員が慌てた様子で食堂に入り、シロアの名前を呼ぶ。
シロアの周りの席で食事していた生徒たちが一斉に彼女に視線を向ける。
「‥‥‥(もぐもぐ、ふう。?)」
食べ終わってごちそうさまのポーズをしているシロアはその視線に気づく。
「いた!!! クロートさん! 急いで学園長室に来てもらえますか!」
「‥‥‥(コクッ)」
トレーを片付けて学園室に向かうシロアだった。
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一方、カイルたち4人は。
「やべぇ! 早く見つけないとラルドに怒られるぞ!!」
「エリスさんに怒られてしまいます!! 早く見つけないと! レスタさんどこ!?」
「おやすみぃ〜」
「寝ようとしないで探しましょうよぉぉ!!?」
4人はアイトを見失って焦りまくっていた。眠たいだけの1人を除いて。
「ん? おいあれ! 魔族じゃねえか!?」
「‥‥‥本当ですね。森に向かって魔法を放っています」
「もしかして、あの狙われてる所にレスタがいるんじゃねえのか!?」
「そんなのわからないじゃないですか。根拠があって言ってます?」
感情派のカイルと理論派のオリバーは普段から全く話が合わない。
「根拠はねえ、勘だ!! そして俺の勘はよく当たる!! だから行くぞ!!」
「待ってください! 単独行動はダメですって!」
「zzz〜」
「なんで私が担がないと行けないんですかぁぁぁ!!」
身体能力が長所とは言えないオリバーと寝ているアクアを担いだミスト。
そんな2人では、全速力で突っ走る脳筋のカイルを止めることはできなかった。
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「おいクラリス!! なんか上から撃たれてねぇか!?」
「間違いなく魔法ね! ここからじゃ誰が撃っているか見えないけど!!」
ギルバートとクラリッサは凄まじい速さで今まで走ってきた方角を逆走しながら話をしていた。
「アイトたちを置いてっちまったし!! 上から魔法撃たれてるし! どうなってんだよ!」
「もしかしたら2人も上から狙われてるかもしれないわ、早く合流しないと!」
「ああ!!」
「そうはさせんぞ脳筋ども」
「「!?」」
急に声が聞こえると2人の前に魔族が現れて鋭い爪で横薙ぎに攻撃する。2人は互いに頷きあう。
クラリッサが杖で受け止め、その直後にギルバートが即座に背中の大剣を構えて斬りかかる。
だが魔族には空を飛んで避けられてしまった。
「クソッ!! きたねぇ!!」
「空を飛べないことを後悔したまえ」
魔族が嘲笑いそう言った直後、魔法を発動するのだった。
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「アクア!! 早く起きてくださいぃぃ!!」
ミストが走りながら泣き叫ぶ。
「アクアは一度寝るとなかなか起きませんからね‥‥‥仕方ない。アクア、すみません」
「あの!? ま、まさかぁぁぁ!!」
ミストと並走しているオリバーは拳銃を構える。
ダァァァンッッッ!!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
発砲音と同時に鳴り響くミストの絶叫。ミストは極度のビビリで、自分で銃を使えないほどである。
「‥‥‥んあっ。ミスト、うるさいっ」
アクアがとても機嫌悪そうに起きる。
「私が悪いんですかぁ!? 悪くないですよねぇ!?」
「アクア。あの森にレスタさんがいるか確かめてもらえませんか」
「命令なら聞かないー」
「命令じゃありませんよ? レスタさんのためです」
「‥‥‥はぁ、めんどくさ。あるじー」
アクアが手から大量の水を森にめがけて飛ばす。アクアの手から放たれた水はまるでロケットのように打ち上がる。
アクアは目を瞑る。しばらくその状態が続き、やがて目を開けた。
「‥‥‥いた。たぶん中央あたり。今からあるじに合図するー」
アクアは欠伸をした後、右手を掲げて水を放出するのだった。